45 / 86
第14章.その後
4.
しおりを挟む
駅前で待ち合わせて、車──姫野のもので黒のエクストレイルだ──で走る事約20分。到着したのは、海沿いにある海鮮レストランだった。入店し、席に着いて──店の中央に大きな水槽がある──注文を済ませると、姫野が──いつもの人懐っこい──笑みを浮かべながら、先日は、と、切り出してきた。
「公開練習に来て下さって、本当にありがとうございました」
「そんな、お礼なんて!こっちこそ、貴重な体験をさせてもらったんだし……」
「本当はあの後に、食事でもって、思ってたんですけど、沢村君に先越されちゃって」
「そ、そうだったんだ」
ごめんね、と、謝ると、うぅん、って首を振る。
「まさか沢村君が誘うなんてって、思いました」
「はは、俺もだよ」
「で……どうだったんです?」
「どうって……?」
一口水を──仄かにレモンの味がする──飲み、微笑する。すると姫野は、またまたぁ、と言った。
「彼とは、仲良くなったんですかぁ?」
「なっ、仲良くって……どう言う意味?」
「先輩の事だから、誘われたんじゃないかなーって」
ニヤリと笑う姫野を睨むと、料理が運ばれてきた。一旦会話を中断し、ウェイターが下がるのを待つ。
ごゆっくり、と下がり、俺は改めて姫野を睨んだ。
「あのねぇ……俺をどんな男だと思ってるわけ?」
「え?誘われなかったんですか?」
「……その事で、色々話があるんだ」
俺は注文した──魚介とトマトの塩レモンの──パスタを口に運んだ。姫野は──サーモンとレタスのクリームチーズ──パスタの具を絡めている。
「何ですかぁ?」
「去年会った時に、探してる人がいるって話、したよね?」
「えぇ。先輩をその道に走らせた、きっかけになった人でしょ?」
目一杯頬張りながら──可愛い──じっと見つめてくる。俺もパスタを咀嚼し、飲み込んだ。
「言い方……!まぁ、そうなるんだけど……で、その人が見つかったんだよ」
「えぇーっ!マジですか?わぁ、おめでとうございます!で?で?」
「結果的に、その人と……関係を持った、よ」
ピュウッと、姫野が口笛を吹いた。
「その人ってのが、実は……沢村君のお父さんだったんだ」
「えぇーっ!世間せまっ!」
「知らなくて……その、沢村君と関係を持った後に知ったんだ」
「昼ドラみたいですねぇ」
「そ、そうかな……?」
「そうですよぉ。あ、あと、ほら、あの日、沢村君の付き人やってた人、いるじゃないですか」
知り合いだって言ってた、タヌキみたいな人、と言われ、つい笑ってしまう。
「失礼だよ。でも、うん、分かる。彼ね、カーレッジの営業の、吉村圭人って言うんだ」
彼とはちょっと前からの付き合いで、関係も持ったと伝えると、更に驚かれた。
「先輩、ヤりまくってますねぇ」
「おい!言い方酷いぞ」
「だってそうじゃないですかぁ。ボクともヤって、吉村君ともヤって、沢村親子ともでしょぉ?」
そう列挙されればそうだ。恥ずかしいけど。
「で、新しい恋は見つかりましたか?」
「……うーん、どうだろう……」
──俺は恋をしてるんだろうか?
分からない。
「あ、沢村君のお父さんって、凄くダンディな人なんですね」
食べ終わった姫野が、スマホで検索したらしく、画像を見せてきた。それに、うん、って頷く。
「先輩、好きそう」
「え?か、顔だけで分かるの?」
「何となくですけどね。優しそうですし、頼り甲斐がありそうですし」
当たってる。けど、康介さんに恋した、と言う自覚はない。
「告白されたんですか?」
「え……?」
──そう言えば……
思い返すけど──好きだと──言われた記憶はない。
けど、と、思う。
──もし、あのカクテルに、そんなような意味があったら……?
