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第二章
雨の日 1
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鐘が鳴り、ランタンを掴むと、いつもと様子が違うことに気がついた。
「え……」
窓ガラスが、濡れている。しとしとと、雨が降っているようだった。
外は相変わらず夜だ。
それほど強い雨というわけではないけれど、夜が明けなくなってから雨が降るのは初めてだった。
ずっと変わらない夜だったから、勝手に同じ天気ばかりが続くのかと思っていた。
「これじゃ……」
外へ出るのは無理そうだ。これではすぐにびしょびしょになってしまうし、動くこともままならなくなってしまう。
エルリックが安らかに眠る姿を見やり、ランタンを掴むと部屋を出ていった。
ランタンの使い道があるわけではないが、夜が明けない世界では、ランタンがあるかどうかが命取りだ。どうしても、持たないわけにはいかなかった。
だからといって食事を取るでもない。
大きな扉の前に立ち、少女はその扉をそっと開けた。ホールには、誰もいなかった。あの悪魔も。ただ、白い床が続き聖剣と呼ばれた剣がまだ放り出されていた。
もしかしたら悪魔が居るんじゃないかと思っていたので、いくぶんかほっとする。
広いホールの真ん中で座り込んだ。
明かりは窓の外の星明かりのみ。薄っすらとした中に、白い床や窓枠が見える。
ガラスをなくした窓が視界いっぱいになる。窓の外は屋根があるので、雨が入ってくることはない。ただ、しとしとと降る雨が見える。雨が葉を叩く音が聞こえる。
いつもより多少寒いが問題はない程度だ。
ぼんやりと座った。
窓の外は暗く、時間の感覚はない。
ふと、背後に何かの気配がすることに気がついた。
黒い、何か。
ぼんやりと翼のような影が見えるところをみると、背中合わせに座っているのだろうか。
今度こそ食べられてしまうのかと思った。
それでも、ここの空気は静かだ。
「あなたが……皆を食べてしまったの?」
「…………」
しとしとと降る雨だけが聞こえる。
「僕は……誰でも食べるわけじゃない。誰も食べてないよ」
相変わらず、よく通るのに、聞きづらい声だ。
食べていないという言葉に、ほっとする自分に気がついた。こんなものの言葉を、どれだけ信じているというのだろう。
「皆を、何処かへ消してしまったの?」
雨が降っているせいだろうか、部屋の中はいつもより暗く感じる。
「皆は、僕が消した」
「…………」
ふんわりと視界が歪む。
静かな時間が過ぎた。突然、悪魔が口を開く。
「あのままだと、皆魔女に食べられてしまうところだったんだ」
……え?
魔女から……助けた?
「食べられてしまう前に……皆をこの街の外へ逃した」
「じゃあ……じゃあ……」
生きているのか聞こうとして言い淀んだ。じゃあどうして皆が戻って来ないのか。いつか戻ってくるのだろうか。
「けど……魔女の目を盗んで送らなくてはならなかった。何処まで飛んでしまったかわからない人もいる。どの時代に飛んでしまったかわからない人もいる。記憶を失ってしまった人も、いるかもしれない」
「…………」
黙るしか、なかった。
「え……」
窓ガラスが、濡れている。しとしとと、雨が降っているようだった。
外は相変わらず夜だ。
それほど強い雨というわけではないけれど、夜が明けなくなってから雨が降るのは初めてだった。
ずっと変わらない夜だったから、勝手に同じ天気ばかりが続くのかと思っていた。
「これじゃ……」
外へ出るのは無理そうだ。これではすぐにびしょびしょになってしまうし、動くこともままならなくなってしまう。
エルリックが安らかに眠る姿を見やり、ランタンを掴むと部屋を出ていった。
ランタンの使い道があるわけではないが、夜が明けない世界では、ランタンがあるかどうかが命取りだ。どうしても、持たないわけにはいかなかった。
だからといって食事を取るでもない。
大きな扉の前に立ち、少女はその扉をそっと開けた。ホールには、誰もいなかった。あの悪魔も。ただ、白い床が続き聖剣と呼ばれた剣がまだ放り出されていた。
もしかしたら悪魔が居るんじゃないかと思っていたので、いくぶんかほっとする。
広いホールの真ん中で座り込んだ。
明かりは窓の外の星明かりのみ。薄っすらとした中に、白い床や窓枠が見える。
ガラスをなくした窓が視界いっぱいになる。窓の外は屋根があるので、雨が入ってくることはない。ただ、しとしとと降る雨が見える。雨が葉を叩く音が聞こえる。
いつもより多少寒いが問題はない程度だ。
ぼんやりと座った。
窓の外は暗く、時間の感覚はない。
ふと、背後に何かの気配がすることに気がついた。
黒い、何か。
ぼんやりと翼のような影が見えるところをみると、背中合わせに座っているのだろうか。
今度こそ食べられてしまうのかと思った。
それでも、ここの空気は静かだ。
「あなたが……皆を食べてしまったの?」
「…………」
しとしとと降る雨だけが聞こえる。
「僕は……誰でも食べるわけじゃない。誰も食べてないよ」
相変わらず、よく通るのに、聞きづらい声だ。
食べていないという言葉に、ほっとする自分に気がついた。こんなものの言葉を、どれだけ信じているというのだろう。
「皆を、何処かへ消してしまったの?」
雨が降っているせいだろうか、部屋の中はいつもより暗く感じる。
「皆は、僕が消した」
「…………」
ふんわりと視界が歪む。
静かな時間が過ぎた。突然、悪魔が口を開く。
「あのままだと、皆魔女に食べられてしまうところだったんだ」
……え?
魔女から……助けた?
「食べられてしまう前に……皆をこの街の外へ逃した」
「じゃあ……じゃあ……」
生きているのか聞こうとして言い淀んだ。じゃあどうして皆が戻って来ないのか。いつか戻ってくるのだろうか。
「けど……魔女の目を盗んで送らなくてはならなかった。何処まで飛んでしまったかわからない人もいる。どの時代に飛んでしまったかわからない人もいる。記憶を失ってしまった人も、いるかもしれない」
「…………」
黙るしか、なかった。
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