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第8章.再会
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エレベーターで部屋に戻る途中、電話が鳴った。番号だけが表示されているから、きっとあの人だろう。
沢村康介──48歳で186センチ──は31歳で現役を引退し、現在サンライズ・ジャパン事務系部長と柔道部のコーチを兼任しているそうだ。
沢山ある画像には、柔和な笑みを浮かべる姿や、柔道着姿、スーツ姿などがあり、ちょっと垂れ目で──秋田犬みたい──愛嬌のあるダンディな人、と言う印象だ。
「……はい」
4コール目で、通話ボタンをスライドする。また、指が震え出していた。
『初めまして。あの、私、沢村康介と言います。あの……息子から聞いてると思いますが、その……』
少し低い声がする。あの日、耳に囁かれた声だ。
鼓動が凄く早まってる。
「あ、初め……まして。剣崎澪、です。その……」
目的階に到着すると扉が開き、慌ててRボタンを押して帰宅を先伸ばしにする。稼働する静かなモーター音に混ざり、自分の心音まで聞こえてやしないかと、不安になった。
『今夜会って下さるそうで……』
「あ、はい。是非……」
何処でお会いします?と、聞けずに黙っていると、沢村さんがじゃあ、と、切り出してくれた。
『じゃあ、あのバー……ルトロヴァイユ、で待ち合わせはどうでしょう?』
「はい、分かりました。じゃあ、そこで……」
22時に、と言う事で、通話が終わった。ちょうど屋上に到着し、火照った顔を少しでも冷やそうとエレベーターを降りる。けど、室外機から熱風が吹き出し、ちっとも涼しくない。汗が滲んできた。
──ルトロヴァイユで……
フランス語で、再会を意味する。
今回の舞台に最適ではないだろうか?
待ち合わせまで、あと4時間程ある。
取り敢えずシャワーを浴びて、軽く食事して、それから着替えて……って、何を着ればいいだろう?以前は確か、シャツにスラックスと言うラフな──6月だったな、と思い出す──格好だった。今回も同じ様な格好でいいかな、と思う。もう9月と言えど、まだまだ暑いし。
金網越しに、景色を眺める。もう暗くなり始めてきて、昼間には見える海は見えなかった。
──会ったらどうなるだろう?
もしかして、会えない方が良かった、なんて事にならないといいけど、って、思う。
沢村康介──48歳で186センチ──は31歳で現役を引退し、現在サンライズ・ジャパン事務系部長と柔道部のコーチを兼任しているそうだ。
沢山ある画像には、柔和な笑みを浮かべる姿や、柔道着姿、スーツ姿などがあり、ちょっと垂れ目で──秋田犬みたい──愛嬌のあるダンディな人、と言う印象だ。
「……はい」
4コール目で、通話ボタンをスライドする。また、指が震え出していた。
『初めまして。あの、私、沢村康介と言います。あの……息子から聞いてると思いますが、その……』
少し低い声がする。あの日、耳に囁かれた声だ。
鼓動が凄く早まってる。
「あ、初め……まして。剣崎澪、です。その……」
目的階に到着すると扉が開き、慌ててRボタンを押して帰宅を先伸ばしにする。稼働する静かなモーター音に混ざり、自分の心音まで聞こえてやしないかと、不安になった。
『今夜会って下さるそうで……』
「あ、はい。是非……」
何処でお会いします?と、聞けずに黙っていると、沢村さんがじゃあ、と、切り出してくれた。
『じゃあ、あのバー……ルトロヴァイユ、で待ち合わせはどうでしょう?』
「はい、分かりました。じゃあ、そこで……」
22時に、と言う事で、通話が終わった。ちょうど屋上に到着し、火照った顔を少しでも冷やそうとエレベーターを降りる。けど、室外機から熱風が吹き出し、ちっとも涼しくない。汗が滲んできた。
──ルトロヴァイユで……
フランス語で、再会を意味する。
今回の舞台に最適ではないだろうか?
待ち合わせまで、あと4時間程ある。
取り敢えずシャワーを浴びて、軽く食事して、それから着替えて……って、何を着ればいいだろう?以前は確か、シャツにスラックスと言うラフな──6月だったな、と思い出す──格好だった。今回も同じ様な格好でいいかな、と思う。もう9月と言えど、まだまだ暑いし。
金網越しに、景色を眺める。もう暗くなり始めてきて、昼間には見える海は見えなかった。
──会ったらどうなるだろう?
もしかして、会えない方が良かった、なんて事にならないといいけど、って、思う。
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