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自然の中の小さな街のようだった。
オメガの保護施設が何種類も集まっているようで建物がいくつかあって、スーパーや服屋、飲食店などが入った商業施設なども建っているそう。
全国から集まるため、結構な数の人がいるらしい。
案内されて、僕が過ごす施設まで歩く。マンションのような大きな建物の中に入ると、入り口で腕時計のような物を渡された。
鍵になっていて、この街に入るのにもこの認証が必要で、それぞれ建物に入る時にも必要とのことだった。
僕のは母の口座に紐付けされているから買い物もこの時計でできるようになっていると言われた。
こんなに大きくなっても親に助けてもらわないと生きていかれないなんてみっともなくて申し訳ない。
荷物はお部屋に運んで置くからと言われ、まずは医師との面談とのことだった。
案内された小部屋はアロマが焚かれていて、オルゴールが鳴っている。
ノック音がして入ってきたのは小柄な男性だった。
「こんにちは。医師の田中です。今日は今後のケアを決めるために面談をしますね。」
返事ができないので頷くと、優しそうな瞳と目が合った。
「はいとかいいえ以外の返事はこのタブレットに入力して下さい。言いたくない事も悲しくなる事も聞いてしまうかもしれないけど、今後のために必要だから許してね。」
「番の解消を希望しないのはどうしてかな?」
悩みながら言葉を打ち込む。
ーもしかしたら、いつかは、そんな風に思うんです。あの状況で近くにいるのは手が届きそうですごく苦しかったけど、距離を置けば、彼を想うことくらい許されると思いました。
「発情期、辛くない?」
ー今よりもっと頭がおかしくなりそうで、悲しくて息ができません。でも、彼との繋がりを自分から断つなんて考えられません。
「番の解消をしないΩの子は、出来るだけ番に近いフェロモンを微量浴びることで容態が安定していくんだ。ここに居て解消を希望しない子はフェロモン治療を受ける子がほとんどなんだけど、どうする?フェロモン治療を受けないと抑制剤を処方するしかないんだけど、番がいるとあまり効かない子が多いんだ。」
ーフェロモン治療はどうやって受けるものですか?
「まず採血をして君の遺伝子を調べて、協力してくれるαのデータから合いそうなαに声をかけて専用の部屋に来てもらうんだ。そこで君と会って少しお話しする程度だよ。スタッフも近くに必ずいるし、そもそも変な身元の人は登録されてないから安心して。もし相性が悪ければすぐに退室するし、良ければ何回か来てもらって多少のスキンシップを取る事はあるけど、Ω側が希望する場合のみだよ。」
ー来るα側にメリットがなさそうですけど、どうしてきてくれるんですか?
「国もΩ保護に力を入れていてね、税金とかの優遇措置があるから金持ちが子供のαを差し出すのが一つと、αは実はいつまでも運命的なものを追い求める習性があるんだ。相性の良いΩは運命の可能性が高いから、来てくれるんだよ。ここは番の解消されたΩだけじゃなくて、貧しくて生活保護を受けたり、虐待から保護されたりした、色んな事情のΩが集まるから、その子達が希望すれば相性のいいΩにαも出会えるからね。あとは協力してますって言うのが会社のイメージアップにもつながるから、もっとΩの自立が進んでる海外に進出している会社の関係者は特に協力的かな。」
ーもし、番の解消を希望した場合はどういった治療になりますか?
「番の解消は体にすごく負担がかかるから、君の場合はまず体力を回復させてからになるかな。首の噛み跡からαの情報を確認してからになるけど、下位のαなら、投薬で解消できるよ。ただ、投薬中は酷く辛い思いはしないといけない。この時もフェロモン治療を併用する事で大分楽になるんだ。」
ー下位のαって何ですか?
