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第三章
子供達 1
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長男マクスウェル7歳、次男マロイ4歳、長女ハリス2歳、それがアリシアとサウスの子供達だ。
仕事も増え、屋敷の人間も増え、町の人間も増えた。
噂になることも、人間と関わりを持つことも避けようと、出来る限り自分の存在を知られぬよう努めた。
「ぷいん」
「今、作ってるよ」
ハリスにせっつかれたので、何度目かの返事をする。返事をするときに、獣のような口が、少しだけ開いた。
プリンを作るのはいいけれど、まだ卵を混ぜている最中だ。プリンの形になるのはまだまだ先。
その時ハリスが「にゃーちゃ」と、不可解な言葉を口にし、ん?と思ったが最後、料理人のロバートが叫んだ。
「あっ、ハリスお嬢ちゃんが……!」
ふと見ると、ハリスはすでにそこにはいなくなっていて、裏庭へ続く扉だけがバンと音を立て、閉まるところだった。
「猫、か」
なんて悠長なことを言っていると、ロバートがまた叫ぶ。
「悪魔さん、プリンは私が作っておきますんで、お嬢ちゃんを……!」
「…………」
確かに町までいかれると厄介だ。仕方なく、扉をくぐり、ハリスを追った。
ハリスは予想通り黒猫を追いかけていた。
「ハリース」
呼びかけるが、聞こえていないようだ。
黒猫が裏の塀に飛び乗ったので、ハリスが「あっ」と言いながら裏門へ走っていく。
「戻ろう、ハリス」
残念なことに、裏門は開きっぱなしになっていた。今日は、庭師が入る日だ。何か作業中なんだろう。
浮いたままでふんわりと後ろを追いかける。
裏門を出ると、黒猫は町の方へ走っていくところだった。誰かに飼われている猫だろう。
「にゃーちゃ……!」
そう叫ぶと、ハリスはわーっと駆け出していった。
無理やり捕まえてもいいのだが、町にさえ行かなければ特に捕まえる必要も泣かせる必要もない。
猫もハリスにいいように扱われる気はないようで、猫とハリスの追いかけっこは続いた。
けれど、2歳児が猫に追いつけるはずもなく。
草原の上で、ひとりぼっちになり、ハリスがぼーぜんとしたところで、悪魔はハリスの腕を引き上げた。
「あそこにいるよ」
手で包むように抱き上げると、空を飛んで、二人で猫を追いかけた。
猫を捕まえる気はないので、軽く追いかけただけだけれど、なんだか笑えてきた。
「フッ……」
「あくま、おもしろーい?」
「そうだね。楽しいよ」
「ふっふふふふ」
ハリスは本当に、嬉しそうに笑う子供だった。
「あっ!にいたーん!」
下を見ると、緩やかな坂で遊んでいるマクスウェルを見つけた。マクスウェルもこちらに気がついて、手を振った。
翼をはためかせ近づくと、マクスウェルが飛びついて来た。
「にいたーん!」
「危ないよ」
「うししし」
注意してみるものの、マクスウェルは笑ってばかりだった。
きゃあきゃあ大騒ぎの二人の子供を抱え、屋敷へ戻る。
屋敷へ戻ると、世話係に連れられたマロイがにっこりと笑いかけてくれた。マロイは父親に似たのか、少し気弱な少年だ。
一人でいた時には、まさか自分が人間の子供と関わる日が来るなんて思ってもみなかった。
人間は弱い。
きっとまたこの場所で最後には一人になってしまうだろう。
けれどその日までは、こんな毎日も悪くない。
仕事も増え、屋敷の人間も増え、町の人間も増えた。
噂になることも、人間と関わりを持つことも避けようと、出来る限り自分の存在を知られぬよう努めた。
「ぷいん」
「今、作ってるよ」
ハリスにせっつかれたので、何度目かの返事をする。返事をするときに、獣のような口が、少しだけ開いた。
プリンを作るのはいいけれど、まだ卵を混ぜている最中だ。プリンの形になるのはまだまだ先。
その時ハリスが「にゃーちゃ」と、不可解な言葉を口にし、ん?と思ったが最後、料理人のロバートが叫んだ。
「あっ、ハリスお嬢ちゃんが……!」
ふと見ると、ハリスはすでにそこにはいなくなっていて、裏庭へ続く扉だけがバンと音を立て、閉まるところだった。
「猫、か」
なんて悠長なことを言っていると、ロバートがまた叫ぶ。
「悪魔さん、プリンは私が作っておきますんで、お嬢ちゃんを……!」
「…………」
確かに町までいかれると厄介だ。仕方なく、扉をくぐり、ハリスを追った。
ハリスは予想通り黒猫を追いかけていた。
「ハリース」
呼びかけるが、聞こえていないようだ。
黒猫が裏の塀に飛び乗ったので、ハリスが「あっ」と言いながら裏門へ走っていく。
「戻ろう、ハリス」
残念なことに、裏門は開きっぱなしになっていた。今日は、庭師が入る日だ。何か作業中なんだろう。
浮いたままでふんわりと後ろを追いかける。
裏門を出ると、黒猫は町の方へ走っていくところだった。誰かに飼われている猫だろう。
「にゃーちゃ……!」
そう叫ぶと、ハリスはわーっと駆け出していった。
無理やり捕まえてもいいのだが、町にさえ行かなければ特に捕まえる必要も泣かせる必要もない。
猫もハリスにいいように扱われる気はないようで、猫とハリスの追いかけっこは続いた。
けれど、2歳児が猫に追いつけるはずもなく。
草原の上で、ひとりぼっちになり、ハリスがぼーぜんとしたところで、悪魔はハリスの腕を引き上げた。
「あそこにいるよ」
手で包むように抱き上げると、空を飛んで、二人で猫を追いかけた。
猫を捕まえる気はないので、軽く追いかけただけだけれど、なんだか笑えてきた。
「フッ……」
「あくま、おもしろーい?」
「そうだね。楽しいよ」
「ふっふふふふ」
ハリスは本当に、嬉しそうに笑う子供だった。
「あっ!にいたーん!」
下を見ると、緩やかな坂で遊んでいるマクスウェルを見つけた。マクスウェルもこちらに気がついて、手を振った。
翼をはためかせ近づくと、マクスウェルが飛びついて来た。
「にいたーん!」
「危ないよ」
「うししし」
注意してみるものの、マクスウェルは笑ってばかりだった。
きゃあきゃあ大騒ぎの二人の子供を抱え、屋敷へ戻る。
屋敷へ戻ると、世話係に連れられたマロイがにっこりと笑いかけてくれた。マロイは父親に似たのか、少し気弱な少年だ。
一人でいた時には、まさか自分が人間の子供と関わる日が来るなんて思ってもみなかった。
人間は弱い。
きっとまたこの場所で最後には一人になってしまうだろう。
けれどその日までは、こんな毎日も悪くない。
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