ホワイト・ルシアン

たける

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第15章.カクテル言葉

1.

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そう言えば、球技大会の件を聞いてなかったなと、車中で聞いてみた。

「校長先生が、サッカーゴールを新しくしたいって言ってるんですよ」
「うん。また、資料送るよ。月曜日でもいい?」
「はい」
「あとさ……姫野、去年まではあの高校にいなかったよね?」

確か姫野は、地元のS県の高校に勤めてた筈だ。

「そうです。今年から赴任になったんです」
「どうして?」
「地元高校が、校舎の老朽化で、取り壊しと共に、近くの公立校と合併する事になってたんです。で、最後に母校でって思って勤めてたんですよ」
「そうだったんだ……」
「良かったです、間に合って。で、こっちに来たんです」
「去年会った時、そんな話し一言も……」
「驚かせたくて。で、話す前にバレちゃったって訳なんですよぉ」

そう言って姫野が笑うと、車は駅近くのパーキングに入り、停車した。

「はい、着きました!」
「ありがとう」

一緒にあのバー──ルトロヴァイユ──に入り、カウンターに座った。

「あの、カクテルの名前は分からないんですが、記憶の味だけで作ってもらえますか?」
「かしこまりました」

いいんだ、って、安堵する。姫野には申し訳ないけど、飲ませてもらおう。

「どのような味でしたか?」

そうバーテンダーに聞かれ、味を思い出しながら伝える。

「えと……ウオッカベースで、ちょっと白っぽく濁ってて、柑橘系の香りがしました。で、辛いけど甘い感じの味でした」
「……候補が2つ、ございます。お作りしますので、取り敢えず飲んでみて下さい」

そう言って材料をシェイカーに入れ、シェイクし、カクテルグラスに注いで──白く濁っている──差し出してきた。受け取り、まず香りを嗅いでみると、あの日の香りがした。

「匂いはこれに似てます」
「どんなですか?」

姫野も匂い、確かに柑橘の香りがする、と言った。

「じゃあ、飲んでみます」

胸が痛いぐらいに──緊張で──鼓動している。確かめるのが恐い気持ちもあったけど、一口、飲んだ。

「どうですかぁ?」
「……ちょっと、違う、気がします」

グラスを持つ手が震えている。そっとカウンターに置き、ふーっと息を吐いた。

「左様でございますか。では、もう1つの方をお作りします」
「あ、あの、ちなみにこれは、何て言うカクテルなんですか?」
「そちらはバラライカ、と言うカクテルです」
「カクテル言葉はご存知ですか?」

勿論です、と微笑する。

「恋は焦らず、と言う意味です」

そう言い、再びシェイカーを振る。シャカシャカと、リズミカルな音色が響いた。


──恋は焦らず……


もしかしたら、こっちだったかも知れないな、と、思う。だとしたら、康介さんの気持ちとは、と考えていると、グラスを差し出された。
さっきより、濁りが薄い。透明に近い色合いだ。
ドキリ、と、さっきより鼓動が強くなった。

「い、いただきます……」

香りを嗅いでみると、あの日の──康介さんの──笑みが思い浮かぶ。一口飲んでみると、涙が零れた。

「だっ、大丈夫ですかぁ?」
「うん……うん。このカクテルです……」

涙を拭いながら、二口目を含んだ。

「そちらはライラ、と言うカクテルです」


──ライラ……


俺が意味を問えずにいると、代わりに姫野が聞いてくれた。

「これはどんな意味なんですか?」
「今、君を想う、です」

胸が熱くなった。




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