転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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8 屋敷の外(1)

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 3年が経った。

 あっという間の3年間。
 エマは3歳になっていた。
 日常的な会話に困らないくらいには、この国の言葉を覚えた。
 生まれ変わる以前のことは、思い出のような、ただの記憶のようなものに変わっていた。

 この部屋の中と、庭。まだこの家の外には出たことがない。それだけが生活の全て。
 それでも、エマの日常はすでにここになり変わっていた。

 段々と話せるようになってから、国名などのことを誰かに聞いてみようかと思ったけれど、3歳児とは思えないような会話をしてしまって怖がられたら……と思うと、そんなことは言い出せなかった。
 こんなにも小さく非力なのに、捨てられてしまえば生きてはいけない。そうすると、『メモアーレン』だってできなくなってしまうのだ。

 エマがいて、マリアがいて、母がいる。それと、二人のメイドさんに、庭師のお兄さん。それが、今の生活。
 3年も経っているのに、他に誰ともあったことがないというのは少し気がかりだったが。父も帰ってこられない仕事をしているようで、これといった来客もない。これも仕方がないことなのだろう。
 そこそこの数の本を読んだが、子供向けばかりで、一向に自分がいる国もわからないままだ。
 ちょっとした挿絵の多い本に、いくつかのぬいぐるみ、美味しいお菓子、走り回るのに最適な広い庭。
 遊ぶ時間、マリアによる勉強の時間。
 友達はいないなりに、3歳児としては、そこそこ恵まれた空間。

 それでも。
 それでも忘れられないものもある。
 ジークだ。

 あれ以来、画面でジークの姿を見ることはできなくなった。続きをやることも叶わず、ログを見ることもできない。グッズももう見ることができない。
 ただ、記憶の中にあるジークを、反芻しながら生きている。

 夕方になると、空を眺める。ジークの瞳は夕空色だ。金色の中に赤が射す。
 赤子ゆえのとろとろとした眠気の中で、ジークのことを思い出す。
 あなたがいるから私はここで生きているのだと。

 いつか、と思う。
 いつかスマホを手に入れることができたなら。
 いつかジークをまた見ることができたなら。

「うう~~~~!ごーーーー!!!」
 勢いをつけて走っていたせいで、ゴロゴロと庭を転がる。小さな丘になっている場所があるので、駆け回るとそのまま転がってしまうのだ。
 まだ3歳。足取りがおぼつかないからかもしれないし、まだ赤ん坊サイズで頭が大きいせいかも。

「あらあらお嬢様」
 マリアが後ろをひょこひょこと追いかけてくる。マリアもそれほど運動神経がいいとは言えない。
 ごてん、と空を見上げると、ああ、ジークのこんなイベントあったなぁなんて思ってしまう。
 ジークもこんな青い空を見上げたのだろうか。これほど、さっぱりとした気持ちになっただろうか。

「マリア~~~」
 手足をばたつかせ、マリアに助け起こしてもらう。
 季節は春。
 原っぱと花以外、特に何があるわけでもないが、それでも、空気のきれいないいところだ。
 街はずれにあるお屋敷らしく、敷地はとても広い。塀があるようだが、それはあまりにも遠く、小さなミニチュアのようだった。遠く、街が見える。ビルのようなものは見えないが、5階建て程度の大きな建物が並んでいるようだ。

「マリア、まちがあるよ」
 指をさす、と同時に、鳥の群れが羽ばたいて飛んで行った。

「ええ。そういえば、お嬢様は街を見たことがまだありませんでしたね」
「そうだよ」
 マリアは、エマを見てにっこりと笑った。



◇◇◇◇◇



マリアさんは、エマのお世話がメインですが、手の空いた時間には料理や掃除もやっています。
なんでもできそうな人ですが、運動は苦手みたいですね。
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