死神とミュージシャン

たける

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7日目

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いつの間にか、眠っていたらしい。ソファから体を起こしたタクミは、寒気を感じた。

「起きたのか」

絨毯に座ったまま、死神が言った。その手には、文庫本が握られている。

「何を読んでるの?」

音楽一筋できたタクミは、流行りのマンガも文庫本も知らない。死神は、表紙を見せてくれた。

「フェルディナント・フォン・シーラッハ……罪悪……?」

長ったらしい名前だ。しかし、死神が罪悪と言うタイトルの本を読んでいるだなんて、何だか可笑しい。

「どうしてそれ、読んでんだ?」
「興味深いタイトルだったからだ」

そう言って、死神は簡単に内容を教えてくれた。
主人公は弁護士であり、作者でもある『私』が、関わった事件を元にしてあるものだそうだ。
凶悪犯罪が起きるでもなく、普通の人達がある日、事件を起こしたり巻き込まれたりする、地味と言ったらあれだが、死神は、淡々としている、と言った。

「本が好きなんだ?」

タクミはエアコンのスイッチを入れ、昨夜脱いで椅子にかけたままのジャンバーを羽織った。

「そうだな。人間の世界は実にものが多くて退屈しないが、この、物語と言うのは面白い」
「他の死神も、そうなの?」
「さぁ、どうだろうな。好きは様々あるみたいだが、別にわざわざ尋ねたりしない」

あまり仲良くないのだろうか?まぁ、死神が仲良くしている、と言う絵も浮かばないが。

「今日で最期かー……」

朝陽を見たような気はするが、あまり覚えていない。カーテンは開いたままで、小さな庭は雪に埋もれていた。

「君は自分の最期がどうなのか、聞かないんだな」

景色を見ていたタクミに、死神が尋ねてきた。

「聞いたって、どうなる訳でもないし、恐いだけだから……」
「まぁ、聞かれても、私にもどんな最期を君が迎えるか、知らないんだがな」

大半の人間は、最期をどう迎えるか聞きたがるらしい。その気持ちも分からなくはないが、死神が知らない以上、聞いても分からない事だ。
ふと、カウントダウンライブの事を思い出した。どうせ出来やしないが、何をやるかも決めていないのに、どうするつもりだろう?
タクミは携帯を取り出し、三上にかけた。死神は再び、文庫本を読み始める。

『もしもし』

「おはよ。あのさー、カウントダウンライブの件なんだけどさー、曲とか場所とか決めてないけど、どうなってんの?」

『あれは全て、社長がお決めになられたんです』

「え?社長が?」

『はい……会場は野外音楽堂で、曲は、今日ご自宅にリストを持って行きます』

「えー!リハーサルとか、どうすんのさー?」

『バンドの予定は押さえていますので、明日リハーサルを……』

「急すぎるだろー?」

とは言え、三上にはやはり断り切れなかったのは分かっている。タクミはため息をつくと、取り敢えず三上が家に来た時に話し合おうと、電話を切った。死神が顔を上げる。その無表情な顔に、明日死ぬのに?と、書いてあるような気がした。




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