積もるのは嘘と気持ちと

どんころ

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さあ旅立とうとした時だった。

急に幸せな匂いを感じる。
口で感じる味が僕のことを大切に思ってくれている人がいる事を教えてくれる。

脳に今までの記憶がなだれ込んでくる。

蓮くん…








気がついたら濡れていた目を開けると、ぼやっとした視界に戸惑う。

名前を呼ばれてようやく彼を見つけて口元が緩む。

「…れんくん。」

久しぶりに喋った言葉は小さく掠れていたけれど、それでも蓮くんには届いたのか、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「………おかゆさん、おいしい、ね?」
きっと今食べたお粥さんは蓮くんが作ってくれた1番美味しいお粥さん。
「…っ、うん、うん。もう少し食べる?」
と蓮くんが聞くので頷いた。
蓮くんがお粥さんを食べさせるためか少し体が離れた時、兄が床に膝をつき泣いているのが目に入る。

「…おにいさま…。」
思わず呟いた僕に、兄は謝ると顔を手で覆い隠した。

胸元のハンカチから片手をゆっくり離し、そっと兄の顔を覆う手に触れた。

兄も蓮くんも驚いた顔をした。
入院中は震えてしまっていたからだろうか。今はそんな震えはない。だってこの人は僕を助けてくれた人。

「…ありがとう……めいわくばかり、、ごめんなさい。」
なんとか絞り出すように言うと兄は両手で僕の手を手包みこんでくれた。
それ以上兄は言葉を発しなかったが、顔を見ると安心したのが伝わった。
いつもぶっきらぼうで強い口調の兄はきっと作り物で、本当はこんな優しい目で僕のことを見ててくれたのだろう。

蓮くんは残りのお粥さんを食べさせてくれて、兄はしばらくそれを眺めていたけれど、たくさん食べる僕の姿に安心したのか
「また来るよ」
と帰っていった。

少しして病院の先生がやってきて、診察をしてくれた。
特に問題ないし、戻ってこれてよかったねと頭を撫でられた。

先生を玄関まで送りに行ってた蓮くんがまた戻ってきて隣の椅子に座る。

「澪、本当に良かった。」
そう言って手を繋ぐ蓮くんに微笑み返す。

「僕も、また蓮くんに会えて嬉しい。」

少しするとまた瞼が重くなってきてウトウトしていると、
「寝ていいよ」
と頭を撫でられる。

「蓮くんはどこで?」
「今日は心配だからここに座ってるよ。ゆっくり寝てね。」
「体痛くなっちゃうよ?」
「大丈夫。」
「蓮くん、嫌じゃなかったら一緒に寝よ?」
と少し詰めて布団をめくった。

「え!?」
驚いた様子の蓮くんはしばらく考え込んでいたが、繋いでいた手を引っ張ると観念したように布団に入ってきた。

向かい合わせで転がり、胸板に擦り寄るように蓮くんに近づくと恐る恐る背中に手を回された。

「ふふふ。これ、すごく安心するね?」
そう言って少し体を離して蓮くんの顔を見上げると、
「澪が安心するならいつだってこうするよ。」
と微笑まれた。

安心しきってそのまま目を閉じた。
















何か寒気のようなものを感じて目を覚ますと、隣にいたはずの蓮くんの姿が見当たらない。
寝起きでぼーっとしたままの頭で、どこ?どこ?と部屋の中を見渡すも、見当たらず、不安になる。
広い室内を彷徨うように探し回る。

お風呂のドアから蓮くんのフェロモンが漂ってきていることに気付いて、立ち止まる。

………お風呂か。
シャワーの音がしないから、湯船に浸かっているのか、もう脱衣所で着替えているのか。
もうすぐ出てくるのかな…
ドアの隣に腰を下ろした。
待っている間にまたうとうとしてきて、目を閉じた。



「ぅわっ、、澪!?」

呼ばれて目が覚めて顔を上げると、蓮くんがお風呂から出てきたようで、驚いてこちらを見ている。

「どうしたのこんなところに座り込んで。床冷たくなかった?」
支えられるようにして立たせてもらって、ベッドの方へと誘導される。

「うん。蓮くんいなかったから。」
そう答えると頭を撫でられた。
ベッドへ横になると、また蓮くんが一緒に横になってくれて、抱きしめてくれる。
「もうどこにも行かない?まだ何か用事ある?」
甘えん坊の子供のように蓮くんに尋ねた。

「もう、何も用事はないよ。俺もこのまま寝るよ。」
それを聞いて安心して眠りについた。
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