ホワイト・ルシアン

たける

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第17章.ご褒美

2.

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12月になり、クリスマスの予定を──対談やインタビューで──聞かれる度、憂鬱になる。
柔道家にはそんなものはない、特にお前には、って、監督に言われたから尚更だ。


──父さんは両立させなさいって言ってたけど……


練習は過酷さを増し、毎日寝る為だけに家に帰ってるようなものだ。
また、緊張の糸が切れかかってる。
ご褒美が欲しい。


──そんなの、誰に言えるってんだ……?


チャンピオンは弱音など吐いてはいけない、みたいな空気と言うか、慣習が、ここには深く根付いている気がする。

「ハァ……」

つい、ため息が溢れた。練習中なのに。

「どうした?」
「……いえ、何でもありません。あの、コーチ、走ってきても?」

息が詰まりそうだ。
父さんは困った顔で顎を擦ると、うん、と言った。

「構わないが、昼前には戻って来るんだぞ。我孫子監督が、視察に来られるからな」
「はい、分かりました」

急いでトレーニングウェアに着替え、会社を飛び出す。冷えた空気を肺一杯に吸い込み、目的もなく、走り出した途端、会いたい気持ちが爆発した。


──会いたい!


スマホを取り出し、電話をかける。足は勝手に、T駅へ向かっていた。ここからたった4駅だ。

『もしもし……?』

「今どこ?」

『えー……と、会社。もう少しで外回りだけど』

「会いたい!」

『……うん。じゃあ、どうしよっか?』

やったーって、軽くスキップする。

「今、そっち向かってる」

『走り込み?大変だね。でもちょっと遠くない?』

「全然、余裕だよ」

平坦な道は楽だ。階段ダッシュや、坂道ダッシュに比べたら。

『そう?じゃあ……』

「T駅前ね」

うん、って。可愛い。じゃあって電話を切って、オレはスピードを上げた。澪さんより早く着いて、驚かせたい。


──会えるんだ!


それだけで、俄然やる気が出てきた。




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