「研究でわかってきた事なんだけど、αにはその性が強く出る人と弱く出る人といて、僕達はそれを上位と下位と呼んでいるんだ。君の相手はα名家の出身と聞いているから上位のαの可能性が高いと思う。そのα性の強さから上位のαから捨てられるとΩは身を滅ぼしやすいんだ。解消するにしてもしないにしても、フェロモン治療をして状態を安定させるべきだと僕は思うよ。」
ーわかりました。
「…その、……声はいつから…?」
ー出なくなったのは先々週くらいだと思います。あまりちゃんと覚えていません。
「……辛かったね。よく頑張ってここまで来たね。正直君の状態だと一刻も早くフェロモン治療を始めた方がいいと思うから、その方向で進めてもいいかな?」
こくりと頷いた。
オメガの保護施設が何種類も集まっているようで建物がいくつかあって、スーパーや服屋、飲食店などが入った商業施設なども建っているそう。
全国から集まるため、結構な数の人がいるらしい。
案内されて、僕が過ごす施設まで歩く。マンションのような大きな建物の中に入ると、入り口で腕時計のような物を渡された。
鍵になっていて、この街に入るのにもこの認証が必要で、それぞれ建物に入る時にも必要とのことだった。
僕のは母の口座に紐付けされているから買い物もこの時計でできるようになっていると言われた。
こんなに大きくなっても親に助けてもらわないと生きていかれないなんてみっともなくて申し訳ない。
荷物はお部屋に運んで置くからと言われ、まずは医師との面談とのことだった。
案内された小部屋はアロマが焚かれていて、オルゴールが鳴っている。
ノック音がして入ってきたのは小柄な男性だった。
「こんにちは。医師の田中です。今日は今後のケアを決めるために面談をしますね。」
返事ができないので頷くと、優しそうな瞳と目が合った。
「はいとかいいえ以外の返事はこのタブレットに入力して下さい。言いたくない事も悲しくなる事も聞いてしまうかもしれないけど、今後のために必要だから許してね。」
「番の解消を希望しないのはどうしてかな?」
悩みながら言葉を打ち込む。
ーもしかしたら、いつかは、そんな風に思うんです。あの状況で近くにいるのは手が届きそうですごく苦しかったけど、距離を置けば、彼を想うことくらい許されると思いました。
「発情期、辛くない?」
ー今よりもっと頭がおかしくなりそうで、悲しくて息ができません。でも、彼との繋がりを自分から断つなんて考えられません。
「番の解消をしないΩの子は、出来るだけ番に近いフェロモンを微量浴びることで容態が安定していくんだ。ここに居て解消を希望しない子はフェロモン治療を受ける子がほとんどなんだけど、どうする?フェロモン治療を受けないと抑制剤を処方するしかないんだけど、番がいるとあまり効かない子が多いんだ。」
ーフェロモン治療はどうやって受けるものですか?
「まず採血をして君の遺伝子を調べて、協力してくれるαのデータから合いそうなαに声をかけて専用の部屋に来てもらうんだ。そこで君と会って少しお話しする程度だよ。スタッフも近くに必ずいるし、そもそも変な身元の人は登録されてないから安心して。もし相性が悪ければすぐに退室するし、良ければ何回か来てもらって多少のスキンシップを取る事はあるけど、Ω側が希望する場合のみだよ。」
ー来るα側にメリットがなさそうですけど、どうしてきてくれるんですか?
「国もΩ保護に力を入れていてね、税金とかの優遇措置があるから金持ちが子供のαを差し出すのが一つと、αは実はいつまでも運命的なものを追い求める習性があるんだ。相性の良いΩは運命の可能性が高いから、来てくれるんだよ。ここは番の解消されたΩだけじゃなくて、貧しくて生活保護を受けたり、虐待から保護されたりした、色んな事情のΩが集まるから、その子達が希望すれば相性のいいΩにαも出会えるからね。あとは協力してますって言うのが会社のイメージアップにもつながるから、もっとΩの自立が進んでる海外に進出している会社の関係者は特に協力的かな。」
ーもし、番の解消を希望した場合はどういった治療になりますか?
「番の解消は体にすごく負担がかかるから、君の場合はまず体力を回復させてからになるかな。首の噛み跡からαの情報を確認してからになるけど、下位のαなら、投薬で解消できるよ。ただ、投薬中は酷く辛い思いはしないといけない。この時もフェロモン治療を併用する事で大分楽になるんだ。」
ー下位のαって何ですか?
「研究でわかってきた事なんだけど、αにはその性が強く出る人と弱く出る人といて、僕達はそれを上位と下位と呼んでいるんだ。君の相手はα名家の出身と聞いているから上位のαの可能性が高いと思う。そのα性の強さから上位のαから捨てられるとΩは身を滅ぼしやすいんだ。解消するにしてもしないにしても、フェロモン治療をして状態を安定させるべきだと僕は思うよ。」
ーわかりました。
「…その、……声はいつから…?」
ー出なくなったのは先々週くらいだと思います。あまりちゃんと覚えていません。
「……辛かったね。よく頑張ってここまで来たね。正直君の状態だと一刻も早くフェロモン治療を始めた方がいいと思うから、その方向で進めてもいいかな?」
こくりと頷いた。
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