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第6章.沢村康介
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帰りたくない、と言うので、取り敢えずホテルへ連れてきた。私の気持ちはますます昂り、部屋の扉を閉めた途端、ベッドまで待てなくてキスをした。
ついさっき降り始めた雨が窓を叩く音を聞きながら、彼のシャツを急いで脱がせる。薄暗い照明に小麦色の肌が照らされると、奪い合っていた唇をじっくり彼の唇に重ねた。
「このまま君を抱きたい」
「抱いてますよ」
そう言ってクスクス笑い──随分酔ってるから──腰に回した腕をほどかせた。そして首を捻りながら、悪戯っぽく僅かに目を細める。
「そう言う事じゃなくて……」
言ってしまった、と思ったが、どうやらからかわれているらしい。それに彼は、今の状況を楽しんでいるようで、私も楽しくなってきた。
「ここまできて、駄目だって?」
「そう言ったらどうします?」
物腰柔らかな口調でそう言われれば、尚更抱きたくなってくる。私は再度抱き着くと、腕を解かれる前に彼をベッドへ押し倒した。
「それ、本気かい?」
余裕そうに笑っているが、その表情は強張っている。強がって、わざと慣れているように──こう言うシチュエーションに──振る舞っているのが分かった。
「無理しなくていいんだよ……」
抱きたいが、無理強いしたくない。
そっと、短く刈り込まれた髪黒を撫で、目尻──まだ涙が溜まって潤んでいる──から頬へと、掌を滑らせた。
「無理じゃないです……何かもぅ、どうでもいい……」
失恋したと言っていたから、悲しみで自暴自棄になっているんだろう。そんな彼を、自分の都合でどうこうしたいとは思わない。
私は体を起こすと、ベッドに横たわったままの彼を振り返った。
「ここに泊まっていくといいよ。私は帰るから」
大層残念だが、火遊びなどした事がない私にとって、ギリギリの駆け引きは──勝負事ならいけるが──苦手だ。
「え……?しない、んですか……?」
「あぁ、しない。無理強いは、私のポリシーに反するからね」
ポンポンと、彼の肩を叩き、じゃあ、と踵を返すと、手を握られた。冷たい指先が、手の甲にくい込む。
「行かないで……!」
「そう言ったって……」
振り返りながら、そっと彼の手──微かに震えている──を握る。そんな私の手に、彼はもう片方の手を重ねた。
「1人にしないで下さい……」
潤む瞳から、また涙が溢れた。
私はベッドに腰かけると、強く彼を抱き締めた。
「抱いて、いいのかい?」
こくり、と頷いたが、胸に頬を寄せる彼の体は、まだ小さく震えている。
「こんな経験は、えと……だ、抱かれる側は、その、初めてだから……」
「そ、そうなんだ……」
赤らむ頬に、不安げに戦慄く唇。
初対面なのに、愛らしくて仕方ない。
「じゃあ、とびっきり優しくするよ」
怖かったり、痛かったら言ってね、と、囁きながら、首筋に吸い付く。すると彼は、ビクリとしながら肩をすぼめた。表情だけでなく、今では全身まで酷く緊張し強張っている。ゆっくりとズボンも下ろすと、彼は更に顔を赤くしながら顔を背けてしまった。
「恥ずかしい?でも、君の顔が見たいんだ、見せて」
「だ……駄目……です。凄く……恥ずかしいから……」
耳まで赤い彼は、腕で顔を隠してしまった。それを残念に思いながらも、私は行為を続ける事にした。
興味は、今にも爆発してしまいそうだ。
早く彼のナカに入りたかったが──抱かれる側が初めての──どう崩れるのか気になり、ゆっくりと愛撫する事にする。
手や指が彼を刺激する度に、初めての体は快感を感じ始め、少し押し殺すように漏れる声は、背筋が震える程妖艶だった。
