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たける

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1.村上ハヤト

4.

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意識が戻ると、僕はベッドの上に横たわっていた。

「ミノル……」
「村上君……目が覚めた?」
「僕……」
「村上君、昨夜話していた事なんだけど、ミノル君は亡くなったの……容態が悪化して……」

そう言った声は震えていて、僕はそれを真実だと受け止めるしかなかった。
目頭が熱くなり、むず痒い感触がこめかみを這う。

「うぅ……ミノル……」

今僕は泣いている。
家族を失った時と同じ様に。

看護婦が出て行く音がし、病室は恐ろしいまでの静寂に包まれた。かと言って、全くの無音な訳ではない。遠いところから、談笑する微かな声や、医師を呼ぶ放送が聞こえている。

『ハヤト、泣かないでくれ。俺が死んだのは、何もお前のせいじゃないんだから……』

不意にまた声がする。
幻聴が聞こえる程、僕はミノルを想っていた。

「僕のせいだ……」
『違うよ。ハヤトのせいじゃない。俺が死んだのは、自分の意思だよ』

まるで幻聴と会話しているかのようだ。僕は口をつぐむと、ミノルの声に耳を傾けてみた。

『俺はお前が好きだったんだ……けど、気持ち悪がられたらどうしようって、ずっと悩んでたけど……言っておけば良かったと思ってる』
「ミノル……?いるの?」
『うん、いるよ。お前の側に……でも俺はどうやら、幽霊みたいなんだよね。誰にも見えないみたいだし、声だって、ハヤトにしか聞こえないみたいなんだ』

苦笑する声がして、僕は闇の中にその姿を思い描いた。

あぁ……見えなくなっても、僕はミノルをありありと描く事が出来る。何も見えないからこそ、何の邪魔もなく、ハッキリと。

「幽霊……?フフ……まるで漫画みたいだね」
『俺もそう思うよ。けど、それが真実だから……』
「初めて、目が見えなくなって良かったって思ったよ。もし見えてたら、僕もミノルが見えてなかったかも知れない」

死んだ筈のミノルが、幽霊になって僕の側にいる。触れられないけれど、それでも僕にとって生き続けようと言う理由になった。

「実は……僕もミノルの事が好きだったんだ。君と同じ理由で言えなかったけど……」
『ハヤト……嬉しいよ。でも少し悔しいな。生きてる間に両思いだったって知りたかったよ』

残念そうな声。それも僕と同じ気持ちだ。

「今から両思いだからね。僕、君が側にいる限り、生きるから」

いなくなったら、その時は僕も死んでしまおう。
光も大切な人も失った僕に、それでも生きろと言うのは酷な話だから。

『いつまでも側にいたいよ。ハヤトに寿命がくるまで……けど、俺にもいつまで君の側にいられるか分からない。だけど側にいる限り、ハヤトの目になるし、守るから』
「うん。ありがとう」

眠るのが少し怖い、と言うと、ミノルはまた苦笑した。
だって目が覚めて、ミノルがいなくなっていたら?そう思うだけで恐ろしい。だけど眠りは、どんな状態にあっても訪れるものらしい。それは食欲と同じで、人間にある元来の欲求なのだ。

『お休み、ハヤト』
「お休み、ミノル……」

不安はあれど、僕は少しずつ眠りに落ちて行った。




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