死神とミュージシャン

たける

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8日目

2.

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遠くで携帯が鳴っている。タクミはうっすらと目を開けた。激しい頭痛に顔をしかめ、ゆっくりと状況を思い出す。どうやら意識を失っていたらしい。

「目が覚めたか」
「俺……どのくらい気を失ってた?」
「5分くらいだ」
「そ……か。あ、そうだ、俺……事故に……」

ひびの入ったフロントガラスに、ボックスカーが見えた。急いでシートベルトを外して車外に出ると、身体中が痛んだ。

「その運転手なら死んだ」
「え……?」
「ついさっき、仲間が見届けにきてたからな」
「な……んで?」

 助手席のドアを引くと、開かなかった。老女が助けを求める、くぐもった声がする。更に力を入れて引くと、重々しい音と共に、何とか開いた。

「大丈夫ですか?」
「夫が……!夫が……!」
「すぐに救急車を呼びますから!おばあさん、出れますか?おい、肩を貸してやってくれ!」

静観している死神にそう言い、タクミは携帯を取り出した。時刻は昼を回っていて、着信履歴が5つも入っていた。恐らく三上からだろう。リハーサルの時間になっても現れないタクミに、連絡を寄越したのだ。それを無視し、救急車を要請する。

「おばあさん、すぐ救急車が来るから、こっちで待ってて」

車から離れた場所に老女を誘導し、タクミは改めて三上に連絡を入れた。

『タクミさん、どうしたんです?遅刻ですよ?』

「悪い。ちょっと事故に巻き込まれちゃってさー」

身体中が痛むが、重症ではないようだ。

『えっ?だ……大丈夫なんですか?今、病院なんですか?』

「俺は大丈夫だよ。ただ相手さんがねー……まぁ、無事に救急車が来たら、そっちに向かうから」

『何を言ってるんですか!タクミさんだって、検査を受けなきゃ駄目ですよ!』

どうせ受けたところで、今日中に死ぬ事には違いない。病院で死ぬよりは、やはり、リハーサルと言えど舞台の上が良かった。

「また連絡する」

そう言って携帯を切った。

「検査を受けないのか」
「いいんだよ。それより、おじいさんの方も引っ張り出さなきゃ」

車に駆け寄るタクミに、死神が、死んでいるのにか、と聞いてきた。老女がその場に泣き崩れる。

「何でそんな事言うんだよ?」

言ってから後悔した。死神は不思議そうに首を捻っている。この死神には、気遣いがないのだ。きっと、全ての死神がそうなのだろう。

「おじいさん出すの、手伝って」

死神が歩いてくる、その遥か後方から、サイレンの音が近づいていた。




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