「ハァ……ハァ……もう、放して……」
私の指や手が先走りでベトベトになった頃、彼は腕の隙間から訴えてきた。涙ぐむ目が私を欲情させているとも知らず、じっと見つめてくる。
「どうしてだい?」
そう言って舌を出し彼のペニスを舐めると、そのまま口に含んだ。
「んンッ……!あ、はゥッ……!ひ、ひぁッ……あァッ……あッ……!」
咥内に流れ込む白濁を飲み込み、顔を上げると、彼は激しく胸を上下させていた。
顔を隠せない程疲労しているのか、腕はだらりとベッドから落ちている。
「どう?まだ、放して欲しいかい?」
ずしりと彼にのしかかり、片足を持ち上げる。すると力無くではあるが、彼は微笑みを浮かべた。
「気持ち……良かった、です……」
素直な言葉と真っ直ぐな視線に、胸が大きく高鳴る。
──可愛い……
「じゃあ、もっと気持ちいい事、してあげようか……?」
そう言って全身にキスを施し、舌を──胸板や腹筋、くびれた腰など──這わせてから、ゆっくり秘部に指を差し挿れる。すると彼は、シーツを強く掴んだ。
「んンッ……」
まだ固い場所を丹念に解して行く。次第に指通りは良くなり、2本目を挿入した。
「ァあっ!」
焦らすよう、ゆるゆるとした抜き挿しを繰り返していると、彼は下半身を震わせ始めた。どうやら早く欲しいらしいが、もう少し苛めてやりたい気分の私は、抜き挿しの速度を上げ、じぃっと彼を見つめた。
「あッ……も、駄目……!」
「まだ駄目だ、と言ったら?」
すると彼は困った顔で笑い、私の腕を掴んだ。その力は弱々しく、また温かい。
「仕方ないなぁ……」
簡単に折れてしまうと、後孔から指を引き抜いた。じっとりと濡れる指先を舐めてから、いよいよ彼の体を横に倒し、片足を持ち上げる。まだもう少し、慣らしてからの方がいいのでは、と思うが、彼のペニスは苦しそうに震えながら、先走りを垂らしていた。
「本当に大丈夫?」
再度、確認する。彼は大丈夫です、と囁き、軽いキスをした。私はそれを合図とし、抑えていた欲望をゆっくりと、彼に挿入した。
「う……わぁ……ッ!」
驚きと困惑──異物への反応なのか痛みに対してなのかは分からない──に目を瞑り、口元を両手で隠した彼が震える。
「可愛いね、その仕草……」
耳まで赤い。私は彼を傷つけないよう、慎重に、探るように腰を動かし始めた。
「うゥッ……はッ……!あ、うわ……あンッ!」
逃げるように腰を引く彼を見遣り、私は早速見つけた弱い場所を攻めるべく、ゆっくりと移動する。
「あ……ストップ……!」
「うん?」
思わず動きを止め、彼を見つめた。
「ふふ……ふふふ……」
笑ってる。
「何だい……?」
腕の中で彼が移動すると、ベストポイントからズレた。
「別に、何も……?」
まだ笑っている。
「じゃあ、もういいだろう?」
ずらされたポイントを即座に修正すると、彼は私にしがみついた。
「ここ、駄目なのかい?」
ぎゅっと抱きしめ、ゆっくりと腰を動かす。
「あッ……!駄目!」
きつく絞めつけられ、危うく先に果ててしまいそうになった。その仕返し、ではないが、分かった、と嘘をつき、安堵する彼をそのまま激しく揺さ振ってやる。
「ふあァッ……!あッ!ず……るいッ……あンッ!」
何度も彼のナカを往復し続けているうちに、私も呻き声が漏れ始めた。
「あぁ……ハァッ……気持ちいいよ……」
そう囁いた自分の声が、何だか甘くて鼓膜がくすぐったい。だが、腕の中で乱れる彼を見ると、それも仕方がないような気になった。
「ふッ……ぅう…ンッ、んッんゥッ……!」
片腕で口元を隠し、噛んでいる姿は実に愛らしい。
「どうして腕を噛むんだい……?」
そう言って腕を退かすと、彼は涙をいっぱい溜めた目で、私を熱く見つめてきた。
「んふぅ……ハァッ……ハァッ……だって……」
「まだ恥ずかしいかい?」
