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再び現場に戻ってきた高木聖夜は、扉を開いた青年の美しさに息を飲んだ。だがその背後──祭壇の上──にあの悪魔を見ると、そう言う事かと微笑んだ。
「どうもすみません。1つ2つばかりいいですか?」
山下刑事が愛想のいい笑顔を浮かべると、青年は迷惑そうながらも中へ入れてくれた。
「それで、何をお聞きになりたいんですか?」
青年はベンチの1つに腰かけると、物憂げなため息と共にそう尋ねた。すると加藤刑事が、聖夜を悪魔研究者の先生だと紹介してくれた。その肩書きは勿論、嘘ではない。父がその方面では著名な人間で、聖夜もその後を継ぐつもりでいたから。
「初めまして、高木先生。私はこの教会でお世話になっていた、酒井護と言います」
握手を交わしているとあの悪魔が、のこのこと酒井の側へやってきた。そしてその細腰に腕を回すと、やぁ、とでも言うように片手を上げた。だが聖夜はそれを無視し、酒井を見つめていた。
「あの魔方陣なんですがね、先生が悪魔を呼び出したものだと断言してくれてな」
事情聴取の時とは違う口ぶりで加藤刑事が言った。酒井は微笑して頷くと、それで、と言わんばかりに刑事2人を交互に見た。
「酒井さん、あの魔方陣から、確実に悪魔は喚起されています。私は悪魔が見えますし、その足取りをあの魔方陣から辿る事も出来るのです」
聖夜がそう説明すると、酒井の顔が一瞬強張った。それをメガネの奥で笑いながら、聖夜は言葉を続ける。
「刑事さん達からお聞きしてますよ、貴方が最初にこれを魔方陣だと指摘されたそうですね」
そこでわざとらしく2人の刑事を振り返った。
「私は魔方陣を見てきます」
そう言って聖夜は悪魔の脇を通り抜け、自身が描いた魔方陣を見下ろした。
これは不完全だった。だがあの酒井護は、見事悪魔喚起した。
──何が違う?
何故あの悪魔は、俺と契約を先に結ばなかった?
そう考えながら屈み込んだ。すると悪魔が、ニヤニヤ笑いながら近付いてきた。
「昨日会ったな」
「あぁ」
膝で口元を隠しながら、それでも注意深く答えた。
「奴が君を喚起したんだな?」
「あぁ。美人だろ」
自分の恋人を自慢するかのように、悪魔は酒井を振り返って笑った。酒井は刑事達とまだ話している。
──俺の悪魔を横取りしやがって……生き地獄を味わわせてやる……
聖夜の中に妙な怒りが込み上げてきた。
教会で世話になっているような奴が悪魔を喚起出来て、何故悪魔研究者の息子である自分が出来なかったのか?
答えは簡単だ。
酒井は、正しい悪魔喚起の方法を記した本を所持しているのだ。
「刑事さん、ちょっといいですか?」
立ち上がり聖夜が刑事を呼びつけると、酒井も後からのろのろとついてきた。
「どうかしましたか?」
加藤刑事が言った。
「殺人犯と悪魔喚起をした者が同一人物だと思いますか?」
そう質問すると、刑事達は顔を見合わせた。だが酒井はそんな刑事達の背後から聖夜の質問に答えた。
「私は同一人物だと思います」
「だとしたら、犯人は貴方だ」
聖夜は酒井を振り返った。悪魔メフィストフェレスは、笑ったまま聖夜の側に立っている。
「そっ……そんな馬鹿な!私が父を殺したと?」
酒井は慌ててそう言った。勿論酒井護は犯人ではない。聖夜こそ犯人だ。だがそんな事を知らない刑事2人は、酒井と聖夜を交互に見遣っている。
「先生、その理由は?」
山下刑事が半ば興奮気味な声を発したが、加藤刑事は押し黙っていた。
「理由?動機と言う事ならば、私には分かりません。ですがここに、彼の喚起した悪魔がいるのです。そしてその悪魔は、酒井護に喚起されたと私に言いました」
「悪魔が!我々には見えませんが、そこにいるんですか?」
「嘘だ!悪魔なんていない!」
酒井護は叫んだが、聖夜はそれを笑って見つめた。
──横取りした責任は必ず負ってもらうからな……!
