道化の情

第５章

５─１

マイケルが自殺した事を受け入れられなかったデニスは、夜になる度街へ赴き、弟にヘロインを売った人物を捜していた。その事はハングマンも聞いて知っており、黙認していた。
ハングマン自身も、マイケルが自殺したと信じたくなくて、怒りのぶつけ先を探していた。そして１ヶ月もしてデニスがナターシャ・メロウを捜し出し、ハングマンに殺害意志がある事を話た。その時ハングマンも復讐を誓った。
元来デニスは童顔で可愛い顔をしているので、メロウに気があるフリをするだけで、彼女はその気になったらしい。現に男子禁制のマンションへも、デニスをミカルに仕立ててまで連れ込んでいる。その上、殺されるとも知らずに呼び出されたあの夜も、メロウは精一杯着飾っていた。
だが現れたのはミカルでもデニスでもなく、殺意を持ったピエロだった。
ハングマンは事件当夜、デニスがナターシャを呼び出す電話を聞き、彼に睡眠薬入りの飲み物を出して眠らせた。そして自身が、待ち合わせ場所となった、マイケルの遺体が発見された裏路地に向かい、背後からメロウを襲った。
彼女が巻いていたスカーフを掴んで引き上げると、小柄なメロウの足は宙に浮き、僅かな抵抗を見せた。その時にスカーフへ彼の唇が触れてしまい、口紅とドーランが付着したのだろう。
そして抵抗した彼女のポケットからヘロインと注射器が落ち、ハングマンは彼女を地面に押し付けてそれを全て投与した。咄嗟にヘロインを使おうと思ったのは、それがマイケルの死因にもなっていたからだと言う。
結果、メロウも中毒死したが、ハングマンは念のためにスカーフで首を締め、帰宅した。
ドーランと口紅を塗った理由については、メイクをしていれば例え目撃されたとしても、正体がバレないと思ったからと話した。
ハングマンが帰宅してもデニスは眠っていて、彼が目を覚ましたのは約束の時間を４時間も過ぎてからだった。デニスは起きてすぐナターシャに連絡をしたが、彼女は電話に出なかった。そして翌朝、ナターシャの死はニュースで伝えられ、デニスは憤りを必死に抑えたと言う。ハングマンはその時、彼を慰めてくれたらしい。