Prisoner

第１３章

２．

目を覚ますと、白い天井がぼやけて見えた。手が誰かに握られている。
クレイズは、まだ麻酔の抜けきらない頭をゆっくり右に傾けた。

「ドー……ズ」

声が少し枯れている。

「クレイズ……おはよう」

そう言ったドーズの声は、濡れているように湿っぽい。
徐々に自分の状況を把握し出したクレイズは、あぁ、とため息を漏らした。

「そうか……ここは、病院か」
「クレイズ、話しはカルロスから聞いたよ。カルロスの奥さんに刺されたんだってね」

そうだった。カルロスの妻ダリアがやって来て、腹を何度も刺された。そして帰宅したカルロスに、病院へ運んでもらったのだ。
だがそれからの記憶はない。意識を失ってしまったのだろう。
ドーズがやつれたような笑みを見せた。

「だから言ったじゃないか。危険な事はしないでくれって」

笑みは、今にも泣いてしまいそうに戦慄いている。
心配をかけてしまったな。そうクレイズは思った。

「カルロス……は？」

自分を運んでくれたカルロスの姿が見えない。ドーズは握っているクレイズの手にキスをした。

「彼は、奥さんに話しを聞くと言って帰ったよ」

そうドーズに言われ、クレイズは色々考えなければならない事があると思った。だが、鈍いこの頭では、いい案など浮かぶ筈もない。
そう思っていると、ドーズが髪を撫でてきた。

「さぁ、クレイズ。話しは明日にしよう？今日はゆっくりお休み。僕が側にいるから」

優しい言葉だ。
仕事は？リリは？ゲイナーは？ハリスは？
色々聞きたかった。この中で、１番重要視しなければならないのがリリの件だ。だが、妻が傷害事件を起こしたのだ。カルロスとて、すぐにリリをどうこう出来はしないだろう。
そう思うと、少し楽になった。正直、カルロスの思考の先を行くのは困難で、面倒だ。とても煩わしくて、欝陶しい。
だが今は。今日だけは、それから開放される。

「ありがとう、ドーズ」

この男を、いつかマイクと呼べる日がくるだろうか？そう考えながら、クレイズは重い瞼を閉じた。