幻想序曲

たける

文字の大きさ
上 下
26 / 26
第六章

2.

しおりを挟む
行くしかなかった。しかし2人には、京助の故郷など分からない。全ては藤崎の能力にかかっていた。このペンダントを通じて見える風景。今と昔では大分変わっているだろうが、京助だって何かを示してくれるに違いない。そう信じて、2人は電車に乗り込んだ。
京助の遺体を灰にし、小瓶に入れて懐にしまった。2人は行き着く事が出来るのなら、京助を故郷に埋めてやろうと思ったのだ。しかし、取り敢えずは大阪に出なければならない。大阪に出て、それからは……

「茂、オレたち」
「どうする事も出来なかったけど、追うしかないんだもん。僕たちには何ができるかって考える前に、行動してみようよ」

力のない微笑みを浮かべ、澤木が言った。

「そうだな、とりあえずそれしか……!」

藤崎の顔から暗さが消え、驚きが現れた。澤木はそんな顔を覗き込む。

「どうしたの、ねぇ拓巳」
「十字架が、オレの頭に何かを伝えて来るんだ。これは、誰だ。まさか、選ばれるべき者なのか?」

どこを見ているようでもなく、藤崎が言った。澤木はその視線の先が分からなかったが、じっと藤崎を見ている。

「きっと美山さんが教えてくれているんだ。きっとそうだよ!」
「だったら、だったら近いな。オレ達の近くにいるみたいだ。この少年の回りには人がいて、電車の中か、ガタンガタン音がする」

緊張した。新たな選ばれし者が見つかった事により、2人に希望が生まれたようだった。何の能力を持っているのかまでは分からないが、期待が持てそうだった。藤崎の目が輝いた。しかしまだ少年だ、少々不安なものの、こいつを信じるしかない。次はないのだ。きっと。

「どんな子なの?」

澤木の目も輝き出した。自然と声も明るくなる。

「何歳ぐらいだろ、ジーンズにセーター。なかなかのオシャレで、黒い髪が目にかかって……子供じゃないみたいな鋭い瞳をしている」

目を閉じ、こめかみに手を当てながらポツリポツリと呟く。澤木も目を閉じ、想像をしているようだ。

「大きな特徴はある?」
「大きな……?大きいとまではいかないかも知れないけど、左目の下にホクロが1つあるな」

ふーんと言いつつ、澤木は目を開けた。目の前に人が立っていた、いつの間に。少し驚いたいたが、視線を藤崎に向けた。
大阪駅は人だらけで、この中から選ばれるべき者のあの少年を捜すのは、難しそうに思えた。しかし2人は懸命に捜した。頼れるのは藤崎の能力と、十字架のみ。キョロキョロし、小さな希望を探す。

「凄い人だね」
「ああ。この中から少年を……」

少年の景色が頭に広がる。柱が見える、そしてこれは、自分たちだ、少年は自分達を見ている。藤崎は頭を上げた。

「見つかったの?」
「あそこだ、オレたちを見ている」

藤崎の指の先には、1人の少年の姿があった。こちらを見ている──なんて鋭い瞳、これ程までとは想像もつかなかった──澤木はゴクリと唾を飲んだ。
急に回りに人の姿がなくなった。どよどよしていた声すらも、空気に消えてしまったようだった。

「お兄さん達、ボクを捜してるんでしょ。待ってたよ、ずっと」
「君は、分かっているのかい自分の事を」

澤木が言った。少年は目元に笑みを浮かべ、歩み寄ってきた。

「もちろん分かってるよ。親から全てを教えてもらったんだもの。ボクはね、ボクの能力はね、消す、消滅なんだよ」

藤崎がピクリと体を震わせた。こいつは子供なんかじゃない。見かけに惑わされているだけだ。しかし、選ばれるべき者には違いない。

親を・・ここにいる人を消したのか・・・・・・・・・・・・?」

勢いよく澤木も藤崎を見た。爆弾のような台詞せりふだった。

「うん。ジャマだったからね。ところで、お兄さん達名前は?ボクは三神みかみタカシ」

スッと差し伸べられた、タカシの白く小さな手。藤崎はその手を取る事を、暫く躊躇したが、すぐに思い切ったように乱暴に取った。信じられるのか?むしろ恐い、オレはこいつに恐怖を抱いている・・・・・・・・・・・・。倒せるのか、奴を?

「オレは藤崎拓巳、能力は千里眼」
「ぼ、僕は澤木茂。結界を張ったり破ったりするのが能力、です」

藤崎の上に手を置いた。

「よろしくね、拓巳さん、茂さん」

そう言って、タカシは不気味に笑った。









しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...