ホワイト・ルシアン

たける

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第11章.怒り

4.

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痛い。体が。でも、特に痛むのは、胸の方だ。


──朋樹……


康介さんとしたから、俺を嫌いになったのだろうか?
でも、会わせてくれたのは朋樹だし……と、また同じ事を考えてるな、って思っていると、目が覚めた。

「け……いと……?」
「澪くぅん……!」

号泣してるタヌキ、じゃなく、圭人が俺を見下ろしていた。


──え?何で圭人が?あ、ふ、服は……!


着てた。良かったって、安堵する。朋樹が着せてくれたんだろう……って、あれ?首を少しだけ上げて見回しても──まだ体は起こせそうにない──その姿はなかった。

「朋樹は?」
「先輩ぃ?」

イラッとした口調で──初めて聞いた──そう言うと、いないよ、って言いながら、ベッドに腰掛けてきた。

「澪君に酷い事しちゃったから、合わせる顔がないみたいで、俺に澪君を託して帰っちゃった」
「ひ……どい、事って……?」

もしかして、あれを聞いたんだろうか?

「俺からは言えない、だって。何をカッコつけてんのか。澪君に酷い事しといてさっ」
「け、圭人、俺、そんなに酷い事されてないよ?それに、俺のせいでもあるし……」

怒ってたのは、きっと俺の事だ。朋樹の気持ちを知ってて、康介さん──父親だし、複雑だったろう──に抱かれたから……

「ちゃんと説明して。と……友達でしょ?」

プン、と、腕を組みながら、そっぽを向いた圭人の耳は──照れて──赤く、友達、と言う言葉が初々しく聞こえた。


──ありがとう……


圭人の気遣い──優しさ──が嬉しい。関係を持ったけど──フッちゃったけど──友達になってくれるんだ。

「う、うん……あのね……?」

ゆっくり、朋樹と関係を持った事や、ずっと探してる人がいる事、それが朋樹の父親だった事を話し、チラと圭人の様子を伺った。

「ぶぶぶ……部長?」
「驚きすぎだよ」

笑ってしまう。でもそれで、少し気持ちが楽になったみたいだ。

「うわー、そりゃ、俺が敵わない訳だよ。沢村部長、ダンディでモテるし……うわー」
「ふふ……まだ続きがあるんだけど……」

康介さんと会わせてくれたのが、朋樹だった事、会って関係を持った事、それを朋樹に報告した事。


──それから……


詳細は──勿論──伏せたけど、朋樹が怒ってた事、そして抱かれて今に至り、俺を心配して圭人を呼んでくれたんだろうと、締めくくった。

「だから、朋樹をあんまり責めないであげて」
「でもぉ……怒って抱いたって事は、乱暴にされたって事でしょ?」

そりゃ責めるよ、と、唇を尖らせた。

「うん、でも、非は俺にもあるから……」

そう言うと、圭人はふーっと息を吐いた。

「……澪君がそう言うなら、あんまり責めないけど。じゃあさ、ちょっと聞いていい?」
「ん?なに?」
「澪君は、沢村先輩と、部長、どっちが好きなの?」
「え……?」
「俺はさ、先輩と食事に行った時、澪君は先輩を好きになるだろうなーって、思ったんだ。けど、部長との事を聞いたらさ、どうなんだろう、って」

じぃと見つめてくる──無垢な──目に、愛しさが込み上げる。まるで弟のような大切さが、湧いてきたみたいだった。

「どっちって……正直、分からない……」


──そんなの、今は考えられない。


いつか、それに答えを出さないといけないだろうし、たとえ出したとしても、その時には受け入れて貰えないかも知れない。
だとしても今は、考えたくなかった。

「……そっか、そうだよね。そんな事があってすぐじゃ、考えられないよね」

ごめん、って、謝る圭人の頭を撫でた。

「もうちょっと休んだら、帰るよ」
「うん。送ってくから、安心して」

ほにゃっと笑い、抱き締めてくれる。俺は、そんな圭人に腕を回し──ぽっちゃりが心地いい──安心して目を閉じた。




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