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第三章
屋敷の主人 3
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その日も、アリシアは城の前で剣を構えたまま、そこに立っていた。
正直、悪魔もそれがどこまで続くのか面白がっている節があった。そうでもなければ、こう毎日来る前に食べてしまっていただろう。
アリシアは馬を降り、じっとドアの前で剣を構えていた。
それを面白がってしまったのが運の尽きというものだ。
つい、遊びたくなってしまったのだ。
つい、その二人を、食材ではなく、自分を楽しませるものと認識してしまった。
そして、悪魔はついにその姫に、声をかけた。
「あのさ」
「…………!」
頭のすぐ上から静かに声をかける。アリシアは飛び退り、距離を取った。サウスも、今にも腰を抜かしそうになっているが、剣を構える。
アリシアの顔が、険しくなる。
「僕には、勝てないと思うよ」
あと数十センチというところまで間合いを詰められたのがその証拠。
「貴方は、この城に住む悪魔ね?」
その悪魔の大きさにたじろぐのも束の間。低い位置で剣を構えたまま、凛々しさを増す。
「そうだけど?」
空中で腕組みをして二人を見下ろした。
「決闘を申し込むわ」
玄関前のレンガに、サウスから、カチャン、と剣が1本投げられた。
はぁ、なるほどね。人間は魔法が使えないから、降りてこいってわけだ。
「……ふぅん」
ニヤリ、と笑うと剣を拾う。
アリシアの前に立ち、刃を前に突き出した。
「来なよ」
「タアッ……!」
勢いがいいのも、一瞬のこと。その剣撃を刃で受け止め、前に押すと、アリシアはあっけなく転んだ。
チャキ……と剣を構え、アリシアの首筋に押し当てる。
「わかったかな?」
「……ぐっ」
空いた左手で、飛んできた小石を受け止める。
悪魔の気を逸らそうと、サウスが投げたものだが、何の効果もない。
「殺すなら……殺しなさい」
「アリシア様……!」
目を閉じるアリシアに、そんな気もなくした、と剣を突きつけるのをやめる。
遠くで、鳥が鳴いた。
一瞬たじろいだアリシアだったけれど、すっと立ち上がると、半泣きの顔で、それでも威勢のいい顔で悪魔を睨みつけた。
「こんな屈辱……許さない」
対等な決闘ならば、ここで命を取るべきだと、そう言った。
「アリシア……様……」
数歩遠くで、サウスがオロオロしている。
「私は、またここへ来る。今見逃したことを後悔しなさい」
そして、2人は馬に乗り、帰って行った。
本当に、威勢のいいことだ。
また来るような気がして、その2人の姿を鼻で笑って見送った。
それから、当たり前のように、3日に1度はアリシアはサウスを連れ、城へ決闘を申し込みに来た。
いつまで経っても一度の剣撃で勝負がついた。
けれど、アリシアは諦めず、悪魔もそれを楽しんだ。
悪魔は、のんびりした静かな毎日を好んだ。
けれど、たまにはこんな華やかな日々も悪くない。
そのうち人間は死んでしまい、また平穏な毎日がやってくる。
誰かと会話をする日々。それは、誰かがそこにいる日々だ。
正直、悪魔もそれがどこまで続くのか面白がっている節があった。そうでもなければ、こう毎日来る前に食べてしまっていただろう。
アリシアは馬を降り、じっとドアの前で剣を構えていた。
それを面白がってしまったのが運の尽きというものだ。
つい、遊びたくなってしまったのだ。
つい、その二人を、食材ではなく、自分を楽しませるものと認識してしまった。
そして、悪魔はついにその姫に、声をかけた。
「あのさ」
「…………!」
頭のすぐ上から静かに声をかける。アリシアは飛び退り、距離を取った。サウスも、今にも腰を抜かしそうになっているが、剣を構える。
アリシアの顔が、険しくなる。
「僕には、勝てないと思うよ」
あと数十センチというところまで間合いを詰められたのがその証拠。
「貴方は、この城に住む悪魔ね?」
その悪魔の大きさにたじろぐのも束の間。低い位置で剣を構えたまま、凛々しさを増す。
「そうだけど?」
空中で腕組みをして二人を見下ろした。
「決闘を申し込むわ」
玄関前のレンガに、サウスから、カチャン、と剣が1本投げられた。
はぁ、なるほどね。人間は魔法が使えないから、降りてこいってわけだ。
「……ふぅん」
ニヤリ、と笑うと剣を拾う。
アリシアの前に立ち、刃を前に突き出した。
「来なよ」
「タアッ……!」
勢いがいいのも、一瞬のこと。その剣撃を刃で受け止め、前に押すと、アリシアはあっけなく転んだ。
チャキ……と剣を構え、アリシアの首筋に押し当てる。
「わかったかな?」
「……ぐっ」
空いた左手で、飛んできた小石を受け止める。
悪魔の気を逸らそうと、サウスが投げたものだが、何の効果もない。
「殺すなら……殺しなさい」
「アリシア様……!」
目を閉じるアリシアに、そんな気もなくした、と剣を突きつけるのをやめる。
遠くで、鳥が鳴いた。
一瞬たじろいだアリシアだったけれど、すっと立ち上がると、半泣きの顔で、それでも威勢のいい顔で悪魔を睨みつけた。
「こんな屈辱……許さない」
対等な決闘ならば、ここで命を取るべきだと、そう言った。
「アリシア……様……」
数歩遠くで、サウスがオロオロしている。
「私は、またここへ来る。今見逃したことを後悔しなさい」
そして、2人は馬に乗り、帰って行った。
本当に、威勢のいいことだ。
また来るような気がして、その2人の姿を鼻で笑って見送った。
それから、当たり前のように、3日に1度はアリシアはサウスを連れ、城へ決闘を申し込みに来た。
いつまで経っても一度の剣撃で勝負がついた。
けれど、アリシアは諦めず、悪魔もそれを楽しんだ。
悪魔は、のんびりした静かな毎日を好んだ。
けれど、たまにはこんな華やかな日々も悪くない。
そのうち人間は死んでしまい、また平穏な毎日がやってくる。
誰かと会話をする日々。それは、誰かがそこにいる日々だ。
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