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第三章
子供達 2
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アリシアは、公爵の位を戴いて、とても忙しそうにしていた。
なので、子供達の世話をしているのは主に、世話係と悪魔、それに時々サウスが参加するくらいだった。
世話係は大抵、屋敷にいるマロイと一緒にいて、一緒に本を読んでいた。悪魔は残りのやんちゃな子供達と遊ぶのが日課だ。
「うひゃあああああああ」
雪の上を滑るソリの上、マクスウェルが陽気な声で叫ぶと、ハリスも大きな声で笑った。
「あはははははは」
悪魔はソリを引く係だ。
ソリの紐を持ち、低く、どこまでも飛んでいく。すると、後にはソリでできた2本の線がどこまでも続いた。
「雪だるまを作ろうよ!」
「うん!」
子供達は2人で雪だるまを作り始める。悪魔はそれを眺めた。
特に疲れるわけでもなく、子育てに感動するわけでもない。未来を願うわけでもない。
ただ、これは楽しかった。アリシアの子供達が目の前で遊び、笑う。時には泣いて、時には怒る。その全てが新鮮だ。
まるで、気に入った本を読むときのような感覚。
時間をかけ、マクスウェルの倍もある雪だるまができた。少しだけ手伝ってやると、なかなかいい姿をしている。
雪だるまの両側に、自慢げに笑う二人の姿があった。
いい笑顔だ。
屋敷に帰ると、マロイと、困った顔の世話係が二人でベランダに出ていた。
2人の子供達をバスルームへ送ると、外からベランダに顔を出す。
「あ、悪魔さん。マロイが……雪景色をスケッチするって聞かなくて」
世話係は、困った顔で笑った。よく見ると、マロイは着膨れた姿でスケッチをしていた。
「マロイ……こうすれば、少しはマシでしょ」
マロイに風が当たらないよう、抱えて飛んだ。
「おぉー」
マロイが興奮気味に歓声を上げる。
さらに風が当たらないよう、壁にするために翼を広げた。
マロイはじっと、景色を眺め、そのままの姿を絵に収めていく。
「……きれいだね」
ふと、マロイがそんなことを言った。
その景色は、どこまでも知っているものだった。
ずっと一人で遠くまで見渡していた。
その真っ白な景色は、いつも以上に、自分が一人なのだと感じることができる、そんな景色だった。
けれど、今は一人ではない。
「そうだね」
一人ではない景色も、やはり綺麗には違いなかった。
「春になったら、春の絵をかくんだ」
手を動かしたまま、マロイが言った。
スケッチを見ると、この年頃の子供にしては緻密な、暖かみのある絵に仕上がっていた。
「マロイは絵が上手いから、きっと春も綺麗に描ける」
言われた途端、「ふふっ」と得意げな顔になる。
「マクスウェルも、ハリスもかくんだ。それから、あくまも」
「……僕も?」
知っている限り、悪魔が誰かに描かれたことはなかった。どんな風に受け止めればいいのだろう。
少し考えた末に、ただ一言だけこう言った。
「楽しみだな」
なので、子供達の世話をしているのは主に、世話係と悪魔、それに時々サウスが参加するくらいだった。
世話係は大抵、屋敷にいるマロイと一緒にいて、一緒に本を読んでいた。悪魔は残りのやんちゃな子供達と遊ぶのが日課だ。
「うひゃあああああああ」
雪の上を滑るソリの上、マクスウェルが陽気な声で叫ぶと、ハリスも大きな声で笑った。
「あはははははは」
悪魔はソリを引く係だ。
ソリの紐を持ち、低く、どこまでも飛んでいく。すると、後にはソリでできた2本の線がどこまでも続いた。
「雪だるまを作ろうよ!」
「うん!」
子供達は2人で雪だるまを作り始める。悪魔はそれを眺めた。
特に疲れるわけでもなく、子育てに感動するわけでもない。未来を願うわけでもない。
ただ、これは楽しかった。アリシアの子供達が目の前で遊び、笑う。時には泣いて、時には怒る。その全てが新鮮だ。
まるで、気に入った本を読むときのような感覚。
時間をかけ、マクスウェルの倍もある雪だるまができた。少しだけ手伝ってやると、なかなかいい姿をしている。
雪だるまの両側に、自慢げに笑う二人の姿があった。
いい笑顔だ。
屋敷に帰ると、マロイと、困った顔の世話係が二人でベランダに出ていた。
2人の子供達をバスルームへ送ると、外からベランダに顔を出す。
「あ、悪魔さん。マロイが……雪景色をスケッチするって聞かなくて」
世話係は、困った顔で笑った。よく見ると、マロイは着膨れた姿でスケッチをしていた。
「マロイ……こうすれば、少しはマシでしょ」
マロイに風が当たらないよう、抱えて飛んだ。
「おぉー」
マロイが興奮気味に歓声を上げる。
さらに風が当たらないよう、壁にするために翼を広げた。
マロイはじっと、景色を眺め、そのままの姿を絵に収めていく。
「……きれいだね」
ふと、マロイがそんなことを言った。
その景色は、どこまでも知っているものだった。
ずっと一人で遠くまで見渡していた。
その真っ白な景色は、いつも以上に、自分が一人なのだと感じることができる、そんな景色だった。
けれど、今は一人ではない。
「そうだね」
一人ではない景色も、やはり綺麗には違いなかった。
「春になったら、春の絵をかくんだ」
手を動かしたまま、マロイが言った。
スケッチを見ると、この年頃の子供にしては緻密な、暖かみのある絵に仕上がっていた。
「マロイは絵が上手いから、きっと春も綺麗に描ける」
言われた途端、「ふふっ」と得意げな顔になる。
「マクスウェルも、ハリスもかくんだ。それから、あくまも」
「……僕も?」
知っている限り、悪魔が誰かに描かれたことはなかった。どんな風に受け止めればいいのだろう。
少し考えた末に、ただ一言だけこう言った。
「楽しみだな」
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