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運動会の前の出来事

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中秋の名月の少し前、暑さもひと段落した頃に俺たちにとって、秋の一大イベントがある。

運動会の時期がやってきたのだった。俺たち5年生にとっては、組体操が行われるのだ。しかし、現在のようにとてつもない人数で巨大なビラミットは作ったりしない。せいぜい、3段くらいの高さしかしない。安全な奴だった。小学生なのだからこの程度で十分だと思っている。
 前世で何故か町内会の役員をしていたところ、小学校の運動会へ行くことになったことがあった。

あ・・・嫌なことを思い出してしまった。

俺自身子供がいなかったので無縁だと思っていたのだが、当番の方の子供が高熱を出して急遽いけないことになったためであった。
 裏方でいろいろと手伝っていたのだが、途中、トイレで抜け出した時、一人の女の子が目の前で転倒。背丈が120cmくらいだったので低学年くらいの女の子でショートカットのヘアーに今風の体操着で下は半ズボンとなっていた。しかも、転倒した拍子にズボンが脱げてパンツが丸見えになっていたのだった。

「え-ん!!」

「大丈夫?」

「えーん」

「大丈夫?」

声を掛けても泣き止まないで倒れて泣いている女の子をとりあえず立ち上がらせたが、両手は目の位置で固定してい今だに泣いている。とりあえず、ずれているズボンを直してあげていると後ろから女性の声が、しかも、かなり声に力が入っている

「あなた!!!ここで何をしているの?」

振り向くと腕を組んで仁王立ちをしている赤いジャージ姿の女性がいた。

「ちょっとあなた!!今この子に何をしたのですか?」

ブチ切れているのであろう目は本気で怒っているし、胸倉はいきなり捕まれるし、近くにいた別の大人たちも駆け寄ってきている。

「あなた!!この女の子にいたずらをしようとしたでしょう」

「ちがう!!誤解だ!!この女の子がここで転倒したから助けていただけだ」

「嘘おっしゃい!!この子のズボンを触っていたでしょ!!」

「それは、ズボンがずり落ちていたから…」

「いいえ!!あなたは痴漢です。みなさーん!!痴漢が現れました」

「誤解だ!!」

すると警備員もやってきて、俺を取り押さえたのだった。

「ちょっと待ってくれ!!あの子の足を見てくれ!!すりむいているだろ!!イテテ!!」

俺の手をひねりあげた警備員は

「言い訳は後で聞くからおとなしくこっちへ来い!!」

俺は無理矢理、学校の職員室へ連れて行かれたのだった。しかも連行される途中で警察までやってきて、その場で引き渡され、近くの交番まで連れて行かれ取り調べが始まった。

「ですから…女の子が目の前で転倒したから助けただけです」

「目撃した女性はいたずらしていたと言っていますが」

「ですから!!私は無実です」

するともう一人の警官が入ってきて、取り調べをしている警官の耳元で何かささやいていた。すると驚いた表情をした上で、パソコンをパタンと閉じたのだった。

「帰っていいぞ!!お前は自由だ」

「え?」

「だから、帰っていいぞ」

こうして俺は無罪放免となった。しかし、小学校へ戻ると運動会も終り後片付けをしていたの最中だった。そして、俺を見つけた町内会長は、

「佐藤さん!!災難だったね」

「ええ…まぁ」

「あ…そうそう…うちの娘を助けていただいてありがとうございました」

町内会長が俺に頭を下げてきたのだった・

「はい?」

驚いていると町内会長の横からひょっこりと顔を出したのはさっき転倒していた女の子だった。

「助けていただいて、ありがとうございました」

「あ・・・会長の娘さんでしたか」

「娘から事情は聞きました。本当に災難でしたね」

「そうですね」

苦笑いするしかなかった。しかし、さっき俺を警察へ突き出したおばさんはどこ行った?辺りを見回しても、顔すら覚えていないから、

「会長・・・もう帰ってもいいですか」

「いいですよ。おつかれさまでした」

「あ・・おつかれさまでした」

その時だった。一人の女が俺を見て指をさして叫んだ。

「あーー!!さっきの痴漢!!よくも堂々とここへ戻ってこれたわね!!警備!!警備員!!」

すると警備員がやってきて、俺を見て、今度は彼女へ俺が無罪だったことを説明した。すると、フン!!と顔を横に向けて!!ものすごい嫌そうな顔をして

「ご!!め!!ん!!な!!さ!!い!!」

俺の顔すら見ないでこんなことを言った。更に

「大体!!あなたが悪いのよ!!あなたのその風貌がどこから見ても小太りで眼鏡をかけていて、センスのない髪形をしているから、どう見てもオタクにしか見えないじゃない。そんな奴が小学校に来ているとしたロリコンと思われても当然でしょ!!もし、あの場面で女の子を助けているのがあなたじゃなかったらまちがえるはずありませんわ!!ふん!!」

そう怒鳴りちらして、ずかずかと歩いて去っていった。

「ひ・・ど・・すぎる・・・おじさん・・・おちこまないでね」

そう慰めてくれたのはさっき助けた女の子だった。

悪夢の運動会として俺の記憶にある運動会で、その時に組体操を見て、子供にこんなことをさせるなんて児童虐待じゃんと思っていたのだった。

話は元に戻って、組体操の練習が始まる前の”みんなの会”で運動会に出る種目決めが行われていた。といっても、徒競争か障害物レースの2択なんだけど、基本的には春の運動会でやった種目と反対の種目になる。そして、更にもめるのが”紅白対抗リレー”実はこれは入学してから一度出場した人は出れないことになっている。運動会は年2回で6年で12回あり、赤白一名づつ出場するから、1クラスで卒業するまでに24人選出されるのだ。だから、5年生になって出ていない人となると限られてくる。因みに俺はまだ出たことがない。そこで出ていない人リストが上がってくる。

そこには、赤組では俺と三宅君と川村君、白組では橋本君と酒井君と大木君の3人の名前が挙がった。しかし、このリレーの前に三宅君が俺に対して嫌がらせをしてきた。それは、運動会での道具係を決めることであった。運動会の裏方で地味な仕事、しかも、そのせいで運動会を見る暇もない。そんな道具係にあえて三宅君は推薦をしてきたのだった。

「春で実績がある佐藤君が適任かと思います」

するとそこで更にひと悶着があった。それは、春の運動会で俺と同じ道具係になった山崎君が

「俺は嫌だ!!」

とかたくなに拒否をした上に泣き出してしまったのだった。すると一部の女子たちからかわいそうよという同情の話がでてくる。一方で強硬に実績がある奴を押してくる三宅君の意見が対立していた。
するとそこへ先生が俺に

「佐藤!!お前の意見はどうだ?」

「俺ですか?」

「そうだ。お前の意見がまだ出ていない」

「わかりました。では、俺の意見を言います。先ほどの提案からすると前回の運動会での俺の働きをみんな認めたことになりますが、俺は一度も感謝されたことがありません。当然、俺のは働きを認めて入りのであれば、ありがとうの一言があって、当然かと思います。次に俺を推薦してくれることに関して言うとここまで推薦してくれるのであれば、なる方だ当然かと思いますが、そこまで信頼していただけるの出れば、もう一人の選出は俺に任せていただきたい。つまり、俺からの意見としては、ちゃんと感謝してくれることと、二人目を決める権利を俺に委任するのであれば、この話を受けてもいいがどうでしょうか」

すると三宅を応援していた連中が一切声を出さなくなった。


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