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8日目
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高速を下り、暫く一般道路を走っていると、辺りの景色が森に囲まれたものに変わった。
鬱蒼と生い茂る葉は、手入れも行き届いていないせいで、隙間なく枝から──木は、雪が積もっているせいで、苦しいと呻いていた──生えていた。
木のトンネルのような道を、ひたすら走る。少し開かれた窓から、冷たい緑の匂いが香っていた。
「あとどのくらいなんだ」
早瀬タクミは──さっきから何度も、頭をガクリと落としては、ハッとして上げる、を繰り返しながら──欠伸を噛み殺しつつ、もうすぐたよ、と、答えた。
「君はどうやら寝不足みたいだな」
昨夜は寝ずに、ずっと時計を眺めていた。
人間は、適度な睡眠をとらなければ、脳の疲れを取れないらしい。きっと早瀬タクミの脳は、休めと──人間の表現で言うところの睡魔だろう──言っているに違いない。
「かもなー」
「眠い時に運転をして、事故に遭った人間を担当した事があるんだが、このままだと君もそうなるみたいだな」
別に皮肉を言った訳ではないが、早瀬タクミが大きな目で──目の下にクマが出来ていて、白目は充血している──睨んできた。
「不吉な事言うなよなー!」
そう彼が言いながら私の方を向いた時、対向車線から走ってきたボックスカーが、中央分離帯をはみ出てこちらに突っ込んできた。
向こうの運転席には、白髪の老人──苦し気に顔を歪め、胸を押さえているのが見えた──が乗っていて、助手席の老女が悲鳴を上げながらハンドルに手をかけている。
「うわぁっ!」
早瀬タクミも悲鳴を上げ、ハンドルを慌てて回した。だがその判断は一瞬遅く、車体前方同士が接触し、激しい衝撃が私達を座席から跳ね上げる。シートベルトが食い込み、頭を天井にぶつけ、2台の車はガードレールを大きく歪めて止まった。
「おい、大丈夫か」
ハンドルに突っ伏している早瀬タクミに声をかける。もしかして死んだのかと思い、手首に触れてみたが、まだ生きていた。どうやら気を失っているだけらしい。目が覚めるまで、文庫本の最後を読みきってしまおうと、私は彼をそのままにしておいた。
鬱蒼と生い茂る葉は、手入れも行き届いていないせいで、隙間なく枝から──木は、雪が積もっているせいで、苦しいと呻いていた──生えていた。
木のトンネルのような道を、ひたすら走る。少し開かれた窓から、冷たい緑の匂いが香っていた。
「あとどのくらいなんだ」
早瀬タクミは──さっきから何度も、頭をガクリと落としては、ハッとして上げる、を繰り返しながら──欠伸を噛み殺しつつ、もうすぐたよ、と、答えた。
「君はどうやら寝不足みたいだな」
昨夜は寝ずに、ずっと時計を眺めていた。
人間は、適度な睡眠をとらなければ、脳の疲れを取れないらしい。きっと早瀬タクミの脳は、休めと──人間の表現で言うところの睡魔だろう──言っているに違いない。
「かもなー」
「眠い時に運転をして、事故に遭った人間を担当した事があるんだが、このままだと君もそうなるみたいだな」
別に皮肉を言った訳ではないが、早瀬タクミが大きな目で──目の下にクマが出来ていて、白目は充血している──睨んできた。
「不吉な事言うなよなー!」
そう彼が言いながら私の方を向いた時、対向車線から走ってきたボックスカーが、中央分離帯をはみ出てこちらに突っ込んできた。
向こうの運転席には、白髪の老人──苦し気に顔を歪め、胸を押さえているのが見えた──が乗っていて、助手席の老女が悲鳴を上げながらハンドルに手をかけている。
「うわぁっ!」
早瀬タクミも悲鳴を上げ、ハンドルを慌てて回した。だがその判断は一瞬遅く、車体前方同士が接触し、激しい衝撃が私達を座席から跳ね上げる。シートベルトが食い込み、頭を天井にぶつけ、2台の車はガードレールを大きく歪めて止まった。
「おい、大丈夫か」
ハンドルに突っ伏している早瀬タクミに声をかける。もしかして死んだのかと思い、手首に触れてみたが、まだ生きていた。どうやら気を失っているだけらしい。目が覚めるまで、文庫本の最後を読みきってしまおうと、私は彼をそのままにしておいた。
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