死神とミュージシャン

たける

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2日目

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夕方、私がラジオ局に坂井と偽って訪ねると、キツネみたいな顔の男が対応した。彼は私を坂井と思い込み──私がそう仕向けたのだが──実に丁寧に教えてくれた。

「タクミさんなら、昼頃ここに来られましたけど、アルバムの収録があるみたいで、すぐスタジオに向かわれたみたいですよ」

受付には丸い顔の女と、細長い顔の女が座っていて、2人して私を見ては笑いかけてくる。それを無視し、私はキツネ顔に意識を集中させた。

「スタジオ」

そう私が尋ねると、キツネ顔は少し不思議そうな顔をした。私は、慌てて弁解する。

「今回はどのスタジオだったか、聞くのを忘れて……」

苦し紛れだが、よく人間は都合が悪くなると、忘れた、だとか、覚えてない、だとか、聞いてないと言うので、不自然ではないだろう。キツネ顔は、あぁ、と言うような表情をし、口元を少しだけ弛めた。

「そうなんですか。でもタクミさんが使うスタジオは、毎回ミックススタジオでしょ?だから、今回もそこなんじゃないですか?」
「あぁ、そうだったね。どうもありがとう」

私はまた人間相手に礼を言い、立ち去ろうと踵を返した。ミックススタジオは、さっき私が立ち寄った、海の近くに建っているブルーホテルと、このラジオ局の間ぐらいにある筈だったと、コンビニで見た地図を頭の中で思い描く。

「あの、坂井さん」

自動ドアを潜って出ようとした私の背中に、キツネ顔の声が追いすがるように届いた。一瞬、誰の事だと思ったが、そうだ自分は今、坂井と言う男に見えているのだったと思い出して振り返った。

「何だい」
「今度坂井さんも、うちの番組に出て下さいね」

懇願するような必死さで、キツネ顔は拝むような手をしながら言った。

「あぁ、そうだね。前向きに考えておくよ」

これも、人間がよく使う言葉だ。そう言っておけば、無理が生じた場合でも断りやすくなるらしい。キツネ顔はそれを聞き、落胆するように苦笑した。
私はやっと自動ドアを潜った。冬の風が吹いている。皆寒そうに襟を合わせて足早に歩いて行く。その波に入り──今度こそ会わないと──もう早瀬タクミの期限があと5日しかないと考えていた。




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