Love Trap

たける

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2.

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フィックスのマンションにやって来たハンクは、すっかり片付いてしまった部屋を見渡した。

「スティア刑事……フィックスは、貴方の自慢ばかりしてたんですよ」

フィックスの母親は懐かしむようにそう言い、アルバムをめくっている。
フィックスは母親似だった。彼女も赤毛だったが、今はそこに白い物も混じっている。

「まだ私には信じられないの」
「僕も同じです」

主がいない部屋は淋しい。父親は、遺品を箱に丁寧につめている。

「なぁスティア君。こいつの遺品……君が貰ってやってくれないか?」

ハンクは彼に近付き、そっと肩に触れた。

「勿論です。見させて貰ってもいいですか?」

そう言うと、父親は静かに立ち上がった。

「見ていてくれ。私は妻と管理人に挨拶をしてくるから」
「はい。分かりました」

ハンクが強く頷くと、彼は妻を伴って部屋を出て行った。
途端静寂が室内を包み、ハンクはいたたまれなくなった。だが、自分にはしなければならない事がある。そう自身を奮い立たせて寝室に入った。
フィックスは、金庫をベッドの下に入れていた。
そんなとこに置いて取りにくくないか、と尋ねた事があった。すると彼は、だから盗まれたりしないのさ、と笑っていた。
痛む足を庇いながら膝をつき、ベッドの下を見遣る。金庫はあの日のまま、冷たい体をそこに置いていた。

「フィックス、メモリーチップは俺が預かるからな」

そう言い、メールにあった暗証番号を打ち込むと、小さな電子音と共に扉が開いた。中にはメモリーチップと一緒に写真が入っていた。写真を手に取ると、そこには制服を着た自分とフィックスが写っていた。
あぁ、これは、警察学校を卒業した時に撮ったものだ、と思った。自分も同じ写真を持っている。

「懐かしいな……」

そう呟くと、複数の足音が聞こえてきた。
両親が戻って来た訳ではなさそうだと感じたハンクは、素早くメモリーチップと写真を懐に仕舞うと、金庫を閉め、ベランダに出た。
微かだが会話が聞こえてくる。

「両親の家にはなかった」
「警察にもない」
「棺の中もなかった」
「なら、ここにあるだろう」

ストレインの声がする。
何か探しているのか、部屋を引っ掻き回す音がする。
飛び出て、止めろと言ってやりたかったが、向こうは多勢な上、こちらは怪我をしている。敵わない。

「ないな」
「どこに隠したんだ?」
「メモリーチップを彼が壊す筈はない」
「あれがないと、新しい体に使えない」

ハンクは驚きを必死に押し殺していた。
ストレイン達は、メモリーチップを探している。そしてそれを、新しい体に使うと言っている。と言う事は、3年も経たずして、新たなサイボーグが完成間近だと言う事だ。
ノッドの計算は間違っていた。

「とにかく、もう1度両親の家を探してみよう」
「我々は墓場を探すよ」

足音は遠ざかり、やがて静寂が戻ってきた。
そっと中を伺うと、研究者達の姿はなくなっていた。
ハンクは寝室に戻ると、手荒に掻き回された部屋を片付け始めた。
よくも部屋を、思い出を、棺を荒らしてくれたな。
歯を食いしばる。
許さない。
復讐してやる。
残酷に、その体を引き裂いてやる。
ハンクは新たな決意を胸に決めた。




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