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4日目
2.
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もう、何回も聞いた曲だが、タクミはアユムの肉声に涙を堪えきれなかった。彼が死んだと聞いてから初めて聞くから、余計に胸が詰まる。だが死神はそれを、無表情に聞いていた。聞き終えると巻き戻し、タクミは感想を尋ねてみた。
「どうだった?凄いだろー」
「悪いが、私にはどう凄いかは分からない」
素っ気ない感想に、ガクリと肩が落ちる。だがそんなものは関係ない。タクミは死神の向かいに座った。
「この曲を、君と……田中アユムとやりたいんだ」
「さっきから、やりたい、と言うが、私は何をやるんだ」
「歌だよ。ギターは君、弾けないだろう?」
「あぁ、やってみた事はないが、原理なら知っている」
「え?弾けるって事?」
まさかの答えに、ジャンバーの内ポケットにかけた手を止める。
「弾けると思う。楽譜とか教本とかは、たくさん読んでるからな」
読んでいるのと、実際に弾いてみるのは違う。だが、全くの素人ではないようだ。それなら、弾いてもらってもいいだろう。
「それなら、ギターもやってもらおうかな。取り敢えずさー、この曲、覚えてよ。俺はギター取って来るから」
死神を残し、タクミは会議室を出てスタジオに向かった。中はまだ誰も来ていなくてがらんとしていたが、楽器は揃っている。そこからアコースティックギターを2本拝借した。
会議室に戻る途中、ふと思い出して三上に電話をかけた。2コールで出る。
「あ、もしもしー、おはよー」
『お早うございます。どうかされたんですか?こんな朝早くに』
早朝だと言うのに、きびきびとした声だ。きっともう、とっくに起きていたのだろう。
「実はさー、今もう、ミックススタジオにいるんだよ」
『え?もうですか?確か収録はお昼からでしたでしょう?』
手帳をめくる音がする。どうやら予定を確認しているようだ。
「まぁ、そうなんだけどさー。ほら、前に話してた田中アユム君て覚えてる?」
廊下を会議室に向けて歩き出したが──片手にギター2本を持つのが重くて──やはり途中で足を止めてギターを壁にもたれさせた。
『覚えてますよ。その方に会えたんですか?』
「そうなんだよ!でさー、今、一緒にやる曲を練習してんだよ。だから、迎えはいらないよって話しなわけ」
『分かりました。でも、収録の予定は変えてませんよね?』
「うん、変えてない。練習が必要だからね」
『それでしたら私は、昼前にそちらに伺いますので』
じゃあ、と言って携帯を切ると──ポケットに仕舞い──再びギターを抱えて会議室に戻った。すると、死神は歌っていた。ラジカセから聞こえるアユムの声で、目を閉じて。
「もう覚えたの?」
確かに歌詞は少ないが、タクミは暗記するのに一晩はかかった。
「覚えたよ」
「記憶力がいいんだなー」
拝借してきたギターを1本、死神に渡し、タクミは内ポケットから四つ折りにした手書きの譜面を取り出した。昨夜のうちに、死神と歌えるようにアレンジしたものだ。それを長机に広げる。
「これ、読める?」
「勿論だ」
そう言うなり、死神はギターをチューニングし始めた。タクミも同じ様にする。やがて終えた死神が、先にギターを弾き始めた。上手いかどうかは別として、正確に音を奏でていく。
「どうだ、弾けてるか」
「凄いじゃん!こいつぁ、楽譜をやり直さないとだな」
タクミがアレンジした譜面は、歌だけを2人で歌えるようにしたものだったので、これをギターも2本、弾けるようにしなければならない。そうする事で、もっと音に奥行きが出るだろう。
「すぐ書き直すから、ちょっと待っててよ」
「分かった」
そう言うと死神は、懐から文庫本を取り出して読み始めた。
「どうだった?凄いだろー」
「悪いが、私にはどう凄いかは分からない」
素っ気ない感想に、ガクリと肩が落ちる。だがそんなものは関係ない。タクミは死神の向かいに座った。
「この曲を、君と……田中アユムとやりたいんだ」
「さっきから、やりたい、と言うが、私は何をやるんだ」
「歌だよ。ギターは君、弾けないだろう?」
「あぁ、やってみた事はないが、原理なら知っている」
「え?弾けるって事?」
まさかの答えに、ジャンバーの内ポケットにかけた手を止める。
「弾けると思う。楽譜とか教本とかは、たくさん読んでるからな」
読んでいるのと、実際に弾いてみるのは違う。だが、全くの素人ではないようだ。それなら、弾いてもらってもいいだろう。
「それなら、ギターもやってもらおうかな。取り敢えずさー、この曲、覚えてよ。俺はギター取って来るから」
死神を残し、タクミは会議室を出てスタジオに向かった。中はまだ誰も来ていなくてがらんとしていたが、楽器は揃っている。そこからアコースティックギターを2本拝借した。
会議室に戻る途中、ふと思い出して三上に電話をかけた。2コールで出る。
「あ、もしもしー、おはよー」
『お早うございます。どうかされたんですか?こんな朝早くに』
早朝だと言うのに、きびきびとした声だ。きっともう、とっくに起きていたのだろう。
「実はさー、今もう、ミックススタジオにいるんだよ」
『え?もうですか?確か収録はお昼からでしたでしょう?』
手帳をめくる音がする。どうやら予定を確認しているようだ。
「まぁ、そうなんだけどさー。ほら、前に話してた田中アユム君て覚えてる?」
廊下を会議室に向けて歩き出したが──片手にギター2本を持つのが重くて──やはり途中で足を止めてギターを壁にもたれさせた。
『覚えてますよ。その方に会えたんですか?』
「そうなんだよ!でさー、今、一緒にやる曲を練習してんだよ。だから、迎えはいらないよって話しなわけ」
『分かりました。でも、収録の予定は変えてませんよね?』
「うん、変えてない。練習が必要だからね」
『それでしたら私は、昼前にそちらに伺いますので』
じゃあ、と言って携帯を切ると──ポケットに仕舞い──再びギターを抱えて会議室に戻った。すると、死神は歌っていた。ラジカセから聞こえるアユムの声で、目を閉じて。
「もう覚えたの?」
確かに歌詞は少ないが、タクミは暗記するのに一晩はかかった。
「覚えたよ」
「記憶力がいいんだなー」
拝借してきたギターを1本、死神に渡し、タクミは内ポケットから四つ折りにした手書きの譜面を取り出した。昨夜のうちに、死神と歌えるようにアレンジしたものだ。それを長机に広げる。
「これ、読める?」
「勿論だ」
そう言うなり、死神はギターをチューニングし始めた。タクミも同じ様にする。やがて終えた死神が、先にギターを弾き始めた。上手いかどうかは別として、正確に音を奏でていく。
「どうだ、弾けてるか」
「凄いじゃん!こいつぁ、楽譜をやり直さないとだな」
タクミがアレンジした譜面は、歌だけを2人で歌えるようにしたものだったので、これをギターも2本、弾けるようにしなければならない。そうする事で、もっと音に奥行きが出るだろう。
「すぐ書き直すから、ちょっと待っててよ」
「分かった」
そう言うと死神は、懐から文庫本を取り出して読み始めた。
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