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8日目
1.
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タクミは一睡も出来なかった。ずっとリビングにいて、時計を見ていた。秒針が進む度に、自分の最後の時間が尽きていく。ここにはないが、まるで砂時計だと思った。死神はと言えば、新たに買ってきた文庫本を、ずっと読んでいる。さっきまで読んでいたのはリチャード・バックの『かもめのジョナサン』だった。次いで今読んでいるのはヴィクトル・ユゴーの『ノートル・ダム・ド・パリ』だ。
「なぁ……」
タクミは重い体を懸命に立たせ、壁から時計を外した。
「何だ」
「最期って、いつくるの?」
「さぁ、それも知らないが、今日中にはちゃんとくる」
「ちゃんとって……」
「それより、今日はリハーサルと言うのをやるんだろう」
死神は文庫本を閉じながら尋ねてきた。タクミは、あぁ、と答え、外した時計を見遣った。
「その予定だけど、リハーサルに参加出来るか分からないよな」
のろのろとして、自分の声が聞こえる。自分が緩慢に動けば、それだけ最期の時が遅れるのではないか、と言う気もしていた。
「参加してる途中にくるかも知れないぞ」
「あるかもね」
ステージの上で死ねたらいい、なんて言っていた事もあったなと思い出した。それならそうなるようにしたい。タクミは死神を伴い寝室に向かうと、着替えを済ませた。
「俺さー、死ぬならステージの上がいいなーって、思うんだー」
自宅横の駐車場に行き、運転席に乗り込む。死神は助手席に乗り込んだ。
「叶うかも知れないな」
「だなー」
エンジンをかけ、発進する。野外音楽堂は、車で2時間もかからない場所にある。雪は止んでいるし、渋滞にもならないだろう。
「ふあぁ……」
車を走らせ始めてから暫く経った頃、寝不足が祟って欠伸が出始めた。このままではマズイと、死神に話しかける。
「なぁ、過去にどんな人を担当したのか教えてよ」
「色々だ。君みたいな有名人を何人も担当したし、ヤクザや医者なんかもいた」
死神は前を向いたまま、淡々と答えた。車は高速に乗り、回りに合わせてスピードを上げる。フロントガラスには山とビルが異様な中和を見せていて、左手側には水平線が見えた。
「その人達の最期って、どんなだったの?」
窓ガラスが曇り始めたので、後部座席の窓を少し下げた。途端、冷たい風が車内に舞い込み、タクミは首をすくめた。
「そうだな……事故に遭ったり、災害に遭ったりしたな」
中には、自殺した者もいた、と、死神が付け加え、タクミは返事に窮してしまう。
「そうなんだ……」
そうとしか答えようもない。
「俺はどうなんだろ……」
ハンドルを握る手が、少し白くなっている。どうやら知らない間に力を込めてしまっているようだ。
「ステージの上で、となると、機材からの感電死とか、照明が落下しての圧死とか、じゃないか」
その口調は、夕食の話でもしているかのように楽観的だった。
「なぁ……」
タクミは重い体を懸命に立たせ、壁から時計を外した。
「何だ」
「最期って、いつくるの?」
「さぁ、それも知らないが、今日中にはちゃんとくる」
「ちゃんとって……」
「それより、今日はリハーサルと言うのをやるんだろう」
死神は文庫本を閉じながら尋ねてきた。タクミは、あぁ、と答え、外した時計を見遣った。
「その予定だけど、リハーサルに参加出来るか分からないよな」
のろのろとして、自分の声が聞こえる。自分が緩慢に動けば、それだけ最期の時が遅れるのではないか、と言う気もしていた。
「参加してる途中にくるかも知れないぞ」
「あるかもね」
ステージの上で死ねたらいい、なんて言っていた事もあったなと思い出した。それならそうなるようにしたい。タクミは死神を伴い寝室に向かうと、着替えを済ませた。
「俺さー、死ぬならステージの上がいいなーって、思うんだー」
自宅横の駐車場に行き、運転席に乗り込む。死神は助手席に乗り込んだ。
「叶うかも知れないな」
「だなー」
エンジンをかけ、発進する。野外音楽堂は、車で2時間もかからない場所にある。雪は止んでいるし、渋滞にもならないだろう。
「ふあぁ……」
車を走らせ始めてから暫く経った頃、寝不足が祟って欠伸が出始めた。このままではマズイと、死神に話しかける。
「なぁ、過去にどんな人を担当したのか教えてよ」
「色々だ。君みたいな有名人を何人も担当したし、ヤクザや医者なんかもいた」
死神は前を向いたまま、淡々と答えた。車は高速に乗り、回りに合わせてスピードを上げる。フロントガラスには山とビルが異様な中和を見せていて、左手側には水平線が見えた。
「その人達の最期って、どんなだったの?」
窓ガラスが曇り始めたので、後部座席の窓を少し下げた。途端、冷たい風が車内に舞い込み、タクミは首をすくめた。
「そうだな……事故に遭ったり、災害に遭ったりしたな」
中には、自殺した者もいた、と、死神が付け加え、タクミは返事に窮してしまう。
「そうなんだ……」
そうとしか答えようもない。
「俺はどうなんだろ……」
ハンドルを握る手が、少し白くなっている。どうやら知らない間に力を込めてしまっているようだ。
「ステージの上で、となると、機材からの感電死とか、照明が落下しての圧死とか、じゃないか」
その口調は、夕食の話でもしているかのように楽観的だった。
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