道化の情

たける

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第3章

3─2

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ナシャンテ通りを2本行き過ぎると、町工場が密集する場所があり、デニス・グリードはそこにほど近いアパートに住んでいた。平日は工場から騒がしい音が響いているが、今日は日曜日の為静かだ。
ローレン達が警察手帳を見せると、彼は険しい顔になった。

「マイケルの件で、何か進展でもあったんですか?」

狭い玄関を抜けてリビングに入るとすぐ、マイケルの写真が見えた。

「いや、そうじゃないんだ」

ローレンがそう言うと、マイケルはさっさとキッチンへと立った。

「貴方に見て貰いたい物があるの」

そう言いながら似顔絵を取り出したジェシカは、それをテーブルに置いた。

「マイケルの事じゃなかったら、何だって言うんですか?」

きつい口調で尋ね返すデニスを見遣ってから、マイケルの写真に視線を向ける。そこには、現在に近いマイケルが写った物もあったが、幼い男の子が2人、ピエロに肩を抱かれ笑う写真もあった。
とても幸せそうに笑っているマイケルだが、今朝ローレン達は、調書に書かれていた虐めを確認する為、彼の担任教師に会いに行った。調書でデニスは虐めを否定し続けていたが、担当刑事の調べでは、マイケルは酷い虐めにあっていた、とあった。そしてローレン達が聞いた話でも、教師は虐めを認めた。

「この子達は君とマイケル?」

そっと写真立てを手に取る。

「勝手に触らないで」

トレーにコーヒーを乗せてきたデニスは、厳しくそう言った。ローレンは写真立てを戻すと、ジェシカと共にソファへと腰掛けた。

「あの写真は、確かに俺とマイケルと、レナードさんだよ。もう10年も前に撮ったやつだ」

そう言いながら向かいに腰を下ろしたデニスから、ローレンは僅かな化粧品の匂いを嗅ぎ取った。
何故彼から?と思いつつ、似顔絵を手に取ったデニスを観察する。

「その人に見覚えはないかしら?例えば、マイケルの知り合いだったとか」

早速コーヒーに口をつけながら、ジェシカはそう尋ねた。

「さぁ……知らない。マイケルは友達を、家に連れて来たりしてなかったみたいだから」

そう言ったデニスの顔が、僅かに強張っているように見える。多分、知っている。そう思ったローレンは─少し前傾になりながら──彼を見つめた。すると、似顔絵に描かれたミカルとデニスが似ている、と気付いた。

「その人は、ミカルって呼ばれてるみたいなんだ。女性みたいだけど、男だって事も分かってる」

もしかしたらミカルは、デニスなのではないか。そう思いはするが、まだ彼だと断定出来る証拠はない。だがローレンは、デニスを揺さ振る為にそう言った。ジェシカは黙っている。

「お……男?嘘だ」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、口紅してる」

そう言うと、デニスは微かに震える手で似顔絵を突っ返してきた。

「変装してたのかも知れないよ……?」

そうローレンが言うと、ジェシカはカップを置いた。

「デニス、貴方はマイケルが虐められていた事を、知ってたんでしょ?」
「知らない……!それは前に来た刑事にも話した!マイケルは、俺に何も言わなかった……」

悔しげに噛み締められる唇。デニスは、マイケルから話を聞いてやれなかった事を、後悔しているようだった。

「マイケルの死因は知ってるよね……?」

似顔絵を仕舞いながら、ローレンは優しく尋ねた。

「薬中だったって。マイケルがヘロインをやってたって……!そんなの、知らなかった……」

涙を拭うデニスに、ローレンは懐からハンカチを取り出して手渡すと、彼はそれで涙を拭い、睨みながら返してきた。

「なぁ、刑事さん。マイケルに薬を売った奴が犯人なんだ……!逮捕してくれよ!」

今にも掴みかからん勢いで訴えるデニスに、ローレンは鋭い視線を向けた。

「デニス、君はマイケルに薬を売った人物を、知っているんじゃないか?」

そう言うと、デニスはハッとした顔をした。

「その人なら、先週殺されたんだよ。僕達はその犯人を追ってる。何か知っているなら教えてくれ、デニス」

ローレンは再び似顔絵を取り出し、彼に見せた。

「君に似てる」

そうローレンが言い寄ると、デニスは似顔絵から目を逸らした。
握られた拳が震えている。

「帰ってくれ……!俺は何も知らない!」

そう激昂したデニスは顔を赤らめ、泣いていた。ローレンはそれ以上追求しようとせず、ジェシカに目配せをした。

「話す気になったら、署の11階に来てちょうだい」

俯き、黙るデニスを見遣りながら、ローレン達は彼の部屋を出た。

「彼がミカルね」

廊下に出るなり、ジェシカはローレンを見上げた。

「うん、僕もそう思う。同一人物だと言う証拠はないけどね」

似顔絵をジェシカに手渡したローレンは、デニスの部屋と隣接している、ハングマンの部屋の前に立った。

「確かに、証拠はないけど、きっと同一人物ね。このぱっちりした目とか」

そう言ったジェシカに微笑しながら、ローレンは扉を叩いた。だが、部屋の住人は留守らしく応答はなかった。

「どうしたの?」

振り返ったローレンに、ジェシカは首を傾げながら尋ねた。

「レナード・ハングマンは、2人の両親が亡くなってから親しくしている存在なんだ。マイケルが虐められていた事も、以前証言してる。だから、事件について何か知っているんじゃないかなって」

そう言ったローレンは、彼が犯人ではないか、と疑っていた。
デニスの部屋に飾られていた写真に、幼い頃の兄弟とピエロが写っていて、彼はそのピエロをレナードだと言った。メロウの首筋に付着していたドーランは、ピエロもメイクをする時に使用する。そして調書には、ハングマンが182センチの大男だとも書かれていた。
彼がマイケルの死にメロウが関わっていると知ったのは、多分デニスからだ。そうか、彼が独自に捜査して、行き着いたのか。
どっちにしろレナードから詳しく話を聞かなければならない。




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