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4日目
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公園で朝陽を見た私は、読み終えた2冊目の文庫本──書店が閉まる前に、3冊だけ購入した──を閉じた。早瀬タクミに会いに行かなければ。果たして、最期に叶えたい望みが、思い浮かんだだろうか。どちらにしても、彼にはもう時間はない。どんな最期を迎えるにしても、その時にはきちんと見届けなければ。
公園を抜け、ジョギングをする男女とすれ違う。騒がしいので見上げると、電線に雀が連なっていて、どこに食事に行くか相談していた。
大通りを横断しようと信号待ちをしていた時、目の前にタクシーが停車した。呼び止めてもいない上に、信号の手前で停車するのは、確かルール違反だった筈だ。文句を言う筋合いはないと信号の色を見ていると、後部座席の窓がスルスルと下りた。
「おぉい!」
呼ばれてそちらに顔を向けると、早瀬タクミが手招きをしている。
「乗ってくれ!」
私が後部座席に乗り込むと、タクシーはウィンカーを出してゆっくり発進した。
「よかった、ちょうど君に頼みたい事があったんだ」
そう言って微笑する彼の目には、クマが出来ていた。まさか、徹夜で最期の願いを考えていたのだろうか。
「頼みと言うのは、あれか。最期の願いか」
「あぁ、そうだよ」
「そうか。じゃあ聞くが、何を叶えたいんだ」
「それは着いてから話すよ」
「どこに行くんだ。スタジオだろう」
「そうなんだけどさ、ここではちょっと……」
語尾を濁した早瀬タクミは、チラと運転手の方を見た。
最期の願いは、他人に聞かれたくないものが大半だったので、私はそれ以上詮索しなかった。ただ、どのような願いなのだろうと、考えを巡らせる。
スタジオに到着するまで、私も早瀬タクミも口をきかなかった。
「ついてきて」
タクシーを降りるなり、早瀬タクミはそう言って足早にスタジオに入った。私はそれに続く。早朝のスタジオにはあまり人がいないようで、静まり返っていた。
早瀬タクミに案内されて入った部屋は広く──長机とパイプ椅子が並んだ──会議室みたいなところだった。ブラインドは下りていて薄暗く、私は取り敢えず近くの椅子に座った。
「そろそろ聞かせてもらおうか」
今朝読んだ小説に、そんな台詞があった。推理小説で、探偵役を担った主人公に向けられたものだ。
「ちょっと待って……」
椅子に座りもせず、何かを準備している早瀬タクミはそう言った。仕方がなく、もう少し待つ事にする。早瀬タクミは会議室の隅にあったラジカセを長机に乗せ、コンセントを繋ぎ、ジャンバーの胸ポケットからカセットテープを取り出した。
「これは、田中アユム君がラジオ局に持ち込んだものなんだ」
「それが君の願いに、関係あるのか」
「あるよ。これを、君とやりたいんだ」
私が首を傾げている間に、早瀬タクミは再生ボタンを押していた。ラジカセから、激しく掻き鳴らされるギターの音色が飛び出し、私はそれに聞き入った。
公園を抜け、ジョギングをする男女とすれ違う。騒がしいので見上げると、電線に雀が連なっていて、どこに食事に行くか相談していた。
大通りを横断しようと信号待ちをしていた時、目の前にタクシーが停車した。呼び止めてもいない上に、信号の手前で停車するのは、確かルール違反だった筈だ。文句を言う筋合いはないと信号の色を見ていると、後部座席の窓がスルスルと下りた。
「おぉい!」
呼ばれてそちらに顔を向けると、早瀬タクミが手招きをしている。
「乗ってくれ!」
私が後部座席に乗り込むと、タクシーはウィンカーを出してゆっくり発進した。
「よかった、ちょうど君に頼みたい事があったんだ」
そう言って微笑する彼の目には、クマが出来ていた。まさか、徹夜で最期の願いを考えていたのだろうか。
「頼みと言うのは、あれか。最期の願いか」
「あぁ、そうだよ」
「そうか。じゃあ聞くが、何を叶えたいんだ」
「それは着いてから話すよ」
「どこに行くんだ。スタジオだろう」
「そうなんだけどさ、ここではちょっと……」
語尾を濁した早瀬タクミは、チラと運転手の方を見た。
最期の願いは、他人に聞かれたくないものが大半だったので、私はそれ以上詮索しなかった。ただ、どのような願いなのだろうと、考えを巡らせる。
スタジオに到着するまで、私も早瀬タクミも口をきかなかった。
「ついてきて」
タクシーを降りるなり、早瀬タクミはそう言って足早にスタジオに入った。私はそれに続く。早朝のスタジオにはあまり人がいないようで、静まり返っていた。
早瀬タクミに案内されて入った部屋は広く──長机とパイプ椅子が並んだ──会議室みたいなところだった。ブラインドは下りていて薄暗く、私は取り敢えず近くの椅子に座った。
「そろそろ聞かせてもらおうか」
今朝読んだ小説に、そんな台詞があった。推理小説で、探偵役を担った主人公に向けられたものだ。
「ちょっと待って……」
椅子に座りもせず、何かを準備している早瀬タクミはそう言った。仕方がなく、もう少し待つ事にする。早瀬タクミは会議室の隅にあったラジカセを長机に乗せ、コンセントを繋ぎ、ジャンバーの胸ポケットからカセットテープを取り出した。
「これは、田中アユム君がラジオ局に持ち込んだものなんだ」
「それが君の願いに、関係あるのか」
「あるよ。これを、君とやりたいんだ」
私が首を傾げている間に、早瀬タクミは再生ボタンを押していた。ラジカセから、激しく掻き鳴らされるギターの音色が飛び出し、私はそれに聞き入った。
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