死神とミュージシャン

たける

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6日目

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イベントが終わり、出演者達が打ち上げに向かう中、私と早瀬タクミは帰宅した。最期なのだから、参加したらどうだ、と言った私の提案を、彼が拒否したのだ。

「そう言えば、君のマネージャーが、悩みを聞き出せと私に頼んできたんだが」

リビングでくつろぐ早瀬タクミに、私はそう尋ねてみた。彼はぼんやりとしていて、私を、と言うより、その後ろの窓を見ているようだった。

「悩み?そりゃー、あるよ」
「何だ」
「明日には死ぬって事」

日付は変わっており、確かに早瀬タクミが言うように、彼は死ぬだろう。だが、それが悩みだなんて、私にはよく分からない。

「どうして死ぬ事が悩みなんだ。人間はいつか死ぬ。早いか遅いかの違いだろう」
「まぁ、そりゃそうなんだけどさー……人間って、特に若い奴なんかはさー、自分が死ぬだなんて、考えないもんなんだよ」

そう言って煙草に火をつけた早瀬タクミは、私に座るよう促した。別に座らなくとも話は聞けるのだか、私は彼に従って絨毯に座った。

「あぁ、そんなような事を、以前担当した人間も言っていたな」

死は若者ではなく、老いた者に訪れるものだと、勝手に認識している節があり、突然突き付けられる死に、若者は気持ちがついていかないのだ、と言っていた。

「君もそうなのか」
「そうだね。病気とかを患ってるってなら、また違うんだろうけど、俺は健康だし、自分がもう死ぬんだなんて、信じたくないな」

紫煙が天井に昇る。いつだったか、火葬場で働く人間を担当した時に、長細い煙突から立ち上る煙を見たのと、似ているなと思った。

「だが君の死は、事前に伝えたじゃないか」

いわゆる余命宣告と、何等変わらないではないか、と言うと、早瀬タクミは微笑し、そうだねと言った。

「でもさー、君の命はあと1週間だ、なんて、短すぎるよ。1ヶ月ならまだしもさー」
「そう言うものなのか」

死期を伝えるのは1週間前だと特に決まってはいないが──その期間はまちまちで、3日前だったり5日前だったりもする──そう言われたらそうなのだと思っているので、それについて疑問を持った事はなかった。私からしてみれば──1週間だろうが1ヶ月だろうが、大した違いはないと思うのだが──悩む程のものではないと思う。

「そうだよ。1週間なんて、あっと言う間さ」
「確かにそうだな」
「俺が何したってんだよー……」

嘆くようにそう言った彼は、上を向いたまま、涙を流した。

「まだ死にたくないよ……」

真っ赤になった目が、私を見つめた。私は──可哀想に、だとか、死なせたくない、と言った慰めの言葉は言わない──だろうな、と思うだけだ。

「マネージャーには、何て言えばいいんだ」
「聞けなかった、で、いいんじゃないかな」

微笑を浮かべているが、早瀬タクミはまだ泣いていた。




    
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