妖艶な──愛らしくもある──笑みを返す彼へキスをすると、冷えた心が温かくなるのを感じる。
「気持ち……よくて……」
「なら、もう少し、気持ち良く……」
「はン……!」
シーツに押し付けながら、彼を突き上げる。窮屈な場所が更に閉塞し、苦しくても、もう1度突き上げた。短い矯声を上げる彼は、しっかり私にしがみついている。勿論私だって、彼をしっかりと抱いた。
「痛くないかい?」
「大丈夫……ぅうンッ!」
今度は連続して突き上げる。潤んだ目が私を見上げ、口元は僅かに綻んでいた。
「今度は君から、キスして欲しいな」
「え……どう、して……?」
「甘えてるんだ」
ニコリと笑うと、彼は苦笑し──体を捻って──額にキスをくれた。彼の方が年下だと思うが、不思議と甘えたくなる。
再び突き上げると、彼は私の頭を抱えて揺れた。
まだ雨はたくさん降っていて、雨垂れの音が激しく聞こえている。
「君……名前、は?」
ベッドが激しく軋んでいる。彼を俯せにし、何度も腰を叩きつけた。その都度短い矯声を漏らしては、シーツを握る姿が愛しくてならない。
「知らなくったって、いいでしょ……?」
どこか悲しい響きのある声音で、彼は──名乗る事を──拒んだ。そうだな、と答えながらも、この関係をずっと続けて行きたい──始まったばかりと言うか、始まってもないのか──と思っても、口には出せなかった。まるで夢のようなこの関係が、言ってしまったら消えてしまうかのようで。
でも、きっと君は笑う──気がする──だろう。
「ふッ……あ、あッ!」
連続して突き上げていると、やがて互いに射精し、ぐったりとシーツの上に転がった。隣で彼も荒い呼吸を繰り返している。
「君も、今私と同じ気持ちでいるかい?」
「ん……?どんな気持ち、ですか?」
優しい眼差しが見つめてくる。
それと同じ様に、雨垂れも優しく聞こえる。
「明日、憶えていたら、教えるよ」
暫く、じっとこっちを見つめていた彼だったが、やがて幾度か早い瞬きをし、ゆっくりと、ほどけるように笑った。
「はい……」
ついさっき降り始めた雨が窓を叩く音を聞きながら、彼のシャツを急いで脱がせる。薄暗い照明に小麦色の肌が照らされると、奪い合っていた唇をじっくり彼の唇に重ねた。
「このまま君を抱きたい」
「抱いてますよ」
そう言ってクスクス笑い──随分酔ってるから──腰に回した腕をほどかせた。そして首を捻りながら、悪戯っぽく僅かに目を細める。
「そう言う事じゃなくて……」
言ってしまった、と思ったが、どうやらからかわれているらしい。それに彼は、今の状況を楽しんでいるようで、私も楽しくなってきた。
「ここまできて、駄目だって?」
「そう言ったらどうします?」
物腰柔らかな口調でそう言われれば、尚更抱きたくなってくる。私は再度抱き着くと、腕を解かれる前に彼をベッドへ押し倒した。
「それ、本気かい?」
余裕そうに笑っているが、その表情は強張っている。強がって、わざと慣れているように──こう言うシチュエーションに──振る舞っているのが分かった。
「無理しなくていいんだよ……」
抱きたいが、無理強いしたくない。
そっと、短く刈り込まれた髪黒を撫で、目尻──まだ涙が溜まって潤んでいる──から頬へと、掌を滑らせた。
「無理じゃないです……何かもぅ、どうでもいい……」
失恋したと言っていたから、悲しみで自暴自棄になっているんだろう。そんな彼を、自分の都合でどうこうしたいとは思わない。
私は体を起こすと、ベッドに横たわったままの彼を振り返った。
「ここに泊まっていくといいよ。私は帰るから」
大層残念だが、火遊びなどした事がない私にとって、ギリギリの駆け引きは──勝負事ならいけるが──苦手だ。
「え……?しない、んですか……?」
「あぁ、しない。無理強いは、私のポリシーに反するからね」
