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1日目
2.
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「お疲れ様!いやぁ、凄い反響だよ、ありがとう」
番組を終えてすぐ、常沖が満面の笑みを浮かべた。回りのスタッフも、やりきった顔をしている。
「お疲れ様です。素晴らしかったですよ」
リクエストのメールやFAX、電話も殺到し、番組の企画としては大成功だった。途中、ラジオ局前で死亡事故が発生したようで、俄に局内も騒然となった。報道番組ではなかった為、常沖の番組では、その事には軽く触れただけだった。
タクミは常沖と固い握手を交わし、互いに労を労った。
「さすが早瀬タクミだな!人気はうなぎ登りじゃないか」
「ありがとうございます。それもこれも、常沖さんのお陰ですよ」
「いやいや、君に実力があったからこそだよ」
本当にありがとう、と、常沖は改めて礼を言い、タクミは恐縮した。
「じゃあ、また。何かあったら呼んで下さいね」
「あぁ。君も頑張って」
最後にまた握手し、タクミは林田に伴われてエレベーターに乗り込んだ。ビルの地下駐車場に車を停めていて、マネージャーが先に降りて車を回してくれる事になっている。
「お疲れ様でした」
「うん、君もお疲れさん」
ペコリと林田が頭を下げると、上着のポケットからカセットテープが落ちた。
「それは?」
「これはさっき、若い子が持ち込んだやつですよ」
「さっきって、あのロビーにいた、背の高い?」
打ち合わせ室に入る前、1階のロビーで林田といる若い男を見かけた。ひょろりとして、色白で、大人しそうな印象だった。タクミ自身も185センチと高く、目測ではあるが、恐らくその若者も同じぐらいの身長だろう。
「そうです。ちょっと陰気な感じのね。是非聞いてくれって、しつこくって」
そう言って林田は──困ったもんですよと──苦笑しながらカセットテープを拾う。
「聞いてあげなよ?」
「いやぁ、どうでしょうね。こうやってラジオ局に直接持ち込む奴、結構いるんですけど、どれもこれも大した事がなくって。時間の無駄ですよ」
肩を竦めた林田が、カセットテープを──存在に──ポケットに仕舞ったのとほぼ同時ぐらいに、エレベーターが地下に到着し、扉が開いた。タクミは降りながら、ふと思いついて林田を振り返った。
「なぁ、聞かないんならさー、俺が聞いてみていいかな?」
何故か、その若者の事が気になった。内気そうな若者が作った曲と言うのは、どんな感じなのだろうと言う、軽い興味もあったのは確かだ。
「え?タクミさんが?」
「いいだろー?」
「や、構わないですけど、時間の無駄になりますよ?」
「それは聞いてみないと分かんないじゃん。それに、最近の子がどんな曲を作るのかも気になるし」
手を差し出すと、林田は不思議そうな顔のままカセットテープをタクミの掌に置いた。
「タクミさんがそう言うんなら、どうぞ」
「あんがと。聞いたらちゃんと感想言うからさー。で、その子の名前は?」
カセットテープをジャンパーのポケットに仕舞いながら尋ねると、林田は胸ポケットに無造作に入れていた、クチャクチャのメモを取り出した。
「田中アユム……ですね。連絡先とかは聞いてませんけど、また来るって言ってましたね」
「分かった、そんじゃなー」
手を振り、タクミは駐車場へと繋がる扉に向かった。既に車がきているらしく、低いエンジン音が聞こえている。扉を開けると、タイミングを計ったかのようにマネージャーの三上が、運転席から出てくるところだった。
番組を終えてすぐ、常沖が満面の笑みを浮かべた。回りのスタッフも、やりきった顔をしている。
「お疲れ様です。素晴らしかったですよ」
リクエストのメールやFAX、電話も殺到し、番組の企画としては大成功だった。途中、ラジオ局前で死亡事故が発生したようで、俄に局内も騒然となった。報道番組ではなかった為、常沖の番組では、その事には軽く触れただけだった。
タクミは常沖と固い握手を交わし、互いに労を労った。
「さすが早瀬タクミだな!人気はうなぎ登りじゃないか」
「ありがとうございます。それもこれも、常沖さんのお陰ですよ」
「いやいや、君に実力があったからこそだよ」
本当にありがとう、と、常沖は改めて礼を言い、タクミは恐縮した。
「じゃあ、また。何かあったら呼んで下さいね」
「あぁ。君も頑張って」
最後にまた握手し、タクミは林田に伴われてエレベーターに乗り込んだ。ビルの地下駐車場に車を停めていて、マネージャーが先に降りて車を回してくれる事になっている。
「お疲れ様でした」
「うん、君もお疲れさん」
ペコリと林田が頭を下げると、上着のポケットからカセットテープが落ちた。
「それは?」
「これはさっき、若い子が持ち込んだやつですよ」
「さっきって、あのロビーにいた、背の高い?」
打ち合わせ室に入る前、1階のロビーで林田といる若い男を見かけた。ひょろりとして、色白で、大人しそうな印象だった。タクミ自身も185センチと高く、目測ではあるが、恐らくその若者も同じぐらいの身長だろう。
「そうです。ちょっと陰気な感じのね。是非聞いてくれって、しつこくって」
そう言って林田は──困ったもんですよと──苦笑しながらカセットテープを拾う。
「聞いてあげなよ?」
「いやぁ、どうでしょうね。こうやってラジオ局に直接持ち込む奴、結構いるんですけど、どれもこれも大した事がなくって。時間の無駄ですよ」
肩を竦めた林田が、カセットテープを──存在に──ポケットに仕舞ったのとほぼ同時ぐらいに、エレベーターが地下に到着し、扉が開いた。タクミは降りながら、ふと思いついて林田を振り返った。
「なぁ、聞かないんならさー、俺が聞いてみていいかな?」
何故か、その若者の事が気になった。内気そうな若者が作った曲と言うのは、どんな感じなのだろうと言う、軽い興味もあったのは確かだ。
「え?タクミさんが?」
「いいだろー?」
「や、構わないですけど、時間の無駄になりますよ?」
「それは聞いてみないと分かんないじゃん。それに、最近の子がどんな曲を作るのかも気になるし」
手を差し出すと、林田は不思議そうな顔のままカセットテープをタクミの掌に置いた。
「タクミさんがそう言うんなら、どうぞ」
「あんがと。聞いたらちゃんと感想言うからさー。で、その子の名前は?」
カセットテープをジャンパーのポケットに仕舞いながら尋ねると、林田は胸ポケットに無造作に入れていた、クチャクチャのメモを取り出した。
「田中アユム……ですね。連絡先とかは聞いてませんけど、また来るって言ってましたね」
「分かった、そんじゃなー」
手を振り、タクミは駐車場へと繋がる扉に向かった。既に車がきているらしく、低いエンジン音が聞こえている。扉を開けると、タイミングを計ったかのようにマネージャーの三上が、運転席から出てくるところだった。
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