死神とミュージシャン

たける

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死神の仕事は、人間の魂を狩る事ではない。多くの人間がそう思っているようだが、それは大きな思い違いなのだ。
我々は人間達に人生の残り日数を伝え、その最期を見送る役割を担っている。その、残り日数を我々死神に知らせる方法は極めて原始的で、4・5人毎の死神達に与えられた小屋に行き、映写機──他に物はない──から流れる人間の映像を見るだけだ。そこで仲間達と誰を担当するか相談して決めた後、映像と共に流れてくる、その人間の略歴──名前と性別、あとは年齢と職業と言った、履歴書にも書いてあるような事──をメモして、人間の住む世界に向かう。何も難しい事じゃない。
ただ、担当の人間に残り日数を伝える方法は我々死神の自由で、夢枕に立ったり、直接伝えたりだ。私は後者の方を選んでいる。その方が、長く人間の世界にいられるからだ。
人間の世界と言うのは、実に興味深い。いつも飽きる事のないぐらい、多くの物に囲まれている。特に私が人間の物で気に入っているのは、本だ。空想の限りを尽くした物語を読んでいると、私も死神だと言う事を忘れてしまう。
人間が人間でいる事に、時折嫌気がさすように、死神である事にも、時折嫌気がさすのだ。
それでも私は、ラジオ局にいる早瀬タクミに接触する為に、そのラジオ局が見える喫茶店に入って、味のしないコーヒーを──死神に味覚はない。痛覚や眠気もなく、面白味のない体質なのだ──飲んでいた。BGMにクラシックが流れているが、誰の何の作品かは、私は知らない。
どのタイミングで接触しようかと考えながら、暫く窓の外を眺めていると、ひょろ長い、若い男がラジオ局に入って行った。見るからに貧しそうではあるが、目だけは鋭い──死神は、視力と聴力は長けている──光を放っているようでもある。その男は5分程で出てきた。その姿を目で追っていると、男は道路を横断しようとしてトラックに跳ね上げられた。私の耳に、グシャリと嫌な音が聞こえる。どうやら彼は、最期を迎えたようだ。ちなみに我々は、担当の人間がどのような最期を迎えるかは知らない。他殺だろうが自殺であろうが、はたまた災害でかは、特に興味もない。ただ、無事に最期を迎えてくれたらそれでいいのだ。
若い男を跳ねたトラックは急停車し、運転席から慌てて男が飛び出してくる。そして事故があるとすぐ、人は集まってくるものだ。野次馬、と言うやつで、人の不幸を見る事に、何かしらの興味を持った者達だ。その中に私は、知った顔を見つけた。若い男を担当した仲間だ。そんな見送りが済んだ仲間に向けて、私はご苦労だったと呟いた。




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