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19 転生少女は過去の英雄に恋をする(2)
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朝。
街の教会から大きな鐘の音がする。たくさんの鳥達が羽ばたく。こんなに大きな鐘の音を聞いたのは初めてだ。何かのお祝いごとみたい。
ただ王様が通りすがるだけだというのに、まるでお祭りのようだった。
たくさんの出店には、ファーストフードめいたものや、雑貨、はたまたここぞとばかりに怪しい物を売ろうとする呪術屋のような店まである。たくさんの紙吹雪が入ったカゴが配られ、まだ王様の影も形もないというのに、早くもそこここに紙吹雪が舞い散っていた。
エマは、慌てて食事を取ると、ドレスに袖を通す。普段からリボンやフリルの多い服を着ていたが、今日のドレスは普段着よりもまた、幾分かキラキラしたものだ。
マリアがいつもよりも丁寧に髪を編み込む。
髪やドレスはガーベラで飾られ、いつになく華やか。
「ありがとう、マリア」
にっこりといつもの笑顔を見せたマリアにも、エマの顔がいつになく紅潮しているのが見て取れた。
「時間だね」
チェストの上に置かれた置き時計を、エマはじっと見た。
「お一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ライリーがいるし」
「できるだけ早く帰ってきてくださいね」
念を押すマリアに笑顔を向けると、玄関へ走った。
ガタガタと唸る馬車の音。何度も聞いた音だけれど、今日は小気味よい。
晴れた空の下。
街の中心街の手前で、馬車が止まる。
今日の中心街には、王の馬車が通るため、他の馬車は通行止めにしてある。
「あんまり遠くに行かないでくださいね」
とだけ言って、ライリーは御者台の上であくびをした。
一人で街を歩くのは初めてではないけれど、今日は特別人が多い。
特に今日は、いつも見かける騎士や魔術師ではなく、普通の格好をした人ばかり。
この町には、こんなにも人がいたのかと驚くほど溢れかえっている。
つい、黒髪の人に目がいく。いつものことだ。
ここはセラストリアだとわかってからは、どうしても探してしまっていた。
こんなところに、都合よくいるはずなんかないのに。
ゲームと同じ歳かもしれない、エマと同じ年頃かもしれない、なんて思いながら。
騒つく街の中。
どうやら真ん中に馬車が通る道を空けているみたいだ。
背伸びをしても大人の頭ばかりで周りを見渡すことができないので、人の隙間を覗き見る。
「ちょっとごめんなさい」
体の小ささを使って、隙間をちょこちょこと通り過ぎ、なんとか、馬車が見えそうなところまでたどり着いた。
立ち絵とどれだけ似ていて、どれだけ女神様のようなんだろう。
ドキドキする心臓を抑える。
イベントに参加するときみたいだ。イベントの開始を待つ、あの感じ。
背の高い建物の隙間から、青い空が見える。
倒れないように、足下の綺麗な石畳をしっかりと踏みつける。ぺったんこの靴をはいてきてよかった。
と、遠く、右側から、わあああああああああああと人々の歓声が聞こえた。
「王様ー!」「王妃様ー!」
沸きかえる人々。一際舞い散る花弁や紙吹雪。
弾けるような熱気。
馬車が、来たんだ。
そわそわと右側を眺める。
馬の蹄の音。馬車を囲む騎士達。
そして、金で飾られた、王家の馬車……。
「王妃様ーーーー!!」
周りの歓声が、一際大きくなった。
あれが、王妃様……。
王妃……様…………?
え………………?
◇◇◇◇◇
次回は、やっとお相手登場回です。
異世界ほのぼのラブコメです!
ここからもどうぞよろしくね!
街の教会から大きな鐘の音がする。たくさんの鳥達が羽ばたく。こんなに大きな鐘の音を聞いたのは初めてだ。何かのお祝いごとみたい。
ただ王様が通りすがるだけだというのに、まるでお祭りのようだった。
たくさんの出店には、ファーストフードめいたものや、雑貨、はたまたここぞとばかりに怪しい物を売ろうとする呪術屋のような店まである。たくさんの紙吹雪が入ったカゴが配られ、まだ王様の影も形もないというのに、早くもそこここに紙吹雪が舞い散っていた。
エマは、慌てて食事を取ると、ドレスに袖を通す。普段からリボンやフリルの多い服を着ていたが、今日のドレスは普段着よりもまた、幾分かキラキラしたものだ。
マリアがいつもよりも丁寧に髪を編み込む。
髪やドレスはガーベラで飾られ、いつになく華やか。
「ありがとう、マリア」
にっこりといつもの笑顔を見せたマリアにも、エマの顔がいつになく紅潮しているのが見て取れた。
「時間だね」
チェストの上に置かれた置き時計を、エマはじっと見た。
「お一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ライリーがいるし」
「できるだけ早く帰ってきてくださいね」
念を押すマリアに笑顔を向けると、玄関へ走った。
ガタガタと唸る馬車の音。何度も聞いた音だけれど、今日は小気味よい。
晴れた空の下。
街の中心街の手前で、馬車が止まる。
今日の中心街には、王の馬車が通るため、他の馬車は通行止めにしてある。
「あんまり遠くに行かないでくださいね」
とだけ言って、ライリーは御者台の上であくびをした。
一人で街を歩くのは初めてではないけれど、今日は特別人が多い。
特に今日は、いつも見かける騎士や魔術師ではなく、普通の格好をした人ばかり。
この町には、こんなにも人がいたのかと驚くほど溢れかえっている。
つい、黒髪の人に目がいく。いつものことだ。
ここはセラストリアだとわかってからは、どうしても探してしまっていた。
こんなところに、都合よくいるはずなんかないのに。
ゲームと同じ歳かもしれない、エマと同じ年頃かもしれない、なんて思いながら。
騒つく街の中。
どうやら真ん中に馬車が通る道を空けているみたいだ。
背伸びをしても大人の頭ばかりで周りを見渡すことができないので、人の隙間を覗き見る。
「ちょっとごめんなさい」
体の小ささを使って、隙間をちょこちょこと通り過ぎ、なんとか、馬車が見えそうなところまでたどり着いた。
立ち絵とどれだけ似ていて、どれだけ女神様のようなんだろう。
ドキドキする心臓を抑える。
イベントに参加するときみたいだ。イベントの開始を待つ、あの感じ。
背の高い建物の隙間から、青い空が見える。
倒れないように、足下の綺麗な石畳をしっかりと踏みつける。ぺったんこの靴をはいてきてよかった。
と、遠く、右側から、わあああああああああああと人々の歓声が聞こえた。
「王様ー!」「王妃様ー!」
沸きかえる人々。一際舞い散る花弁や紙吹雪。
弾けるような熱気。
馬車が、来たんだ。
そわそわと右側を眺める。
馬の蹄の音。馬車を囲む騎士達。
そして、金で飾られた、王家の馬車……。
「王妃様ーーーー!!」
周りの歓声が、一際大きくなった。
あれが、王妃様……。
王妃……様…………?
え………………?
◇◇◇◇◇
次回は、やっとお相手登場回です。
異世界ほのぼのラブコメです!
ここからもどうぞよろしくね!
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✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
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