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第二章
図書館 2
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少女は、改めて書斎へと足を踏み入れた。
2000年もそのままの書斎なのだろうか。さすがにこんなに簡単に手を取れる本がそんな古い本なわけもないと思ったけれど、魔力を使えばやはり本も保存できるようになるのかもしれない。手で触れれば壊れてしまいそうな本もある。
当時の歴史の本や、マクスウェルが読んでいただろう本の中に、本人の手記もある。
古い本なら、悪魔に関することもどこかにあるかもしれない。
図書館の必要性と街の発展について……、王都の治水……。
絵本も何冊かあるようだった。
数ある本の中に、手書きの本がまじっているのが気になった。ここにあるということは、読んでもいい本なのだろう。そっと取って、デスクの上に置き、慎重に開く。
「5月2日」
どこのページも日付から始まる。どうやら、日記のようだった。
「妹が物語を書き始めた。最初の数ページができたというので、母と弟と一緒に聞かせてもらった。妹が別の世界へ迷い込んでしまう話で……」
ありきたりな幸福な日常が書いてあるようだ。パラパラと見た感じ、10代か20代くらいの頃なのだけれど、その日記帳もそこから2冊しかないことが気になった。
最後の日記帳をそっと手に取り、最後のページを開く。
「母、アリシアが亡くなった」
最後の日は、母親が死んだ日のようだった。
「母は、18の時にこの土地に城を見つけた。それから40年。この地でその生を終え……」
そして、最後のページには、殴り書きでこう書いてあった。
「あいつが……!僕は見てしまった。あいつが……母さんを……!」
あいつ?
なんとなく気になり、他の日記帳も読んでみようと手を伸ばす。
その瞬間、遠くで鐘が鳴る音が聞こえた。
もうそんな時間なのだ。
そこから読むのをやめて、屋敷へ戻った。
バスタブにお湯をはり、じっとつかる。
「…………」
図書館はやはり広い。悪魔の話は時間をかけなくては見つかりそうにない。
じっとお湯の中でうずくまる。
バスタブのお湯がゆらゆらしているのが見える。
自分が見たものだけで、考えるしかない。
久しぶりに見た悪魔はどうだった?
自分に問う。
厨房の悪魔を思いかえし、深呼吸をした。
やはり、どう思い返しても異形のものだ。人を食べる。仲良くできる何かだとは思えない。けれど。
でも。
でも。
でも。
少女は気づいていた。
あの悪魔は、なにもしてこない。
傷つけてこない。
それどころか……。
「…………」
なにかを振り払うようにざばっと立ち上がると、バスタブのお湯が波打った。
エルリックの部屋へ向かう。
エルリックには特に変わった様子はない。テーブルの上には相変わらず、冷めたスープが乗っているのが見えた。
立ったままじっとエルリックの様子を見た。
変わりない。
変わりない。
「エルリックは変わらないね」
膝をついて、エルリックの手を握った。目を閉じる。
じっと目を閉じる。
何かを祈るように。
2000年もそのままの書斎なのだろうか。さすがにこんなに簡単に手を取れる本がそんな古い本なわけもないと思ったけれど、魔力を使えばやはり本も保存できるようになるのかもしれない。手で触れれば壊れてしまいそうな本もある。
当時の歴史の本や、マクスウェルが読んでいただろう本の中に、本人の手記もある。
古い本なら、悪魔に関することもどこかにあるかもしれない。
図書館の必要性と街の発展について……、王都の治水……。
絵本も何冊かあるようだった。
数ある本の中に、手書きの本がまじっているのが気になった。ここにあるということは、読んでもいい本なのだろう。そっと取って、デスクの上に置き、慎重に開く。
「5月2日」
どこのページも日付から始まる。どうやら、日記のようだった。
「妹が物語を書き始めた。最初の数ページができたというので、母と弟と一緒に聞かせてもらった。妹が別の世界へ迷い込んでしまう話で……」
ありきたりな幸福な日常が書いてあるようだ。パラパラと見た感じ、10代か20代くらいの頃なのだけれど、その日記帳もそこから2冊しかないことが気になった。
最後の日記帳をそっと手に取り、最後のページを開く。
「母、アリシアが亡くなった」
最後の日は、母親が死んだ日のようだった。
「母は、18の時にこの土地に城を見つけた。それから40年。この地でその生を終え……」
そして、最後のページには、殴り書きでこう書いてあった。
「あいつが……!僕は見てしまった。あいつが……母さんを……!」
あいつ?
なんとなく気になり、他の日記帳も読んでみようと手を伸ばす。
その瞬間、遠くで鐘が鳴る音が聞こえた。
もうそんな時間なのだ。
そこから読むのをやめて、屋敷へ戻った。
バスタブにお湯をはり、じっとつかる。
「…………」
図書館はやはり広い。悪魔の話は時間をかけなくては見つかりそうにない。
じっとお湯の中でうずくまる。
バスタブのお湯がゆらゆらしているのが見える。
自分が見たものだけで、考えるしかない。
久しぶりに見た悪魔はどうだった?
自分に問う。
厨房の悪魔を思いかえし、深呼吸をした。
やはり、どう思い返しても異形のものだ。人を食べる。仲良くできる何かだとは思えない。けれど。
でも。
でも。
でも。
少女は気づいていた。
あの悪魔は、なにもしてこない。
傷つけてこない。
それどころか……。
「…………」
なにかを振り払うようにざばっと立ち上がると、バスタブのお湯が波打った。
エルリックの部屋へ向かう。
エルリックには特に変わった様子はない。テーブルの上には相変わらず、冷めたスープが乗っているのが見えた。
立ったままじっとエルリックの様子を見た。
変わりない。
変わりない。
「エルリックは変わらないね」
膝をついて、エルリックの手を握った。目を閉じる。
じっと目を閉じる。
何かを祈るように。
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