抜剣少女は魔術教師に恋をする

大天使ミコエル

文字の大きさ
53 / 110

53 新しい場所(3)

しおりを挟む
 水の渦が落ち着いた時、シエロの手の中には、手のひら大のクマの氷細工が置かれていた。

「……え」
 ジークが、そして、ランドルフが、大魔術師が、驚きに目を見張る。
「ほうほうほう」
 大魔術師は面白そうにシエロの方へ近付いてきた。

「水を氷にできるのか……」
 ジークが呟いた。

 これこそが、シエロが開発した魔術だった。
 もし一人で生きていかないといけなくなった時、この氷細工を売ってお金を稼ごうと思ったのだ。
 この国には、幸い、水の魔術を扱える人間は多くとも、氷にできる人間は、シエロが知る限りではいない。

 スッとした顔で、見下した顔を作る。
「派手だからって、いいものじゃないだろ?繊細さがないとね」
「こいつ……」
 ジークが呆れた顔をした。

 大魔術師が、関心を持ってそのクマの氷細工をそっと手で触る。
「綺麗なものだな」
 そう言われ、ジークに向かってニッと笑うと、ジークが悔しそうな顔をした。
「こんのガキ……」

 やっぱり、たいしたことないんだ。この人達は。

「なんだったら、そのレベルに合わせてあげてもいいよ。僕と、対決する?」
 ジークの顔を下から見上げると、
「し・な・い」
 とジークが大きく口を動かしながら言う。

「じゃあ、こっちからいくよ!」
 杖を、構える。

「天上への贄」

 シエロが唱えると、杖の上に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
 地面に水が湧きだすと、キン、という音と共に、ジークの目の前に、天へ向かって尖った氷柱が突き上げた。
「うおっ」
 ジークが後ろへ飛び退る。

「ハッ……」
 ジークが、吐き捨てるように笑った。
「兄弟子に攻撃しようなんて、生意気なガキだな」

「こんな子供の攻撃が当たるようじゃ、魔術師なんて辞めた方がいいんじゃないの?」

「炎天」

 ジークが唱えると、手に持った短剣の前に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
 差し出した手のひらの先に、大きな炎の柱が出現する。
 そのまま、手を握り込むと、炎が氷柱を取り込み、もともとそこに氷柱なんてなかったかのように、蒸発するように氷柱が消えてしまった。

「揺蕩い」

 続けて、ジークが静かに唱えた。
 ジークの短剣の前に魔法陣が現れ、そして弾けるように消える。
 とぷん、と何処かで小さな音がしたかと思うと、ジークとシエロの中心あたりから、炎の色をした波打つ地面が、驚く暇もなくどんどん広がっていく。
 それは紛れもない、炎でできた海だ。
 シエロの足元を過ぎる。

「あ……つっ!!」

 そんな……!こんな速さ、こんな量の炎、対応できない……!

 少しでも動けば、炎の海に飲み込まれる。

 まさか、本当に、殺しにくるなんて……!

 それでも、足を舐めるように近付く炎に、足がぐらつく。

「…………!」

 シエロは、バランスを崩し、後ろへと倒れてしまった。



◇◇◇◇◇



いつもの二人の最初の交流です。シエロくんが10歳、ジークが18歳。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...