おばさんと呼ばないで

Seabolt

文字の大きさ
上 下
23 / 45

豪太と栗原

しおりを挟む
保健室を出たばかりの豪太は、栗原の方を振り返ることなく右手を上げ

「じゃぁな・・・」

 そういい残してその場を離れようとした。その瞬間、栗原は豪太の手を掴んだ。

「待って!!」

 さっきの二人の光景を見て、どうすることも出来ない現実を突きつけらた栗原、衝動的に豪太の手を掴んでしまった。しまった・・・それが本音だった。でもこうしないと泣き崩れてしまう・・・ただそんな気がしていた。そこへ豪太は、親指を上に上げある方向を指した。

「だったら・・付いて来いよ」

 黙って頷いた栗原、ただ豪太が言う通りについて行ってしまった。そこは、校舎の屋上、風は少し寒くなっていた。すると、豪太は目の前に座り込んだ。栗原は呆然とその姿を見ていた。

「なに、ぼーっと突っ立ってんだ?」

 振り向いた豪太に目があってビクッとなる栗原、思わず腕を組んで目をそらした。そんな姿を見つめる豪太、その視線に栗原も戸惑った・・・

「な・・何よ」

「強いな・・・お前・・」

 すると栗原は、顔をそむけた。

「しかたないわよ!!あんな所見せ付けられたら・・・」

「そっか・・・お前も同じか・・・」

 そういうと豪太は寝転んだ。その言葉に豪太の方を見る栗原

「どういう意味よ・・・」

 しかし、栗原にはなんとなく分かっていた・・・それが失恋のことだと・・・そして、豪太の方へ近づいて行った。すると

「パンツ見えてるぞ」

 豪太の言葉に慌ててスカートを抑えた栗原・・・

「スケベ!!」

 そう言って・・・少しして失笑した・・・そして、少し顔を赤くして呟いた。

「バカ・・・」

 その言葉を聞いた豪太が起き上がると栗原は彼の横に座った。すると豪太は栗原の方を見た。

「そんなに強がんなよ・・・栗原・・・」

 そんなこと言わないでよ。ただでさえ、堪えているのに・・・

「べ・・別に・・つ・・強がっていないわよ」

 そうは言ったものの、とうとう栗原は泣き出してしまった。


 しばらく無言で栗原を見守っていた豪太は、落ち着くのを見て、こう呟いた。

「俺も失恋中だから・・・判るんだよ。」

 失恋中?その言葉は栗原の心に引っかかった・・・彼の言動からすれば、失恋の相手は、山崎?どういうこと?混乱する栗原・・・

「まさか・・・豪太・・・山崎のこと・・・」

「違うよ・・・あいつとは戦友だちだ。」

戦友だちって・・・じゃぁ・・・」

 豪太の言っていることが全く理解できない栗原は、しばらく黙り込んでしまった。

「お前と真奈美同じだったと言いたかっただけだ。」

「意味がわかんないんだけど・・・」

 豪太は栗原の言葉を聞いて、頭をかいた。

「あ・・そうか・・・あいつも失恋してるんだ・・・」

「あいつって・・」

「ったく・・真奈美だよ・・・あいつが失恋した日、俺も失恋したんだ。」

「えっ?」

 その言葉に驚く栗原の顔をしばらく見て豪太は話を続けた。

「その日から俺達は戦友だちになったんだ・・・ただ、”だち”といっても戦友と意味で”だち”と呼んでいるんだ。」

 そんな豪太をただ見ているだけの栗原・・・

「けど・・・そうなら普通、お互い好きになったりしなかったの?」

 栗原の言葉を聞いてにっこりと笑う豪太

「ない・・ぜんぜん・・不思議なくらいに・・・けど・・あいつも泣いていたんだぜ・・そこで・・・」

「え?泣いていたって?」

 驚いた栗原はふと自分を指差されているのが分かった。

「ひょっとして・・ここ?」

「そう・・そこ・・」

「本当に・・・あの娘が・・」

「そう・・そこで・・・」

「だったら・・・私もその戦友だちにしてよ」

「いいよ」

 やけにあっさりと答えが返ってきたことに栗原は拍子抜けした。

「えっ?」

「真奈美の奴は、新しい恋にまっしぐらだし、丁度、新しい戦友だちがほしいと思っていたところだ。」

「うそ・・」

「あと・・・俺と戦友だちになるといいことが起こるかもな・・」

「どういうこと?」

「真奈美を見てみろよ・・」

「あ・・」

しおりを挟む

処理中です...