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夫も息子も宇宙へ出てしまい、フラムは毎日1人きりの家に戻っていた。別に趣味もない彼女は、ただアカデミーで候補生達を育てるだけだ。唯一の親友で
あるタルトも、パトロールの為宇宙にいる。話し相手がいないフラムは、講義の時にしか自分の声を聞く事はなかった。
だが、もう1週間もすればファイの乗っているアルテミス号が戻ってくる。それは楽しみだった。
終業のベルが鳴り、今日の講義が終わると、フラムは候補生達より先に教室を出た。もしかしたらリチャードから通信が入るかも知れない。そう考えるだけで足は軽い。
講師達の控え室に入ると、ちょうどフラムのコンピュータが通信をキャッチしたところだった。慌てて受信ボタンを押し席につくと、画面の向こうにはリチャードではなくタルトの姿があった。
『元気にしてる?フラム。タルトよ』
挨拶をしてくる彼女は、相変わらず美しい。顔付きは鋭利な印象があるが、紫色の瞳は魅惑的に輝いている。
「いつも通りよ。どうかしたの?珍しいじゃない、貴方が通信してくるなんて」
資料を片付けながら答えると、タルトは小さな笑い声をあげた。
トリッド人であるタルトは、リタルド人とは対称的に表情豊かだ。地球人によく見られる冗談も話すが、見た目はそうではない。鋭く吊り上がった目と、紫色の髪と瞳。そして特徴的なのは、トリッド人は肌もうっすらと禁色をしている。
『貴方に話さなきゃいけない事があって通信してるの』
「何かしら……?」
控え室にはフラム以外の講師はいない。皆、まだ教室にいるのだろう。
『アタシ、リチャードが好きなのよ。ずっとね。知ってた?』
唐突な話題にも、フラムは表情を崩さなかった。代わりに首を傾げて見せると、感情的なトリッド人の目は更に鋭利になった。
『ずっと我慢してたの。だけどもう無理!無理なのよ!いい?1度しか言わないわよ。リチャードをアタシにちょうだい』
画面に体を乗り出し訴える友人を、フラムは無表情に見つめ返した。ちょうだい、とはどう言う意味だろう。彼は物ではない。
「意味が分からないわ。彼は物ではないし、くれと言われてどうぞ、と言う訳にはいかないわ」
そうフラムが言うと、タルトはその態度に拳を画面に叩きつけてきた。
『馬鹿にしないで!貴方が離婚しましょうと言えばいいのよ!』
廊下の向こうに講師達の足音が聞こえ始め、フラムはため息をついた。早くこの不可解な通信を終わらせたい。そうでなければ、リチャードからの通信を見過ごしてしまうかも知れない。
「彼に聞いて」
そう言うと、フラムは通信を切った。全く馬鹿らしい。これだから感情的な人種は、心底好きになれない。
だが今までのタルトはそうではなかった。感情をこれ程剥き出しにした事はなかった。と言っても、彼女と友人として付き合うようになったのは、リチャードと結婚する少し前の事だ。まだたったの27年の付き合いしかない。そんな短い期間で相手の全てを知る事は難しい。
「どうしたんです?ため息なんて珍しい」
講師のキム・リーが声をかけてきた。それに対し、貴方が珍しいわ、と思うが口にはしない。感情をすぐ言集にするのは、愚かしい行為だ。
「何もありません」
そう言うと、フラムは帰宅準備を始めた。
あるタルトも、パトロールの為宇宙にいる。話し相手がいないフラムは、講義の時にしか自分の声を聞く事はなかった。
だが、もう1週間もすればファイの乗っているアルテミス号が戻ってくる。それは楽しみだった。
終業のベルが鳴り、今日の講義が終わると、フラムは候補生達より先に教室を出た。もしかしたらリチャードから通信が入るかも知れない。そう考えるだけで足は軽い。
講師達の控え室に入ると、ちょうどフラムのコンピュータが通信をキャッチしたところだった。慌てて受信ボタンを押し席につくと、画面の向こうにはリチャードではなくタルトの姿があった。
『元気にしてる?フラム。タルトよ』
挨拶をしてくる彼女は、相変わらず美しい。顔付きは鋭利な印象があるが、紫色の瞳は魅惑的に輝いている。
「いつも通りよ。どうかしたの?珍しいじゃない、貴方が通信してくるなんて」
資料を片付けながら答えると、タルトは小さな笑い声をあげた。
トリッド人であるタルトは、リタルド人とは対称的に表情豊かだ。地球人によく見られる冗談も話すが、見た目はそうではない。鋭く吊り上がった目と、紫色の髪と瞳。そして特徴的なのは、トリッド人は肌もうっすらと禁色をしている。
『貴方に話さなきゃいけない事があって通信してるの』
「何かしら……?」
控え室にはフラム以外の講師はいない。皆、まだ教室にいるのだろう。
『アタシ、リチャードが好きなのよ。ずっとね。知ってた?』
唐突な話題にも、フラムは表情を崩さなかった。代わりに首を傾げて見せると、感情的なトリッド人の目は更に鋭利になった。
『ずっと我慢してたの。だけどもう無理!無理なのよ!いい?1度しか言わないわよ。リチャードをアタシにちょうだい』
画面に体を乗り出し訴える友人を、フラムは無表情に見つめ返した。ちょうだい、とはどう言う意味だろう。彼は物ではない。
「意味が分からないわ。彼は物ではないし、くれと言われてどうぞ、と言う訳にはいかないわ」
そうフラムが言うと、タルトはその態度に拳を画面に叩きつけてきた。
『馬鹿にしないで!貴方が離婚しましょうと言えばいいのよ!』
廊下の向こうに講師達の足音が聞こえ始め、フラムはため息をついた。早くこの不可解な通信を終わらせたい。そうでなければ、リチャードからの通信を見過ごしてしまうかも知れない。
「彼に聞いて」
そう言うと、フラムは通信を切った。全く馬鹿らしい。これだから感情的な人種は、心底好きになれない。
だが今までのタルトはそうではなかった。感情をこれ程剥き出しにした事はなかった。と言っても、彼女と友人として付き合うようになったのは、リチャードと結婚する少し前の事だ。まだたったの27年の付き合いしかない。そんな短い期間で相手の全てを知る事は難しい。
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そう言うと、フラムは帰宅準備を始めた。
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