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第一章
始まりの日 1
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その日はマリィの誕生日だった。
爽やかな雲が流れる明るい日で、誰もが明るい気持ちになれそうな日だった。
朝早く起きてベッドで軽い朝食を取ると、マリィはワインレッドのドレスに着替える。今日は沢山の人に会う、まごうことなき舞踏会の日だ。
ドレスに着替えて、いつも通りエミルに髪を整えてもらう。
今日はドレスに合わせた大きな赤いリボンを付けてもらった。
「マリィ様、お誕生日おめでとうございます」
エミルが優しく髪を整える。エミルももうマリィの世話を始めて6年になる。誕生日を迎えたマリィを見る優しい目は、まるで姉のようだ。
鏡を眺めた。さすがに突然大人になれるわけではないけれど、12歳。12歳といえば、もう子供ではないんじゃないだろうか。
お気に入りのドレスにお気に入りの髪型。
今日が素敵な日にならないわけがないわ。
ワルツがうまく踊れるか確認するために、部屋の中で、くるくると回った。エミルがにこやかに笑っている。1日の始まりだ。
ラウンジに入ると、父と母がマリィを待ち構えてくれていた。飛びっきりの正装で、父も今日は剣を携えている。
「やあ!素敵なレディ!誕生日おめでとう!!」
「ああ、マリィ。誕生日おめでとう。もうあなたも12歳なのね」
抱きしめられると、幸せで胸が苦しくなる。
当たり前の毎日が、当たり前じゃなくなることもあるだろう。例えば、結婚で家を出たりだとか……。
ひとしきり抱きしめられたあと、父、母に続いて、挨拶をしてまわった。ほとんどが街の外から来た貴族で、今日の誕生日パーティーのお客様達だ。皆、おめでとうを言ってくださるし、レディらしくなったと口々に褒めてくださる。
昼食も、ご挨拶がてら叔母と母と取ることになっていた。今日の昼食は、大きな窓の外に鮮やかな色に染まった緑が一面に見えるサンルームで取ることになっていた。
「ごきげんよう、叔母様」
「あらあら、かわいいレディになって……」
光の加減か、瞳が潤んでいるように見える。
サンルームは晴れているおかげで部屋中にキラキラとした光が煌めいていた。緑の輝きが増す季節。いくつかの木々が葉をさらさらとなびかせ、足元には赤や紫の花がほころんでいる。
いつもうっとりとした顔をする叔母だけれど、今日は一際……一際喜んでくれているみたいだった。
テーブルには料理長が作ってくれたチキンソテーにパン。そして美味しそうなオレンジジュースなどなど。いつも以上に上品な品が並ぶ。マリィも、その料理達に引けを取らないようにといそいそとテーブルについた。
年齢はどうあれ、女性が3人も寄れば、明るい声がこだまする。
叔母はマリィに1冊の本をくれた。誕生日にと。少し大人っぽい内容の本で、ロマンチストな叔母らしい。
午後も、ざわつき始めた使用人達と、次第に増えてくるお客様達の間を行ったり来たり。
そうこうするうちに、パーティーが始まる時間になった。
今日の主催はマリィなのだから、皆が集まれば、マリィが挨拶をしなくてはいけない。
ガチャ、とマリィはホールのドアを開けた。
爽やかな雲が流れる明るい日で、誰もが明るい気持ちになれそうな日だった。
朝早く起きてベッドで軽い朝食を取ると、マリィはワインレッドのドレスに着替える。今日は沢山の人に会う、まごうことなき舞踏会の日だ。
ドレスに着替えて、いつも通りエミルに髪を整えてもらう。
今日はドレスに合わせた大きな赤いリボンを付けてもらった。
「マリィ様、お誕生日おめでとうございます」
エミルが優しく髪を整える。エミルももうマリィの世話を始めて6年になる。誕生日を迎えたマリィを見る優しい目は、まるで姉のようだ。
鏡を眺めた。さすがに突然大人になれるわけではないけれど、12歳。12歳といえば、もう子供ではないんじゃないだろうか。
お気に入りのドレスにお気に入りの髪型。
今日が素敵な日にならないわけがないわ。
ワルツがうまく踊れるか確認するために、部屋の中で、くるくると回った。エミルがにこやかに笑っている。1日の始まりだ。
ラウンジに入ると、父と母がマリィを待ち構えてくれていた。飛びっきりの正装で、父も今日は剣を携えている。
「やあ!素敵なレディ!誕生日おめでとう!!」
「ああ、マリィ。誕生日おめでとう。もうあなたも12歳なのね」
抱きしめられると、幸せで胸が苦しくなる。
当たり前の毎日が、当たり前じゃなくなることもあるだろう。例えば、結婚で家を出たりだとか……。
ひとしきり抱きしめられたあと、父、母に続いて、挨拶をしてまわった。ほとんどが街の外から来た貴族で、今日の誕生日パーティーのお客様達だ。皆、おめでとうを言ってくださるし、レディらしくなったと口々に褒めてくださる。
昼食も、ご挨拶がてら叔母と母と取ることになっていた。今日の昼食は、大きな窓の外に鮮やかな色に染まった緑が一面に見えるサンルームで取ることになっていた。
「ごきげんよう、叔母様」
「あらあら、かわいいレディになって……」
光の加減か、瞳が潤んでいるように見える。
サンルームは晴れているおかげで部屋中にキラキラとした光が煌めいていた。緑の輝きが増す季節。いくつかの木々が葉をさらさらとなびかせ、足元には赤や紫の花がほころんでいる。
いつもうっとりとした顔をする叔母だけれど、今日は一際……一際喜んでくれているみたいだった。
テーブルには料理長が作ってくれたチキンソテーにパン。そして美味しそうなオレンジジュースなどなど。いつも以上に上品な品が並ぶ。マリィも、その料理達に引けを取らないようにといそいそとテーブルについた。
年齢はどうあれ、女性が3人も寄れば、明るい声がこだまする。
叔母はマリィに1冊の本をくれた。誕生日にと。少し大人っぽい内容の本で、ロマンチストな叔母らしい。
午後も、ざわつき始めた使用人達と、次第に増えてくるお客様達の間を行ったり来たり。
そうこうするうちに、パーティーが始まる時間になった。
今日の主催はマリィなのだから、皆が集まれば、マリィが挨拶をしなくてはいけない。
ガチャ、とマリィはホールのドアを開けた。
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