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第23章.対話
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会場でやきもきしながら待っていると、我孫子が戻ってきた。インタビューを受ける朋樹を残し、1人近づく。
「見つかったか?」
「あぁ。けど沢村、彼は棟方社長と関係があるな?」
そう聞かれ、頷く──何等かの根拠があって言ったのだろう──しかない。
「黙っていてくれないか……?」
「勿論だ。しかし……随分乱暴されてたみたいだぞ」
何処にいたか尋ねると、1つ下のフロアの会議室だと教えてくれた。
「彼を1人、残してきたのか?」
「そりゃ……そうだろう。あんな格好、誰かに見られたら嫌だろう」
それもそうか、と思う。私は礼を言い、そちらに向かう事にした。
「朋樹を頼む」
「……あぁ」
急いで──式典会場を抜け出し──会議室へ向かう。心臓は痛いぐらいに締め付けられ、彼の精神状態を思い更に苦しくなった。
──どうして……?
彼の身に起こった事を思うと、悲しくて仕方がない。どうにかして助けてやれなかったのかと、自分を責めていると、会議室の扉──閉じられていた──から、誰かと話す声がした。
──誰と?
胸を張れた行為ではないが、扉に耳を近付ける。と、嫌がる彼の声が聞き取れた。
『やッ……!』
『じっとしていろ』
『近藤社長、お願いです……!』
ドアノブに手をかけたのと同時に、誰かが私の肩を掴んだ。振り返ると──鬼の形相をした──朋樹が、私を押し退けた。
──まずい!
カッとなった朋樹は、私でも抑える事は困難だ。だが、止めなければ。拳を握るその姿は、恐らく、すぐにでも相手に──近藤社長だが──殴りかかりかねない。
「朋樹……!」
止める間もなく、朋樹は扉を開けてしまった。するとそこには、全裸の彼と覆い被さる近藤社長の姿があった。
「この……!」
私の制止を振り払い──猛虎の如く──朋樹が殴りかかった瞬間、彼が社長の前に立ち塞がり、そして──近藤社長に──平手打ちを食らわせた。バシン、と、室内に響き、私も朋樹も動きを止める。
「けっ……剣崎、お前……!」
「申し訳ありません、社長。暴力を振るってしまったので、退職させていただきます」
肩で息をしている彼の顔は蒼白で、今にも倒れてしまいそうだった。
「た、退職だと?それは認めない。謹慎処分だ」
それだけを言うと、社長は我々を押し退け、退室して行く。その背中に朋樹が何か言いかけたが、私は止めさせた。
──彼が朋樹を救ってくれたんだ……
もし朋樹が殴っていれば、オリンピック出場権を剥奪され、選手生命も危うかっただろう。
「澪さん……!」
「朋樹……」
服を掻き集める彼を、朋樹が抱き締める。私は扉を閉め、2人に──彼に──その場を任せる事にした。
「見つかったか?」
「あぁ。けど沢村、彼は棟方社長と関係があるな?」
そう聞かれ、頷く──何等かの根拠があって言ったのだろう──しかない。
「黙っていてくれないか……?」
「勿論だ。しかし……随分乱暴されてたみたいだぞ」
何処にいたか尋ねると、1つ下のフロアの会議室だと教えてくれた。
「彼を1人、残してきたのか?」
「そりゃ……そうだろう。あんな格好、誰かに見られたら嫌だろう」
それもそうか、と思う。私は礼を言い、そちらに向かう事にした。
「朋樹を頼む」
「……あぁ」
急いで──式典会場を抜け出し──会議室へ向かう。心臓は痛いぐらいに締め付けられ、彼の精神状態を思い更に苦しくなった。
──どうして……?
彼の身に起こった事を思うと、悲しくて仕方がない。どうにかして助けてやれなかったのかと、自分を責めていると、会議室の扉──閉じられていた──から、誰かと話す声がした。
──誰と?
胸を張れた行為ではないが、扉に耳を近付ける。と、嫌がる彼の声が聞き取れた。
『やッ……!』
『じっとしていろ』
『近藤社長、お願いです……!』
ドアノブに手をかけたのと同時に、誰かが私の肩を掴んだ。振り返ると──鬼の形相をした──朋樹が、私を押し退けた。
──まずい!
カッとなった朋樹は、私でも抑える事は困難だ。だが、止めなければ。拳を握るその姿は、恐らく、すぐにでも相手に──近藤社長だが──殴りかかりかねない。
「朋樹……!」
止める間もなく、朋樹は扉を開けてしまった。するとそこには、全裸の彼と覆い被さる近藤社長の姿があった。
「この……!」
私の制止を振り払い──猛虎の如く──朋樹が殴りかかった瞬間、彼が社長の前に立ち塞がり、そして──近藤社長に──平手打ちを食らわせた。バシン、と、室内に響き、私も朋樹も動きを止める。
「けっ……剣崎、お前……!」
「申し訳ありません、社長。暴力を振るってしまったので、退職させていただきます」
肩で息をしている彼の顔は蒼白で、今にも倒れてしまいそうだった。
「た、退職だと?それは認めない。謹慎処分だ」
それだけを言うと、社長は我々を押し退け、退室して行く。その背中に朋樹が何か言いかけたが、私は止めさせた。
──彼が朋樹を救ってくれたんだ……
もし朋樹が殴っていれば、オリンピック出場権を剥奪され、選手生命も危うかっただろう。
「澪さん……!」
「朋樹……」
服を掻き集める彼を、朋樹が抱き締める。私は扉を閉め、2人に──彼に──その場を任せる事にした。
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