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カップルを装い、ホテルに潜入する。ロビーは多種多様な人種が往来し、ボーイも忙しなく働いていた。
ミカが受付で宿泊の手続きを行っている間、トムは注意深く辺りを見回していた。だが不審な人物もおらず、端末はここより上の階を示していた。
「さぁ、行きましょう」
腕を絡ませ、にこやかな作り笑いでエレベーターに乗り込む。するとエレベーターガールがどちらへ、と尋ねてきた。
「5階で」
ミカが告げると、エレベーターは上昇した。
「素敵なホテルねぇ、アナタ」
怪しまれないよう、ミカが妻を演じる。トムも満面の笑みを作り、それに応じた。
「そうだな。疲れが一気に吹き飛んでしまいそうだ」
そう言いながら、うんざりしていた。疲れなど吹き飛ぶ筈もない上に、この演技。
作り笑い。苦痛で仕方がない。
「5階でございます」
扉が開き、礼を言ってエレベーターから出ると、職業的な笑みを浮かべた姿が、扉の向こうに消えた。途端顔から作り笑いを消したトムは、ポケットから端末を取り出した。
「奴等は7階らしいぞ」
「階段を使いましょう」
廊下を早歩きで進み、階段を2つ飛ばしで突き進む。ミカも後から追ってきて、真剣な顔で辺りを見回した。
「どの部屋?」
辺りは静かで、ミカは声を潜めて言った。
「706号室だ」
階段を挟んで右手側に、701号室から705号室がある。目指す部屋は、階段のすぐ左手側だ。
壁に背を押し当て、息を潜めて様子を伺うが、何も聞こえてはこなかった。
「どうする?部屋を訪ねてみましょうか?」
ミカの提案にトムが首を振った瞬間、廊下の最奥にあるエレベーターの扉が開き、黒いスーツを着た2人の男が現れた。だがその背後から、バートンが着いて出て来たのを見た途端、トムは奥歯を噛み締めた。
──何故あの女が!
男達はバートンを押しやると、706号室へと入って行った。
「捕まったみたいね……もう、アンディはどうしたの?」
そう言ったミカの顔は険しかったが、トムはそれ以上の渋面を作っていた。
「奴等はバートンを使って、俺達と交渉するつもりだ」
「まずいわね……向こうには人質が2人もいるじゃない。完全に私達、劣勢よ」
その時、階段を誰かが駆け上がってくる音がした。ミカはサッと階段を覗くと、驚きに目を丸くした。
「アンディだわ」
「なに?」
トムも覗くと、2つ下の踊り場で、息をつくアンディの姿があった。
階段を降りると、アンディは疲れはてた顔を上げた。
「チェイス、ミカ、大変なんだ!ジュリアが拐われたよ!」
顔面蒼自で訴えるアンディは、汗だくになっている。
「そうみたいね。ついさっき、部屋に連れて行かれたわ。ねぇアンディ、どうして彼女が拐われたの?」
そのいきさつをアンディが話すと、トムは更に厳めしい顔になった。
「向こうがそう言うつもりだったら、こっちも前もって手を打ってやらないと」
そう言ってトムはアンディを引き寄せると、その耳にそっと囁いた。
「うまくいくかな?」
「分からない。だが、それに賭けてみるしかない」
ミカが受付で宿泊の手続きを行っている間、トムは注意深く辺りを見回していた。だが不審な人物もおらず、端末はここより上の階を示していた。
「さぁ、行きましょう」
腕を絡ませ、にこやかな作り笑いでエレベーターに乗り込む。するとエレベーターガールがどちらへ、と尋ねてきた。
「5階で」
ミカが告げると、エレベーターは上昇した。
「素敵なホテルねぇ、アナタ」
怪しまれないよう、ミカが妻を演じる。トムも満面の笑みを作り、それに応じた。
「そうだな。疲れが一気に吹き飛んでしまいそうだ」
そう言いながら、うんざりしていた。疲れなど吹き飛ぶ筈もない上に、この演技。
作り笑い。苦痛で仕方がない。
「5階でございます」
扉が開き、礼を言ってエレベーターから出ると、職業的な笑みを浮かべた姿が、扉の向こうに消えた。途端顔から作り笑いを消したトムは、ポケットから端末を取り出した。
「奴等は7階らしいぞ」
「階段を使いましょう」
廊下を早歩きで進み、階段を2つ飛ばしで突き進む。ミカも後から追ってきて、真剣な顔で辺りを見回した。
「どの部屋?」
辺りは静かで、ミカは声を潜めて言った。
「706号室だ」
階段を挟んで右手側に、701号室から705号室がある。目指す部屋は、階段のすぐ左手側だ。
壁に背を押し当て、息を潜めて様子を伺うが、何も聞こえてはこなかった。
「どうする?部屋を訪ねてみましょうか?」
ミカの提案にトムが首を振った瞬間、廊下の最奥にあるエレベーターの扉が開き、黒いスーツを着た2人の男が現れた。だがその背後から、バートンが着いて出て来たのを見た途端、トムは奥歯を噛み締めた。
──何故あの女が!
男達はバートンを押しやると、706号室へと入って行った。
「捕まったみたいね……もう、アンディはどうしたの?」
そう言ったミカの顔は険しかったが、トムはそれ以上の渋面を作っていた。
「奴等はバートンを使って、俺達と交渉するつもりだ」
「まずいわね……向こうには人質が2人もいるじゃない。完全に私達、劣勢よ」
その時、階段を誰かが駆け上がってくる音がした。ミカはサッと階段を覗くと、驚きに目を丸くした。
「アンディだわ」
「なに?」
トムも覗くと、2つ下の踊り場で、息をつくアンディの姿があった。
階段を降りると、アンディは疲れはてた顔を上げた。
「チェイス、ミカ、大変なんだ!ジュリアが拐われたよ!」
顔面蒼自で訴えるアンディは、汗だくになっている。
「そうみたいね。ついさっき、部屋に連れて行かれたわ。ねぇアンディ、どうして彼女が拐われたの?」
そのいきさつをアンディが話すと、トムは更に厳めしい顔になった。
「向こうがそう言うつもりだったら、こっちも前もって手を打ってやらないと」
そう言ってトムはアンディを引き寄せると、その耳にそっと囁いた。
「うまくいくかな?」
「分からない。だが、それに賭けてみるしかない」
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