おばさんと呼ばないで

Seabolt

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デートですか

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 気が重いまま迎えた土曜日、俊介は先に家を出ていた。―――デートなのに・・・これが最後のデートになの?・・・捻挫した足も完全に回復し、準備万端!!といっても足取りも重く、これで終わりなんだと言い聞かせる自分と楽しかった想い出がただでさえ重い足取りをさらに重くしていた。ようやく着いた待ち合わせ場所・・・彼を見つけた私は駆け寄った。

「待った!!」

 いつものようにやさしく微笑えんでくれる俊介・・・最後のデートだ・・妙な意気込みが私を焦らせた。そのせいか途中俊介との会話もちぐはぐしていた時もあった。映画を見て、喫茶店でお茶をして、ごく普通のデートだった。しかし、事件は、二人で公園を歩いている時に起きた。向こうからあるカップルが歩いてくるのが目に入った。そう・・・武と国府田が二人で歩いていたのだった。動揺する私を見た俊介

「どうした?」

 そう言って私の視線の先を見た。

「あ・・・なんでもない・・・」

 けど・・・俊介も私の視線の先に誰がいたのかはわかっていたはず・・・絶対に・・・そして、なんとなく後味の悪いデートが終った。

「じゃぁ・・」

「うん・・・じゃぁ・・」

 俊介と別れた私・・・気が付くといつもの場所にいた・・・そう・・例のバッティングセンターに一人、打席に立っていると・・ボールが歪んで見える・・・虚しく空を切るバット・・バーンとボールがゴムを叩く音が響いた。構えるのをやめた私は、呆然と、目の前を行くボールを見送った・・・何球も・・・

はぁ・・・

 打席を出てた時、ガシャンという虚しく扉が閉まる音が響いた・・・武はいないんだ・・・そう思うとなんだか心にぽっかりと穴が開いたような・・・判っていたんだけど・・・あ・・・思わず溜息をついていると

「何してんだ?」

 武!!じゃない・・・目の間には俊介が立っていた・・・

「え・・・」

 思わぬ登場に焦り俯いてしまった私に俊介は私の両肩に手を置いた。

「そんなに好きなのか・・・あいつのこと・・・」

 ズシーンと何かとてつもなく重い空気が体を押さえつけた・・・そこからこみ上げてくる悲しみが・・・私を襲った。

「ごめんね」

 私は繰り返し呟き俊介の胸の中で泣いていた・・・誰もいないホールには、時折、古めかしいゲーム機が流す無機質な音楽が流れていた。しばらくして、そんな私に俊介は優しく声をかけてきた。それは、私が泣き止んで、呆然と近くの椅子に座っている時だった。

「大丈夫か・・・」

「え・・あ・・うん・・・ごめん・・」

 チラッと俊介を見ると横顔が見えた。その目はじっと前を見据えていた。

「何故、あやまる?」

「ごめん・・・」

「また謝った。どうしたんだ?武のことか」

「・・・・」

「ま・・いいけど・・・俺も同じなんだけど・・・」

 この瞬間あの言葉が脳裏に甦ってきた。俺も・・・いるから・・・あ・・・あの言葉・・・国府田さんだったの・・すると俊介はすっと立ち上がった。

「じゃぁ・・」

 ただ俊介の背中を見送るしか出来なかった・・・そして再び一人になった私・・・あれ?・・・頬を伝わる冷たい線・・・泣いている私・・・そして、私は気付いた・・・俊介が好きなんだと・・・

俊介が帰ってしばらくしてようやく落ち着いた私・・・

「よし!!」

 両手を握り拳に力を入れ軽く気合を入れた。そこへ武が駆け込んできた。

「真奈美!!」

「た・・武?・・・どうした・・・」

 私の言葉を塞ぐかのように急に抱きしめてきた。訳もわからず硬直していると耳元で

「好きだ・・・」

「え・・?」

 驚いている私にもう一度

「好きなんだ・・・真奈美・・・」

 武の言葉を聞いた瞬間、私は俯いたまま両手で武の肩を押し離れた。

「ご・・・ごめ・・ん・・・な・・・さ・・い・・・」

 振り絞った声は蚊の泣くような程度しか出せなかった。


しばらく、無言の時間が続いた。
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