ポンポンと、彼の肩を叩き、じゃあ、と踵を返すと、手を握られた。冷たい指先が、手の甲にくい込む。
「行かないで……!」
「そう言ったって……」
振り返りながら、そっと彼の手──微かに震えている──を握る。そんな私の手に、彼はもう片方の手を重ねた。
「1人にしないで下さい……」
潤む瞳から、また涙が溢れた。
私はベッドに腰かけると、強く彼を抱き締めた。
「抱いて、いいのかい?」
こくり、と頷いたが、胸に頬を寄せる彼の体は、まだ小さく震えている。
「こんな経験は、えと……だ、抱かれる側は、その、初めてだから……」
「そ、そうなんだ……」
赤らむ頬に、不安げに戦慄く唇。
初対面なのに、愛らしくて仕方ない。
「じゃあ、とびっきり優しくするよ」
怖かったり、痛かったら言ってね、と、囁きながら、首筋に吸い付く。すると彼は、ビクリとしながら肩をすぼめた。表情だけでなく、今では全身まで酷く緊張し強張っている。ゆっくりとズボンも下ろすと、彼は更に顔を赤くしながら顔を背けてしまった。
「恥ずかしい?でも、君の顔が見たいんだ、見せて」
「だ……駄目……です。凄く……恥ずかしいから……」
耳まで赤い彼は、腕で顔を隠してしまった。それを残念に思いながらも、私は行為を続ける事にした。
興味は、今にも爆発してしまいそうだ。
早く彼のナカに入りたかったが──抱かれる側が初めての──どう崩れるのか気になり、ゆっくりと愛撫する事にする。
手や指が彼を刺激する度に、初めての体は快感を感じ始め、少し押し殺すように漏れる声は、背筋が震える程妖艶だった。
「ハァ……ハァ……もう、放して……」
私の指や手が先走りでベトベトになった頃、彼は腕の隙間から訴えてきた。涙ぐむ目が私を欲情させているとも知らず、じっと見つめてくる。
「どうしてだい?」
そう言って舌を出し彼のペニスを舐めると、そのまま口に含んだ。
「んンッ……!あ、はゥッ……!ひ、ひぁッ……あァッ……あッ……!」
咥内に流れ込む白濁を飲み込み、顔を上げると、彼は激しく胸を上下させていた。
顔を隠せない程疲労しているのか、腕はだらりとベッドから落ちている。
「どう?まだ、放して欲しいかい?」
ずしりと彼にのしかかり、片足を持ち上げる。すると力無くではあるが、彼は微笑みを浮かべた。
「気持ち……良かった、です……」
素直な言葉と真っ直ぐな視線に、胸が大きく高鳴る。
──可愛い……
「じゃあ、もっと気持ちいい事、してあげようか……?」
そう言って全身にキスを施し、舌を──胸板や腹筋、くびれた腰など──這わせてから、ゆっくり秘部に指を差し挿れる。すると彼は、シーツを強く掴んだ。
「んンッ……」
まだ固い場所を丹念に解して行く。次第に指通りは良くなり、2本目を挿入した。
「ァあっ!」
焦らすよう、ゆるゆるとした抜き挿しを繰り返していると、彼は下半身を震わせ始めた。どうやら早く欲しいらしいが、もう少し苛めてやりたい気分の私は、抜き挿しの速度を上げ、じぃっと彼を見つめた。
「あッ……も、駄目……!」
「まだ駄目だ、と言ったら?」
すると彼は困った顔で笑い、私の腕を掴んだ。その力は弱々しく、また温かい。
「仕方ないなぁ……」
簡単に折れてしまうと、後孔から指を引き抜いた。じっとりと濡れる指先を舐めてから、いよいよ彼の体を横に倒し、片足を持ち上げる。まだもう少し、慣らしてからの方がいいのでは、と思うが、彼のペニスは苦しそうに震えながら、先走りを垂らしていた。
「本当に大丈夫?」
再度、確認する。彼は大丈夫です、と囁き、軽いキスをした。私はそれを合図とし、抑えていた欲望をゆっくりと、彼に挿入した。
「う……わぁ……ッ!」
驚きと困惑──異物への反応なのか痛みに対してなのかは分からない──に目を瞑り、口元を両手で隠した彼が震える。
