少女と二千年の悪魔

大天使ミコエル

文字の大きさ
上 下
79 / 87
第四章

14歳の誕生日 1

しおりを挟む
 マリィは結局毎日、外を出歩いていた。なんだか、止めることができなかった。
 気が向いたときに歩き、気が向いたときに帰る。何かを探すわけでもなく、散歩に近い何かだ。誰もいない街を歩き、静まりかえった草原を見渡す。
 ただ、帰る場所が自室になった。エルリックの部屋で寝ることはもうできなかった。
 その日も自室に帰る、と、テーブルの上にスープにパンにチーズにと、ちょっとした食事が置いてある。マリィにはもう、その食事を拒否することはできなかった。屋敷にまでこだまする狼の声。この食事での繋がりがなければ、悪魔が生きているのかどうか知るすべがない。食事での繋がりはマリィにとって大切なものだった。
 そして、ここまで手間をかけて食事を作ってくれることが嬉しくもあった。味見ができるのか、食事自体も美味しい。
 悪魔は自分からは出てこない。
 特に、エルリックのことがあってからは、とりわけ姿を見せなくなっていた。
 けれどその日は、部屋に入ると、いつもと少しだけ様子が違った。
 長椅子の上に、1着のドレスが置いてある。ふわふわとしたフリルなどの飾りがついた空の色に近い青い少し豪華なドレス。確か、ワードローブにしまってあった新しいものだ。
 なんだろう、と思いながらも、悪魔が何か言いたいのかもしれない、ととりあえず着てみることにする。お風呂に入り、身だしなみを整える。久しぶりに鏡の前に腰を下ろし、髪を梳く。つい、身だしなみに自然と力が入ってしまう。
 ……こんなドレスだから。そう、こんなドレスだからだ。
 ドレスを着てしばらく待ってみたが、特に周りの様子は変わらない。
 ドレスなのだから、やはりホールだろうか。
 のんびりと足を運ぶ。
 ホールに入ってみたが、やはりそこにも悪魔の姿はなかった。
 ランタンを部屋の隅に置いて、ホールの真ん中まで歩く。ホールのランプにはあまり火を入れていない。大きな部屋の隅にあるランプ数カ所しか明かりがついていないので、どことなく暗い。それは心地よさでもある暗さだ。
 腕をあげ、ワルツの格好をする。
 こういう格好なら、やはりワルツだろう。
 目を閉じる。
 一人、くるりくるりとダンスをした。歌を歌いながら。
 ここに、悪魔が居ればいいのに。
 悪魔のことを考える。
 ダンスはできるだろうか。マロイ・カルレンスの絵本はダンスをする話だったから、きっとできるんだろう。庭で女の子と踊る悪魔の絵を思い出す。
 もっと一緒に居られればいいのに。
 その時、ふわりと風が吹いた。
 もし悪魔だったらと思うけれど、目を開けていなくなってしまったら、なんて考えてしまって、目を開けることが出来なかった。
 目を開けて、悪魔がいた時の、自分の反応も怖かった。何か違う感情が湧いてしまいそうだ。
 そういうわけで、マリィは目を閉じたまま、ワルツの格好でじっとした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...