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6 異世界転生(2)

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 ……そんな、うまい話ないか。

 まだ苦笑なんてうまくできない顔なので、心の中で苦笑する。

 かなりやり込んだけど、こんな容姿のキャラクターは見た覚えがない。
 そもそも悪役令嬢らしいキャラなんていない。
『メモアーレン』の世界は、人間関係のドロドロもあるものの、どちらかといえば、脅威なのは翼竜の方なのだ。
 それに。
 日本人とはかけ離れた顔であるにも関わらず、顔がどことなく私に似ているのも気にかかる。中身がそうだからそう見えるのかもしれないけど。表情だけというわけでもない気がする。

「お嬢様」

 声をかけられる。
 正直、まだ何を言っているのか自信はないが、簡単な言葉はわかるようになってきた。

 鏡を見て、ため息をつく。
 振り返ろうとしたその時。

「エマお嬢様」

 呼ばれて、心の中が一瞬凍りつく。
 ううん、むしろ、温かくなったの間違い?
 心が騒つく。

 今、なんて言ったの?

「エマお嬢様、お食事の時間ですよ」
 いつもそばにいる女性が私のことをそう呼んで、抱き上げる。

「エマ」?

 私は、この女性……マリアに身を委ねる。
 この場合、乳母というのか侍女というのか。まだ会話を聞き取ることもままならないなりに、そういった類の女性だということをなんとか知ることができた。
 ワインレッドの布の多いワンピースを好んで着る女性。
 20歳くらいだろうか。
 優しくしてくれているし、嫌な感じはしない。

 エマ。

 呼ばれ慣れた私の名前。
 大学に通っていた時も、それより前も、私の周りの人は私のことを「えま」と呼んだ。
 神崎えま。それが私の生まれた時からの本名だった。
 死ぬ以前から、私の名前はエマだった。

 どこかのキャラクターに転生したとは思えない。
 これは“私”だ。
 夢だとも思えない。
 ここ数日暮らしてみて、私の全てが、ここに存在しているという実感をもたらしている。

 本当に異世界転生……?なんて思う。

 まさか。
 そんな都合よくゲームの世界に転生だなんて。
 海外のどこかなのかもしれない。
 どこかのお金持ちに生まれ変わったんだ。
 なんで転生する前のことを覚えているのかわからないけれど、前世の記憶というものなのかも。
 “魂”が同じだと、ここまで似た人間に生まれ変わるんだなぁ。
 そんな感想を抱いた。

 死んで、この場所に生まれたのだろうか。
 もうずっと、ここで生きないといけないのだろうか。
 家族らしい家族はいなかったけど、友達は居たのに。
 彼氏はいなかったけど、ジークが居たのに。
 あのグッズで埋めた部屋だって。

 それに。
『メモアーレン』……。

 ここには、スマホがない。
 スマホがないと、ゲームをすることはできない。
 スマホが存在するとしても、こんな赤ん坊にスマホが買い与えられるわけがない。

 画面の中のジークに会えない世界。

 知らない場所。
 知らない言葉。
 ジークのいない世界。

 私はどうして、こんな世界にいるのだろう。

 今の世界は、この部屋の中だけ。
 1日の大半をマリアという女性と過ごす。
 部屋の中に家電らしきものはない。テレビもラジオもない。それどころか、家具はアンティーク調のものばかり。
 そんな中で、ただ、なんとか会話を聞き取ろうと努力し、目に入るもの全てを観察する。
 それだけが全ての生活。それでも人生をまた始めることに、何か意味があるんだろうか。

 それでも、どうしてもまた死ぬという選択はできなくて、生き抜くために目と耳を駆使する以外に方法がなかった。
 ジークを想う。
 もう、ログさえ見れないとしても、私の心の支えは、ジークだけなんだ。



◇◇◇◇◇



エマちゃん、生前はあまりいい人生じゃなかったようですね。
恋愛ものなのでチート能力はありませんが、これから幸せになって欲しいですね!
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