死神とミュージシャン

たける

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『早瀬タクミ、奇跡の生還!』

新聞の見出しに、大きな文字が派手な色で書かれている。私は新聞をろくに読みもせず、くずかごに捨てた。内容は見ないでも、嘘ばかりが書かれてあるのが容易に想像がついたからだ。

「もったいないじゃないか」

早瀬タクミ──外見はそうだが、中身は私の仲間である死神──が笑う。今は静かになった病室だが、さっきまではテレビカメラやマスコミでごった返し、騒がしかった。

「つまらない」
「そう?もっともらしく、書いてあったけどね」

三上は退院の手続きをしに、病室を離れている。彼女の残り時間は、あと1日だ。明日中には死ぬ事になっている。
昨夜遅くに、私は早瀬タクミをおぶって病室を抜け出した。機械はやはり耳障りな音を立て、慌てて駆け付けた看護師の対応に三上があたった。私はそのままタクシーに乗って三上のアパートに向かい、部屋に早瀬タクミの死体──機械から外された人間は、長くは生きていられないもので、早瀬タクミもタクシーの中で死んだ──を置いて病院にまた戻ったのだ。

「それより、君はどうするつもりなんだ。彼女の死を見届けたら、勿論、こんなゲームは終わりにするんだろう」

恐らく、終わりにはしないだろうと、私は感じていた。と言うのも、彼女──姿が固定する前に会った時──に、人間になりたいのだろうと、薄々感じるものがあったからだ。

「しないよ、終わりになんて」

軽やかに笑う顔は、まさに早瀬タクミだった。彼もそんな風に笑っていた事があった。今ではどこにいるかも分からないが。

「上に知れたらどうするんだ」
「なぁ、内緒にしていてもらえないか?」
「私に何の得があるんだ」
「話す事にだって、何の得もないだろう?」

確かに、ない。私は黙った。すると彼は、続けてこう言った。

「彼女はね、早瀬タクミを愛しているんだ。だから僕は、生き続けなきゃいけない」
「だからの意味が分からない」

何故、死神が、人間の為に人間のフリをして生き続けなければならないのだろう?上に知れたら、その存在が無くなる──そう噂されているだけで、実際のところは分からない──リスクを背負ってまで、そうする必要性が私には不明だった。

「君は担当の人間の望みを、1つだけ叶えると言うサービスをしているんだろう?」
「……あぁ。早瀬タクミの望みも叶えてやった」
「それと同じさ。彼女は、早瀬タクミを死なせたくない。それが彼女の望みだから、だよ」

それなら筋が通るが、それなら三上が死ねば終わりにしても構わないだろう。そう私が言うと、彼は困ったように笑んだ。

「人間になってみたかったんだ」

やはりな、と思ったが、三上が戻ってきたので口をつぐんだまま、私は窓の外を眺めた。
枯葉が枝にしがみつき、風に煽られている。それは人間が生に固執するようで、実に儚い。

「タクミさん、退院の手続きが終わりましたよ」

そう言って笑う三上は、早瀬タクミをどうしたのだろう?その顔からは、目の前にいるのが本物だと信じているように見えた。

「ありがとー。これでカウントダウンライブ、出来るなー!」

私は病室を出た。このまま2人の側にいる意味もない。




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