「なら、見えるようにして差し上げましょう……!」
聖夜が呪文を唱えると、酒井は止めろ、と叫び飛び付こうとした。それを加藤刑事が慌てて阻止すると、聖夜の側の空気が揺らめいた。
「これが、酒井護が喚起した悪魔です」
揺らめく空気はやがて人形を形成し、そこに長身の男を出現させた。山下刑事は目を丸くし、口までぽかんと開いている。加藤刑事は唾を飲み、そこに現れた男を観察するように見つめていた。
彼等の目に、悪魔メフィストフェレスは人間と変わらないように見えるだろう。ただ眼球が赤い事と、少々爪が鋭く伸びている事以外は。
「参ったな……」
そう言って笑った口に、獣のような牙がずらりと並んでいる。
「本当に悪魔か……?」
そう尋ねずた加藤刑事へ、メフィストフェレスが目を向けた。
「君達の言葉でもってオレを説明するならな」
「刑事さん、彼は酒井護により喚起されました。きっと探せばこの教会内に、悪魔喚起を記した本が見つかる筈です」
聖夜がそう言い教会内を両手で示すと、加藤刑事は頷いた。
「酒井護さん、アンタから詳しい事情が聞きたい。署まで同行してもらえるな?」
山下刑事が先を歩いて行く。酒井は屈辱に満ちた顔で聖夜を睨んでいたが、やがて観念したように加藤刑事に従う事を承諾した。
「君は……どうする?」
加藤刑事がメフィストフェレスを見上げた。すると悪魔は聖夜を見遣った後、酒井について行くと言った。
「どうもすみません。1つ2つばかりいいですか?」
山下刑事が愛想のいい笑顔を浮かべると、青年は迷惑そうながらも中へ入れてくれた。
「それで、何をお聞きになりたいんですか?」
青年はベンチの1つに腰かけると、物憂げなため息と共にそう尋ねた。すると加藤刑事が、聖夜を悪魔研究者の先生だと紹介してくれた。その肩書きは勿論、嘘ではない。父がその方面では著名な人間で、聖夜もその後を継ぐつもりでいたから。
「初めまして、高木先生。私はこの教会でお世話になっていた、酒井護と言います」
握手を交わしているとあの悪魔が、のこのこと酒井の側へやってきた。そしてその細腰に腕を回すと、やぁ、とでも言うように片手を上げた。だが聖夜はそれを無視し、酒井を見つめていた。
「あの魔方陣なんですがね、先生が悪魔を呼び出したものだと断言してくれてな」
事情聴取の時とは違う口ぶりで加藤刑事が言った。酒井は微笑して頷くと、それで、と言わんばかりに刑事2人を交互に見た。
「酒井さん、あの魔方陣から、確実に悪魔は喚起されています。私は悪魔が見えますし、その足取りをあの魔方陣から辿る事も出来るのです」
聖夜がそう説明すると、酒井の顔が一瞬強張った。それをメガネの奥で笑いながら、聖夜は言葉を続ける。
「刑事さん達からお聞きしてますよ、貴方が最初にこれを魔方陣だと指摘されたそうですね」
そこでわざとらしく2人の刑事を振り返った。
「私は魔方陣を見てきます」
そう言って聖夜は悪魔の脇を通り抜け、自身が描いた魔方陣を見下ろした。
これは不完全だった。だがあの酒井護は、見事悪魔喚起した。
──何が違う?
何故あの悪魔は、俺と契約を先に結ばなかった?
そう考えながら屈み込んだ。すると悪魔が、ニヤニヤ笑いながら近付いてきた。
「昨日会ったな」
「あぁ」
膝で口元を隠しながら、それでも注意深く答えた。
「奴が君を喚起したんだな?」
「あぁ。美人だろ」
自分の恋人を自慢するかのように、悪魔は酒井を振り返って笑った。酒井は刑事達とまだ話している。
──俺の悪魔を横取りしやがって……生き地獄を味わわせてやる……
聖夜の中に妙な怒りが込み上げてきた。
教会で世話になっているような奴が悪魔を喚起出来て、何故悪魔研究者の息子である自分が出来なかったのか?
答えは簡単だ。
酒井は、正しい悪魔喚起の方法を記した本を所持しているのだ。
「刑事さん、ちょっといいですか?」
立ち上がり聖夜が刑事を呼びつけると、酒井も後からのろのろとついてきた。
「どうかしましたか?」
加藤刑事が言った。
「殺人犯と悪魔喚起をした者が同一人物だと思いますか?」
そう質問すると、刑事達は顔を見合わせた。だが酒井はそんな刑事達の背後から聖夜の質問に答えた。
「私は同一人物だと思います」
「だとしたら、犯人は貴方だ」
聖夜は酒井を振り返った。悪魔メフィストフェレスは、笑ったまま聖夜の側に立っている。
「そっ……そんな馬鹿な!私が父を殺したと?」
酒井は慌ててそう言った。勿論酒井護は犯人ではない。聖夜こそ犯人だ。だがそんな事を知らない刑事2人は、酒井と聖夜を交互に見遣っている。
「先生、その理由は?」
山下刑事が半ば興奮気味な声を発したが、加藤刑事は押し黙っていた。
「理由?動機と言う事ならば、私には分かりません。ですがここに、彼の喚起した悪魔がいるのです。そしてその悪魔は、酒井護に喚起されたと私に言いました」
「悪魔が!我々には見えませんが、そこにいるんですか?」
「嘘だ!悪魔なんていない!」
酒井護は叫んだが、聖夜はそれを笑って見つめた。
──横取りした責任は必ず負ってもらうからな……!
「なら、見えるようにして差し上げましょう……!」
聖夜が呪文を唱えると、酒井は止めろ、と叫び飛び付こうとした。それを加藤刑事が慌てて阻止すると、聖夜の側の空気が揺らめいた。
「これが、酒井護が喚起した悪魔です」
揺らめく空気はやがて人形を形成し、そこに長身の男を出現させた。山下刑事は目を丸くし、口までぽかんと開いている。加藤刑事は唾を飲み、そこに現れた男を観察するように見つめていた。
彼等の目に、悪魔メフィストフェレスは人間と変わらないように見えるだろう。ただ眼球が赤い事と、少々爪が鋭く伸びている事以外は。
「参ったな……」
そう言って笑った口に、獣のような牙がずらりと並んでいる。
「本当に悪魔か……?」
そう尋ねずた加藤刑事へ、メフィストフェレスが目を向けた。
「君達の言葉でもってオレを説明するならな」
「刑事さん、彼は酒井護により喚起されました。きっと探せばこの教会内に、悪魔喚起を記した本が見つかる筈です」
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山下刑事が先を歩いて行く。酒井は屈辱に満ちた顔で聖夜を睨んでいたが、やがて観念したように加藤刑事に従う事を承諾した。
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