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冷たい感触がする。とても心地よくて、フィックスは目を閉じたまま微笑した。
「何笑ってんだ?」
「ん……?ノッド……」
そっと目を開くと、ノッドが自分を覗き込んでいた。
「気持ち悪いな」
そう不機嫌に言うノッドを見上げながら、自分は確か、中庭でハンクと電話をしていた事を思い出す。そして電話を切って、それからどうしただろうか。地面が揺れていたような気がした。
「熱射病だろ。垣根のとこで倒れてたんだ」
起き上がると、額から湿ったタオルが落ちた。
「これ、君が……?」
タオルを掴むと──取り替えたばかりなのだろう──まだ冷たかった。
「他に誰がいるってんだよ」
ぶっきらぼうな口調は出会った時から変わらない。
「いや……ありがとう。いきなり迷惑をかけたみたいだな」
護衛の分際で助けてもらうなんて、なんと情けない話だろう。
「ホント、情けないな」
ノッドが呟いた。一瞬心を読まれたのかとドキリとするが、そんな筈はない。きっと偶然だ、と思い直す。
「偶然だと思うか?」
静かな閲覧室。その1番奥にあるソファにフィックスはいて、ノッドはそのすぐ側の席に座っていた。
彼がこっちを見つめてくる。
「偶然……だろ……?君も言ってたし、ストレイン博士だって、言ってたじゃないか。力はリモコンで止めてあるんだって」
そう言いながら、フィックスの胸は激しくざわめいていた。
頭の中に声が聞こえる。
『ハンクと付き合ってやるのか?』
「き……君……!」
そう言って目を見開くと、ノッドは人差し指を自身の唇に宛てがった。
『誰にも言うんじゃない』
再びそう聞こえ、フィックスは言葉も出なかった。
「馬鹿な、だって?助けてやったからいいじゃないか」
ノッドは立ち上がると、まだ軽く放心しているフィックスの肩を叩いた。
「赤毛……」
彼の手が髪に触れる。
指先に髪がじゃれるように絡むのを、ノッドは微笑しながら楽しんでいるようだ。だがフィックスは、それよりもノッドの顔が近くにある事が気になっていた。
間近に見る彼の肌は綺麗で、瞳も茶色が美しい。触った感触も人と変わりないのだろうかと思う。
「触れば……?」
視線が絡み、フィックスはそっと彼の頬に触れた。指先が確かな弾力に押し返され、質感も人と同じだった。体温もある。温かい。次に髪に触れる。指でノッドの黒い髪を掬い、そっと手の平で握る。硬い、男性特有の質感だ。
「綺麗だな……」
そう呟いたノッドが、またフィックスの頭に語りかける。
『瞳も、髪も』
顔が熱くなるのを感じる。と、更にノッドの顔が近付いた。
『助けてくれ……』
唇が重なった。
嫌な気はしなかった。それよりも、聞こえてきた言葉が気になった。
「それは、どう言う……?」
「俺を救ってくれよ、フィックス」
また唇が重なり、フィックスはそっと目を閉じた。
「何笑ってんだ?」
「ん……?ノッド……」
そっと目を開くと、ノッドが自分を覗き込んでいた。
「気持ち悪いな」
そう不機嫌に言うノッドを見上げながら、自分は確か、中庭でハンクと電話をしていた事を思い出す。そして電話を切って、それからどうしただろうか。地面が揺れていたような気がした。
「熱射病だろ。垣根のとこで倒れてたんだ」
起き上がると、額から湿ったタオルが落ちた。
「これ、君が……?」
タオルを掴むと──取り替えたばかりなのだろう──まだ冷たかった。
「他に誰がいるってんだよ」
ぶっきらぼうな口調は出会った時から変わらない。
「いや……ありがとう。いきなり迷惑をかけたみたいだな」
護衛の分際で助けてもらうなんて、なんと情けない話だろう。
「ホント、情けないな」
ノッドが呟いた。一瞬心を読まれたのかとドキリとするが、そんな筈はない。きっと偶然だ、と思い直す。
「偶然だと思うか?」
静かな閲覧室。その1番奥にあるソファにフィックスはいて、ノッドはそのすぐ側の席に座っていた。
彼がこっちを見つめてくる。
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そう言いながら、フィックスの胸は激しくざわめいていた。
頭の中に声が聞こえる。
『ハンクと付き合ってやるのか?』
「き……君……!」
そう言って目を見開くと、ノッドは人差し指を自身の唇に宛てがった。
『誰にも言うんじゃない』
再びそう聞こえ、フィックスは言葉も出なかった。
「馬鹿な、だって?助けてやったからいいじゃないか」
ノッドは立ち上がると、まだ軽く放心しているフィックスの肩を叩いた。
「赤毛……」
彼の手が髪に触れる。
指先に髪がじゃれるように絡むのを、ノッドは微笑しながら楽しんでいるようだ。だがフィックスは、それよりもノッドの顔が近くにある事が気になっていた。
間近に見る彼の肌は綺麗で、瞳も茶色が美しい。触った感触も人と変わりないのだろうかと思う。
「触れば……?」
視線が絡み、フィックスはそっと彼の頬に触れた。指先が確かな弾力に押し返され、質感も人と同じだった。体温もある。温かい。次に髪に触れる。指でノッドの黒い髪を掬い、そっと手の平で握る。硬い、男性特有の質感だ。
「綺麗だな……」
そう呟いたノッドが、またフィックスの頭に語りかける。
『瞳も、髪も』
顔が熱くなるのを感じる。と、更にノッドの顔が近付いた。
『助けてくれ……』
唇が重なった。
嫌な気はしなかった。それよりも、聞こえてきた言葉が気になった。
「それは、どう言う……?」
「俺を救ってくれよ、フィックス」
また唇が重なり、フィックスはそっと目を閉じた。
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