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第三章
侵入者
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夜だった。
バチン!と大きな音がした。アリシアの部屋の窓だ。
ただし、屋敷の窓にはどこも障壁をつけてあるので、壊れる心配はない。
屋根の上へ出て、周りを見渡す。
見たことのない男が、屋敷のそばにある木に登っているのが見えた。どうやら、その男が矢で攻撃してきたもののようだった。
見渡して、他に仲間がいないことを確認し、後ろからその男に近づいた。
上から「わっ」と驚かすと、木から落ちそうになったので、足をつまんでぶら下げた。
アリシアの部屋からベランダへ出てきたのは、意外にもサウスだった。
「ふぅぇぇぇぇ」
アリシアの方は、怖がっているのか、不思議な声を出してサウスの後ろに控えていた。
「お……お……おばけ?幽霊?」
そーっと外を覗く。
すでに悪魔と同居していて、幽霊の何が怖いのか。
サウスは震えながらも、剣を構えて先陣を切ってきたのだった。
男の持っていた残りの矢を取り上げ、弓を振り落とすと、ベランダまで持っていく。ぶら下げたまま、二人の前に差し出した。
「……こいつが襲撃者なの?」
アリシアは、理解したと同時に態度を変えた。
腰に下げていた鞄も振り落とし、中身をぶちまける。
アリシアは、一つ金でできたメダルのようなものを見つけ、拾い上げる。
「これは……、ロイ商会の……」
商会の人間であるという証になるメダルだった。今なら、アリシアをやってしまえば、地主になれるとでも思ったのだろう。
「問題ないならこのまま処分するよ」
「…………問題ないわ」
そのまま、意識を手放したその侵入者を、ぱくりと食べてしまう。
「…………」
アリシアとサウスの二人に少し、暗い影がよぎった。
しかしそれも一瞬で、アリシアの目が、柔らかくなる。
アリシアは、サウスに向き直った。
「勇敢だったわね、サウス」
「……はい、アリシア様のためなら」
「ありがとう」
アリシアは、真っ直ぐにサウスを見た。
悪魔はぼんやりと、アリシアとサウスを眺めた。
それから何ヶ月か経った頃。
サウスはアリシアと、小さな庭にいた。
雑草のような花が大量に咲き乱れ、ツタだらけだったところをサウスが少し手入れした場所だ。
サウスには庭いじりのセンスも知識もあまり持っていなかったが、それでも手を入れないよりはマシといった風情だった。
「アリシア様。あなたは……悪魔と……一緒にいたいのでは……」
「…………」
うつむいて沈黙したあと、アリシアは聞き取れないほどの小さな声を出した。
「……そんなわけ…………ないじゃない…………」
うつむいた顔は、まるで苦いものを口にしたような顔をしていた。
嘘が嫌いなアリシアにとって、嘘の味はとても苦い。
「………」
サウスは少し寂しそうな顔をしたあと、アリシアの前にひざまずいた。
「じゃあ、わたしが求婚したら……、受け入れてもらえますか」
土がむき出しになっている地面で、膝が泥に汚れた。
「あ…………」
ちょっと寂しそうな顔をしたアリシアは、そのままの瞳でにっこりと笑った。
バチン!と大きな音がした。アリシアの部屋の窓だ。
ただし、屋敷の窓にはどこも障壁をつけてあるので、壊れる心配はない。
屋根の上へ出て、周りを見渡す。
見たことのない男が、屋敷のそばにある木に登っているのが見えた。どうやら、その男が矢で攻撃してきたもののようだった。
見渡して、他に仲間がいないことを確認し、後ろからその男に近づいた。
上から「わっ」と驚かすと、木から落ちそうになったので、足をつまんでぶら下げた。
アリシアの部屋からベランダへ出てきたのは、意外にもサウスだった。
「ふぅぇぇぇぇ」
アリシアの方は、怖がっているのか、不思議な声を出してサウスの後ろに控えていた。
「お……お……おばけ?幽霊?」
そーっと外を覗く。
すでに悪魔と同居していて、幽霊の何が怖いのか。
サウスは震えながらも、剣を構えて先陣を切ってきたのだった。
男の持っていた残りの矢を取り上げ、弓を振り落とすと、ベランダまで持っていく。ぶら下げたまま、二人の前に差し出した。
「……こいつが襲撃者なの?」
アリシアは、理解したと同時に態度を変えた。
腰に下げていた鞄も振り落とし、中身をぶちまける。
アリシアは、一つ金でできたメダルのようなものを見つけ、拾い上げる。
「これは……、ロイ商会の……」
商会の人間であるという証になるメダルだった。今なら、アリシアをやってしまえば、地主になれるとでも思ったのだろう。
「問題ないならこのまま処分するよ」
「…………問題ないわ」
そのまま、意識を手放したその侵入者を、ぱくりと食べてしまう。
「…………」
アリシアとサウスの二人に少し、暗い影がよぎった。
しかしそれも一瞬で、アリシアの目が、柔らかくなる。
アリシアは、サウスに向き直った。
「勇敢だったわね、サウス」
「……はい、アリシア様のためなら」
「ありがとう」
アリシアは、真っ直ぐにサウスを見た。
悪魔はぼんやりと、アリシアとサウスを眺めた。
それから何ヶ月か経った頃。
サウスはアリシアと、小さな庭にいた。
雑草のような花が大量に咲き乱れ、ツタだらけだったところをサウスが少し手入れした場所だ。
サウスには庭いじりのセンスも知識もあまり持っていなかったが、それでも手を入れないよりはマシといった風情だった。
「アリシア様。あなたは……悪魔と……一緒にいたいのでは……」
「…………」
うつむいて沈黙したあと、アリシアは聞き取れないほどの小さな声を出した。
「……そんなわけ…………ないじゃない…………」
うつむいた顔は、まるで苦いものを口にしたような顔をしていた。
嘘が嫌いなアリシアにとって、嘘の味はとても苦い。
「………」
サウスは少し寂しそうな顔をしたあと、アリシアの前にひざまずいた。
「じゃあ、わたしが求婚したら……、受け入れてもらえますか」
土がむき出しになっている地面で、膝が泥に汚れた。
「あ…………」
ちょっと寂しそうな顔をしたアリシアは、そのままの瞳でにっこりと笑った。
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