死神とミュージシャン

たける

文字の大きさ
上 下
24 / 43
5日目

2.

しおりを挟む
寒さに目が覚めると、死神は立ったままだった。凍える指で目を擦り時計に目をやると、もうすぐ撮影の時間が迫っている。飛び起きてソファから足を下ろすと、雑誌を踏んでしまった。

「ヤバい!遅刻しちまうよー!」

シャワーを浴びている暇はない。そっとカーテンの隙間から外を伺うと、空はどんよりと雲っていた。

「天気悪いなー……」

そう呟いてから玄関を出ると、北風が身を切るように吹き、タクミはジャンバーの前を合わせた。

「さっぶいなぁ!君、意外と薄着だけど大丈夫?」

そう尋ねると、死神は首を傾げた。

「我々には感じない」
「羨ましいな」
「そうか。私は感じる方が羨ましいが」

寒い中でタクシーを拾い、後部座席に2人して乗り込むと、運転手がドアを閉めた。

「山の教会まで行って」
「はい、分かりました」

運転手がメーターを回し、徐行しながら進む。

「しかし寒いですね。タクミさんは歌手だから、風邪とかひけないから大変でしょ」
「そうだね。健康管理には、人一倍気を使うよなー」

路地を抜けると、タクシーは加速した。そして一般道に出ると、麓にある教会を目指す為に左折車線に移動する。

「今からは何の仕事なんだ」

死神が尋ねてきた。

「今朝録り終えたアルバムの、ジャケット撮影だよ。君にも写ってもらうからね」
「私もか」
「そうだよ。いいじゃん、記念にさー、1枚ぐらい」

無表情から察する事は難しいが、恐らく気乗りしていないだろう事は窺えた。だが、どうしても一緒の写真が欲しかったタクミは──頼むよと──死神に懇願した。

「分かったよ」

そう言って了承を得たタクミは、運転席横にある時計を見た。何とか間に合いそうだと安堵し、窓に目を向ける。雲に覆われた空は依然どんよりとし、明日のクリスマスには雪が降りそうな予感をはらんでいるようだ。

「明日はホワイトクリスマスになりそうだなー」

そう呟くと、運転手がラジオのスイッチを入れてくれた。ステレオから、流行りの音楽が流れてくる。タクミは目を閉じ、曲に聞き入った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

職業、死神

たける
キャラ文芸
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 死神とは、死期の近付いた人間に、それを知らせる伝達者。 また、夢の中で夢を叶える者。 1人の死神が、今日も仕事で人間の世界を訪れた。 そこで出会ったのは、今回担当する事になった若者と、同業者だったが……。 ※途中で同性(男同士)の性描写が少しだけ出てきます。また、残酷だと思われるような描写も少しだけ出てきます。 ご覧になる際は、上記の描写が大丈夫な方のみでお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美
キャラ文芸
才能ある者が地下へ落とされる。 歪つな世界の物語。

後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符

washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アカシックレコード

しーたん
キャラ文芸
人は覚えていないだけで、肉体が眠っている間に霊体が活動している。 ある日、ひょんなことから霊体としての活動中の記憶をすべて覚えている状態で目が覚める生活を送ることになってしまった主人公。 彼の霊体は人間ではなかった。 何故か今まで彼の霊体が持っていたはずの記憶がないまま、霊体は神界の争いに巻き込まれていく。 昼は普通の人間として、夜は霊体として。 神界と霊界と幽界を行き来しながら、記憶喪失扱いとなった主人公の霊体の正体を探す日々が始まる。 表紙、イラスト、章扉は鈴春゜様に依頼して描いていただきました。 ※この作品はエブリスタで公開したものを順次転載しながら公開しています

処理中です...