淡い期待が胸を掠める。
「どうしたんですかぁ?」
「や……何でもない」
「そうですか?」
この後どうします?と聞かれ、俺は逡巡する。
「……バーに、行きたい」
カクテルの意味が知りたい。きっと、康介さんの気持ちだろうから……
「公開練習に来て下さって、本当にありがとうございました」
「そんな、お礼なんて!こっちこそ、貴重な体験をさせてもらったんだし……」
「本当はあの後に、食事でもって、思ってたんですけど、沢村君に先越されちゃって」
「そ、そうだったんだ」
ごめんね、と、謝ると、うぅん、って首を振る。
「まさか沢村君が誘うなんてって、思いました」
「はは、俺もだよ」
「で……どうだったんです?」
「どうって……?」
一口水を──仄かにレモンの味がする──飲み、微笑する。すると姫野は、またまたぁ、と言った。
「彼とは、仲良くなったんですかぁ?」
「なっ、仲良くって……どう言う意味?」
「先輩の事だから、誘われたんじゃないかなーって」
ニヤリと笑う姫野を睨むと、料理が運ばれてきた。一旦会話を中断し、ウェイターが下がるのを待つ。
ごゆっくり、と下がり、俺は改めて姫野を睨んだ。
「あのねぇ……俺をどんな男だと思ってるわけ?」
「え?誘われなかったんですか?」
「……その事で、色々話があるんだ」
俺は注文した──魚介とトマトの塩レモンの──パスタを口に運んだ。姫野は──サーモンとレタスのクリームチーズ──パスタの具を絡めている。
「何ですかぁ?」
「去年会った時に、探してる人がいるって話、したよね?」
「えぇ。先輩をその道に走らせた、きっかけになった人でしょ?」
目一杯頬張りながら──可愛い──じっと見つめてくる。俺もパスタを咀嚼し、飲み込んだ。
「言い方……!まぁ、そうなるんだけど……で、その人が見つかったんだよ」
「えぇーっ!マジですか?わぁ、おめでとうございます!で?で?」
「結果的に、その人と……関係を持った、よ」
ピュウッと、姫野が口笛を吹いた。
「その人ってのが、実は……沢村君のお父さんだったんだ」
「えぇーっ!世間せまっ!」
「知らなくて……その、沢村君と関係を持った後に知ったんだ」
「昼ドラみたいですねぇ」
「そ、そうかな……?」
「そうですよぉ。あ、あと、ほら、あの日、沢村君の付き人やってた人、いるじゃないですか」
知り合いだって言ってた、タヌキみたいな人、と言われ、つい笑ってしまう。
「失礼だよ。でも、うん、分かる。彼ね、カーレッジの営業の、吉村圭人って言うんだ」
彼とはちょっと前からの付き合いで、関係も持ったと伝えると、更に驚かれた。
「先輩、ヤりまくってますねぇ」
「おい!言い方酷いぞ」
「だってそうじゃないですかぁ。ボクともヤって、吉村君ともヤって、沢村親子ともでしょぉ?」
そう列挙されればそうだ。恥ずかしいけど。
「で、新しい恋は見つかりましたか?」
「……うーん、どうだろう……」
──俺は恋をしてるんだろうか?
分からない。
「あ、沢村君のお父さんって、凄くダンディな人なんですね」
食べ終わった姫野が、スマホで検索したらしく、画像を見せてきた。それに、うん、って頷く。
「先輩、好きそう」
「え?か、顔だけで分かるの?」
「何となくですけどね。優しそうですし、頼り甲斐がありそうですし」
当たってる。けど、康介さんに恋した、と言う自覚はない。
「告白されたんですか?」
「え……?」
──そう言えば……
思い返すけど──好きだと──言われた記憶はない。
けど、と、思う。
──もし、あのカクテルに、そんなような意味があったら……?
淡い期待が胸を掠める。
「どうしたんですかぁ?」
「や……何でもない」
「そうですか?」
この後どうします?と聞かれ、俺は逡巡する。
「……バーに、行きたい」
カクテルの意味が知りたい。きっと、康介さんの気持ちだろうから……
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる