死神とミュージシャン

たける

文字の大きさ
上 下
37 / 43
8日目

しおりを挟む
高速を下り、暫く一般道路を走っていると、辺りの景色が森に囲まれたものに変わった。
鬱蒼と生い茂る葉は、手入れも行き届いていないせいで、隙間なく枝から──木は、雪が積もっているせいで、苦しいと呻いていた──生えていた。
木のトンネルのような道を、ひたすら走る。少し開かれた窓から、冷たい緑の匂いが香っていた。

「あとどのくらいなんだ」

早瀬タクミは──さっきから何度も、頭をガクリと落としては、ハッとして上げる、を繰り返しながら──欠伸を噛み殺しつつ、もうすぐたよ、と、答えた。

「君はどうやら寝不足みたいだな」

昨夜は寝ずに、ずっと時計を眺めていた。
人間は、適度な睡眠をとらなければ、脳の疲れを取れないらしい。きっと早瀬タクミの脳は、休めと──人間の表現で言うところの睡魔だろう──言っているに違いない。

「かもなー」
「眠い時に運転をして、事故に遭った人間を担当した事があるんだが、このままだと君もそうなるみたいだな」

別に皮肉を言った訳ではないが、早瀬タクミが大きな目で──目の下にクマが出来ていて、白目は充血している──睨んできた。

「不吉な事言うなよなー!」

そう彼が言いながら私の方を向いた時、対向車線から走ってきたボックスカーが、中央分離帯をはみ出てこちらに突っ込んできた。
向こうの運転席には、白髪の老人──苦し気に顔を歪め、胸を押さえているのが見えた──が乗っていて、助手席の老女が悲鳴を上げながらハンドルに手をかけている。

「うわぁっ!」

早瀬タクミも悲鳴を上げ、ハンドルを慌てて回した。だがその判断は一瞬遅く、車体前方同士が接触し、激しい衝撃が私達を座席から跳ね上げる。シートベルトが食い込み、頭を天井にぶつけ、2台の車はガードレールを大きく歪めて止まった。

「おい、大丈夫か」

ハンドルに突っ伏している早瀬タクミに声をかける。もしかして死んだのかと思い、手首に触れてみたが、まだ生きていた。どうやら気を失っているだけらしい。目が覚めるまで、文庫本の最後を読みきってしまおうと、私は彼をそのままにしておいた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生したら、現代日本だった話

千葉みきを
キャラ文芸
平安時代の庶民である時子は、ある日、どこに続いているのかわからない不思議な洞窟の噂を耳にする。 洞窟を探索することにした時子だが、その中で、時子は眠りに落ちてしまう。 目を覚ますと、そこは、現代の日本で、時子はひどく混乱する。 立ち寄った店先、喫茶マロウドで、紅茶を飲み、金銭を払おうとしたが、今の通貨と異なる為、支払うことが出来なかった。その時、隣で飲んでいた売れない漫画家、染谷一平が飲み代を払ってくれた。時子は感謝を告げ、一平に別れを告げその場を去ろうとするが、一平はその不思議な通貨を見せてくれと、時子を引き留める。

職業、死神

たける
キャラ文芸
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 死神とは、死期の近付いた人間に、それを知らせる伝達者。 また、夢の中で夢を叶える者。 1人の死神が、今日も仕事で人間の世界を訪れた。 そこで出会ったのは、今回担当する事になった若者と、同業者だったが……。 ※途中で同性(男同士)の性描写が少しだけ出てきます。また、残酷だと思われるような描写も少しだけ出てきます。 ご覧になる際は、上記の描写が大丈夫な方のみでお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美
キャラ文芸
才能ある者が地下へ落とされる。 歪つな世界の物語。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アカシックレコード

しーたん
キャラ文芸
人は覚えていないだけで、肉体が眠っている間に霊体が活動している。 ある日、ひょんなことから霊体としての活動中の記憶をすべて覚えている状態で目が覚める生活を送ることになってしまった主人公。 彼の霊体は人間ではなかった。 何故か今まで彼の霊体が持っていたはずの記憶がないまま、霊体は神界の争いに巻き込まれていく。 昼は普通の人間として、夜は霊体として。 神界と霊界と幽界を行き来しながら、記憶喪失扱いとなった主人公の霊体の正体を探す日々が始まる。 表紙、イラスト、章扉は鈴春゜様に依頼して描いていただきました。 ※この作品はエブリスタで公開したものを順次転載しながら公開しています

処理中です...