「可愛いね、その仕草……」
耳まで赤い。私は彼を傷つけないよう、慎重に、探るように腰を動かし始めた。
「うゥッ……はッ……!あ、うわ……あンッ!」
逃げるように腰を引く彼を見遣り、私は早速見つけた弱い場所を攻めるべく、ゆっくりと移動する。
「あ……ストップ……!」
「うん?」
思わず動きを止め、彼を見つめた。
「ふふ……ふふふ……」
笑ってる。
「何だい……?」
腕の中で彼が移動すると、ベストポイントからズレた。
「別に、何も……?」
まだ笑っている。
「じゃあ、もういいだろう?」
ずらされたポイントを即座に修正すると、彼は私にしがみついた。
「ここ、駄目なのかい?」
ぎゅっと抱きしめ、ゆっくりと腰を動かす。
「あッ……!駄目!」
きつく絞めつけられ、危うく先に果ててしまいそうになった。その仕返し、ではないが、分かった、と嘘をつき、安堵する彼をそのまま激しく揺さ振ってやる。
「ふあァッ……!あッ!ず……るいッ……あンッ!」
何度も彼のナカを往復し続けているうちに、私も呻き声が漏れ始めた。
「あぁ……ハァッ……気持ちいいよ……」
そう囁いた自分の声が、何だか甘くて鼓膜がくすぐったい。だが、腕の中で乱れる彼を見ると、それも仕方がないような気になった。
「ふッ……ぅう…ンッ、んッんゥッ……!」
片腕で口元を隠し、噛んでいる姿は実に愛らしい。
「どうして腕を噛むんだい……?」
そう言って腕を退かすと、彼は涙をいっぱい溜めた目で、私を熱く見つめてきた。
「んふぅ……ハァッ……ハァッ……だって……」
「まだ恥ずかしいかい?」
妖艶な──愛らしくもある──笑みを返す彼へキスをすると、冷えた心が温かくなるのを感じる。
「気持ち……よくて……」
「なら、もう少し、気持ち良く……」
「はン……!」
シーツに押し付けながら、彼を突き上げる。窮屈な場所が更に閉塞し、苦しくても、もう1度突き上げた。短い矯声を上げる彼は、しっかり私にしがみついている。勿論私だって、彼をしっかりと抱いた。
「痛くないかい?」
「大丈夫……ぅうンッ!」
今度は連続して突き上げる。潤んだ目が私を見上げ、口元は僅かに綻んでいた。
「今度は君から、キスして欲しいな」
「え……どう、して……?」
「甘えてるんだ」
ニコリと笑うと、彼は苦笑し──体を捻って──額にキスをくれた。彼の方が年下だと思うが、不思議と甘えたくなる。
再び突き上げると、彼は私の頭を抱えて揺れた。
まだ雨はたくさん降っていて、雨垂れの音が激しく聞こえている。
「君……名前、は?」
ベッドが激しく軋んでいる。彼を俯せにし、何度も腰を叩きつけた。その都度短い矯声を漏らしては、シーツを握る姿が愛しくてならない。
「知らなくったって、いいでしょ……?」
どこか悲しい響きのある声音で、彼は──名乗る事を──拒んだ。そうだな、と答えながらも、この関係をずっと続けて行きたい──始まったばかりと言うか、始まってもないのか──と思っても、口には出せなかった。まるで夢のようなこの関係が、言ってしまったら消えてしまうかのようで。
でも、きっと君は笑う──気がする──だろう。
「ふッ……あ、あッ!」
連続して突き上げていると、やがて互いに射精し、ぐったりとシーツの上に転がった。隣で彼も荒い呼吸を繰り返している。
「君も、今私と同じ気持ちでいるかい?」
「ん……?どんな気持ち、ですか?」
優しい眼差しが見つめてくる。
それと同じ様に、雨垂れも優しく聞こえる。
「明日、憶えていたら、教えるよ」
暫く、じっとこっちを見つめていた彼だったが、やがて幾度か早い瞬きをし、ゆっくりと、ほどけるように笑った。
「はい……」
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