いきなり婚約破棄されたので、聖女になって人助けをします。

Seabolt

文字の大きさ
上 下
39 / 69

――街角☆大パニック!!

しおりを挟む
実家からマーリン様の家に向かう途中、王都クラリスの商店街を抜けて、新緑が美しい街路樹を横に見ながら一人歩いている。商店街から少し離れたとあって、人もまばらになってきたと思っていると街路樹の影から一人の騎士が出てきた。

「聖女様ですよね」

その言葉を聞いて私は血の気が引いた。後ろの方でという言葉に人々が反応した。

「聖女様?」

「どこだ?」

「聖女様がおられるのか?」

人々が集まりだしている。そんなことを全く気付いていない。その騎士は再び口を開いた。

「聖女…むぐぅーーー!!」

「何を言っているのですか。あなたは、この格好を見てわからいのですか?私は普通の女です」

「ぶはーぁ!!離せ!」

騎士は暴れて私から離れた。しかも、指差してとんでもないことをいいだした。

「そんなことはない!!私が見間違えるはずはない。お前は聖女。フリージア・ドラボールだ」

きゃー!!

なんてことを言うのよ。騎士の後ろには、話を聞きつけた人々がわんさと集まっている。

「何を言っているんですか?騎士様、御冗談がお好きですね」

「そんなはずはない!!さっき宮殿で私を治療したではないか。さては貴様、私に怖気ついたか?」

この騎士、さっき私が直した人?よく見れば、確かにって、そんなことを言ってくれるものだから騎士の後ろから

「いたぞー」

「聖女様だー」

そんな声が聞こえてた。やばい。なんとかしないと

「ふふふ、覚悟しろよ」

そうだ。私は慌てて騎士を指さした。

「この人が聖女様です」

「な!何を言っている」

「この人、騎士様の格好していますが、実は女なんです!!」

すると騎士様の後ろの群衆は

「そうだよな。この間、聖女様は鎧をお召しになっていたもんな」

「そうだ。そうだ。こちらの方が聖女様らしい」

そう言って騎士の前に集まっていった。その中の一人、足を引きずっている老女がいた。震える手を合わせ彼女を拝み倒していた。

「聖女様、この老婆の願いを…この足を治してください。お願いします」

突然の状況に戸惑う騎士なんだけど、私はいたずらを考えた。

『ヒール』とつぶやいた。

すると老女の足が治った。

「な・・・治った」

老女は、彼女の前にひれ伏し両手を合わせて拝んでいた。

「せ…聖女様…ありがとうございます」

その奇跡を目の当たりにした群衆は我先に集まってきた。

「つ…次はおらだ」

次に出てきたのは、腰に手を当てた男がやって来た。

「おらはぎっくり腰で…仕事もままならない状態だ。早く治しておっ母を助けたい。何卒、この通りだ」

彼もまた騎士の前に膝をついて、懇願した。

「おねげぇしますだ~」

『ヒール』

「おお!!腰が一発で治った。流石聖女様…あじがたや~あじがたや~」

目の前の奇跡に何が起こったのかわからない騎士なんだけど、私の方を睨んだんだけど、次の瞬間、群衆は大声を上げた。

「うぉおお。奇跡が起こったぞ」

その言葉に戸惑う騎士、当然よね。彼女は何もしていないのだから、私はこの混乱に乗じて街路樹の影に隠れてその様子を見ながら、次から次へとヒールを放っていった。次々に起こる奇跡、感謝する人々が続々と増えている。流石の騎士様もこれだけの人に囲まれて、感謝されては逃げるわけにもいかないだろう。必死に言い訳をしている。

「い…いや…私は何もしていないが」

困った表情が実に面白い。今度は、目の前に、末期の肺病の患者が担ぎ込まれてきた。そして、町医者が

「私の力ではもうどうにもならないのです。しかし、彼は一家の大黒柱、彼を失うと一家は路頭に迷うことになります。聖女様、この者を助けてください。お願いします」

『ヒール』

次の瞬間、肺病の彼は完治して治ったのだった。

「き…奇跡が起こったぞー!!聖女様の奇跡だ!!」

どぁあああと群衆の歓喜の声があたりに響いた。既にどうすることもできなくなった騎士は呆然と目の前で起こっているできことをやり過ごすことしかできなかったのだった。

「聖女様は、見過ごされないはず」

「ち…ちがう…私ではない!!」

「お願いします。聖女様」

ついでだ。周りにいる人たちにヒールを掛けちゃえ

『ヒール』

「流石、聖女様…」

一般人に囲まれて身動きが取れなくなった騎士、しかも、お礼を言われている人たちを攻撃する訳にもいかない。とうとう彼女も見かねてヒールを使いだしたので、私が彼女の前に姿を見せるとすぐに見つけて睨みつけてきた。しかし、私はにっこりとした笑顔で

「流石、聖女様ですね。がんばってみんなを治してくださいね」

「貴様~!!」

騎士様は睨んでいるが幾重にも重なった人たちの群れに飲み込まれていった。

「おぼえてろよー!!」

ふふふ…しーらないっと、こうして私は無事にマーリン様の家に帰ることができたのだった。








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...