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第13章.接待
5.
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サンライズ社は海沿いにあり──カーレッジは都心部にある──潮風が心地いい。20階建ての地下に駐車場があり、そこの来賓用に──鷹殿が──車を停めた。
「15階の会議室での顔合わせです」
「はい……」
銀縁のメガネを人差し指で持ち上げながら、鷹殿──ボルゾイみたいな細面で痩せてる──がそう言った。オレはそれに頷き、後からビルへと入る。
「先方は少し遅れるかも、と、窺ってます」
「そうなんだ」
──忙しいのかな……?
営業だと──吉村から──聞いていたから、仕方ないだろう、と思う。
エレベーターで目的階に上がり、廊下──絨毯は暗い青緑色で、落ち着いた雰囲気だ──を鷹殿の後に就いて歩く。何人かとすれ違い、会釈しながら会議室前に到着した。
──ここで澪さんは働いているのか……
妙に感慨深く思っていると、鷹殿がノックし、中から返事があった。
「どうぞ」
「失礼いたします」
「この度はわざわざご足労ありがとうございます。私、社長秘書の中村杏璃と申します」
そう自己紹介し──狐みたいな細面でつり目だ──会釈する。オレも頭を下げた。
「私、沢村朋樹と申します。本日はよろしくお願いいたします」
次いで鷹殿も自己紹介し──ドア近くの──椅子に腰掛けた。
「すぐに参りますので……」
「あ、はい」
スーツは着慣れない。だが、顔合わせだからと、父が着るように、と言ったから──普段はジャージで出勤している──仕方なく着ているようなものだ。
──でも、顔合わせって実際、何をするんだろう?
撮影の打ち合わせとかだろうか?と思っていると、不意にドアが叩かれた。緊張に、思わず姿勢を正してしまう。
──そもそもオレって、仕事で澪さんに会った事ないな……
やはりスーツだろうか?似合うだろうなと想像していると──失礼します、と声がかかり──背後でドアの開く音がした。ふと、違和を感じる。
──今の声、澪さんのじゃない……?
立ち上がりながら少し振り返ると──凛々しい顔をした──鮫島選手が会釈しながら入室してくるところだった。
「遅れてすみません」
「鮫島、自己紹介して」
頭が混乱している。左側にいる鷹殿を見遣ると、涼しい──知ってた、と言わんばかりの──顔をしていた。
「鮫島優です、遅れてすみません」
「さ……沢村朋樹です、よろしくお願いします」
「世界柔道優勝おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
向かいに座った鮫島選手は、濃い顔立ちに猫のような瞳──どこからどう見ても勝ち組だ──でオレを見てくる。その力強い眼差しに、ずっと目を合わせていられなくて──失礼だけど──会釈と同時に目を逸らした。
──澪さんじゃない……
騙された気分だったけど、これは仕事なんだと、割り切るように笑みを作った。
「15階の会議室での顔合わせです」
「はい……」
銀縁のメガネを人差し指で持ち上げながら、鷹殿──ボルゾイみたいな細面で痩せてる──がそう言った。オレはそれに頷き、後からビルへと入る。
「先方は少し遅れるかも、と、窺ってます」
「そうなんだ」
──忙しいのかな……?
営業だと──吉村から──聞いていたから、仕方ないだろう、と思う。
エレベーターで目的階に上がり、廊下──絨毯は暗い青緑色で、落ち着いた雰囲気だ──を鷹殿の後に就いて歩く。何人かとすれ違い、会釈しながら会議室前に到着した。
──ここで澪さんは働いているのか……
妙に感慨深く思っていると、鷹殿がノックし、中から返事があった。
「どうぞ」
「失礼いたします」
「この度はわざわざご足労ありがとうございます。私、社長秘書の中村杏璃と申します」
そう自己紹介し──狐みたいな細面でつり目だ──会釈する。オレも頭を下げた。
「私、沢村朋樹と申します。本日はよろしくお願いいたします」
次いで鷹殿も自己紹介し──ドア近くの──椅子に腰掛けた。
「すぐに参りますので……」
「あ、はい」
スーツは着慣れない。だが、顔合わせだからと、父が着るように、と言ったから──普段はジャージで出勤している──仕方なく着ているようなものだ。
──でも、顔合わせって実際、何をするんだろう?
撮影の打ち合わせとかだろうか?と思っていると、不意にドアが叩かれた。緊張に、思わず姿勢を正してしまう。
──そもそもオレって、仕事で澪さんに会った事ないな……
やはりスーツだろうか?似合うだろうなと想像していると──失礼します、と声がかかり──背後でドアの開く音がした。ふと、違和を感じる。
──今の声、澪さんのじゃない……?
立ち上がりながら少し振り返ると──凛々しい顔をした──鮫島選手が会釈しながら入室してくるところだった。
「遅れてすみません」
「鮫島、自己紹介して」
頭が混乱している。左側にいる鷹殿を見遣ると、涼しい──知ってた、と言わんばかりの──顔をしていた。
「鮫島優です、遅れてすみません」
「さ……沢村朋樹です、よろしくお願いします」
「世界柔道優勝おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
向かいに座った鮫島選手は、濃い顔立ちに猫のような瞳──どこからどう見ても勝ち組だ──でオレを見てくる。その力強い眼差しに、ずっと目を合わせていられなくて──失礼だけど──会釈と同時に目を逸らした。
──澪さんじゃない……
騙された気分だったけど、これは仕事なんだと、割り切るように笑みを作った。
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