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13 図書室(1)

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 それから2年が経った。

 エマは、5歳。

 窓からの明るい陽光の中、屋敷の中を一人歩いていた。
 ふわふわとした月の色のロングヘアーをハーフアップにしている。お嬢様らしく、膝丈のワンピースを着て。
 白をベースに水色を差し色として使ったワンピースは、爽やかさを醸し出す。

 屋敷は、思っていたよりも大きい。家族は少ないし、手が回らないことも多いので、手入れの行き届かない場所も多いけれど、比較的綺麗だ。
 こんなファンタジー世界の中でも、どちらかといえば、お金持ちの部類なんじゃないかと思う。

 今日は、生まれてからこのかた、会ったことがなかった父親が帰ってくる日だった。
 マリアも他のメイド達も忙しそうにしている。
 エマは、マリアが広い廊下の花瓶に花を生けているところを見つけた。
「マリア、ちょっといい?他の本が欲しいのだけど」

 手の中には、子供向けの本。とはいえエマは、5歳にしては難しい本を読めるようになっていた。まだ物語の類だけれど、読み書きは困らなくなってきていた。
 今持っているのは、小さな町の中で女の子が成長する物語だ。小学生あたりが読みそうなやつ。世界の名作感が漂う。

 異世界転生ものなら、一瞬で言葉がわかるようになったりするんじゃないの?

 少し不服に思うところだ。
 エマにはそんなファンタジーチート能力はないので、地道に言語を体得していくしかない。勉強はマリアが丁寧に教えてくれるので、それほど困ることもないけれど。

 マリアは花瓶に花を生けるのをやめて、エマの方へ振り向いた。
「ごめんなさい、お嬢様。今日はちょっと忙しくて」
 そう言うと、マリアは少し考え込んだ。
「お嬢様、読めなさそうな本は触らないとお約束できますか?」
「もちろん!」

 すかさず答える。
 図書室へも場所だけは知っているものの、入ったことはない。図書室から出してはいけない本がたくさんあるんだそうだ。
 それゆえ、エマは未だこの世界がどんな場所であるのかわかっていない。本を見れば国や都市について詳しく載る本もあるだろう。
「そう、ですね」
 う~ん、と一度考え込む。
「もう5歳ですものね!」
 そう言ってマリアは、ガッツポーズをつくる。

「いってきます」

 外廊下を歩く。
 こちらの方まで一人で来るのは初めてだ。
 風がそよぐ。
 必要以上に大きな古めかしい屋敷。煉瓦造りで、趣きはあるけれど。
 こうしていると、世界にひとりぼっちみたいだ。

 まだ自分でも、ここでどう生きていいのかわからない。身体は人間のペースでしか大きくならない。
 知らない世界。
 小さいままの身体。
 なぜか前世の記憶を持ったまま生まれ、ジークを心の支えにして、ただ、生きているだけ。

「大いなる、炎」

 呟く。

「きゃっ」

 後ろから、いかにもびっくりしたという声が聞こえた。

 ぐいっと後ろを振り向くと、メイドのルチアがそこにいた。
 元気そうに茶色の髪を揺らしている。
 まだ10代のようで、仕事をしていても元気さが漏れ出ている。

「お嬢様~。びっくりさせないでくださいよ」
 半泣きの顔でエマの方を見る。
 びっくり?
 何もしてないけど?
「そんな大魔術、発動しないとは分かっていても怖いじゃないですか~」

 …………大魔術?

「”大いなる炎“を、知ってるの?」



◇◇◇◇◇



やっと5歳になりました!
このお屋敷には、蔵書3万冊程度の図書室があります。
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