死神とミュージシャン

たける

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1日目

3.

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海の見えるブルーホテルに到着すると、三上は宿泊したらと言ったタクミの案を断り、タクシーを呼んで自宅に帰ってしまった。それを見送ってから部屋に戻ったタクミは、軽くシャワーを浴びた。時刻は深夜3時を回り、静かだ。ベッドに腰掛けると、ジャンパーからカセットテープを取り出す。ラベルも何もないそれをデッキに入れ、ヘッドホンをしてからスイッチを入れた。
小さな雑音の後、アコースティックギターの音色が激しいコードを掻き鳴らす。やがて、切ない歌声が聞こえ出した。少し鼻にかかったような甘い高音に、切実に人生を訴える歌詞。夢中で聞いていると、3分程の曲はあっと言う間に終わってしまった。他に曲は録音されていないようで、いくら早送ってもそれ以降、何も聞こえなかった。

「こいつぁ凄いな……」

興奮のあまり、つい呟いてしまう。それ程、たった1曲ではあるが、引き込まれた。逸る気持ちでテープを巻き戻し、タクミは壁に立て掛けてあるギターを抱えた。今度は全体ではなく、ギターコードだけを拾うように聞き、1フレーズごとに自分のギターで弾いてみた。難しいコードではないが、自分だったら使わない。それもまた斬新で、胸がときめいた。
大体のコードを拾い上げると、今度は歌詞に注目してみる。愛や恋を歌っているのではなく、もっと身近な、生について歌っているようだ。それが声によく合っていて、胸に突き刺さってくる。
タクミも人生について歌ったものは幾つかあるが、どれも前向きなものだった。だが田中アユムの詞は正反対で、とても悲観的だ。自身を嘆いているようであり、若者達の暗い部分を掘り下げ、しかも自身の声を上手く使っている。
タクミは、何度も何度もテープを巻き戻しては、たった1曲に聞き入った。




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